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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直前 その08

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 ユウとアルカがレベリングをしていたのもまた、ワールドクエストに備えてのこと。
 彼女たち曰く、せっかく上げられるのだからトコトン上げておきたいんだとか。

 本来、人族のレベル上限は250。
 それ以上に至りたいのであれば、何らかの形で限界を突破する必要があった。

 彼女たちの場合、俺が渡した<大罪>を冠したスキルによって条件を満たしている。
 そのため際限なく強くなれる彼女たちは、それを生かすべくレベル上げを計った。


「──要するに、クエストは受けると。しかもアルカの転移でカバーできる範囲は可能な限り全部。ずいぶんとまあ、【傲慢】なお考えですなユウ」

「師匠に負けないように頑張ってみます」

「……それに巻き込まれる、私の身にもなってくれるかしら?」


 ユウ個人では転移を使えない。
 眷属の恩恵で引き出すことは可能だが、おそらく燃費が悪いだろう。

 本人の適性もあるし、そもそも空間魔法自体が初心者向きではない。
 なのでその使い手であり、空間魔法士の職業をカンストさせているアルカに頼った。


「まあ、どう参加するのも自由だろう。たださぁアルカ、あんまりやり過ぎて地形を変えたりしちゃダメだからな」

「……分かってるわよ」

「最悪、その辺りの責任はユウに取らせておけばいいさ。魔力切れになるまで働かせて、反省を促せば──」

「最初からそのつもりよ」


 アルカ!? と驚いている様子だが、それこそが頼ったユウの支払う物なのだろう。
 逆に魔力の枯渇で苦しむ程度で、アルカの力を借りられるのであれば安いはずだ。

 二人ともレベルはティンスとオブリよりも上だし、正直何処まで上がるか期待してしまう……だが同時に、あることだけは懸念してしまう。


「あの……アルカさん、一つお聞きしたいことがあるんですが」

「急にへりくだるわね……どうしたのよ」

「そのー、レベルが上がったからと言って、さっそく勝負よ……なんて、絶対に言ったりしませんよね?」

「最初からそのつもりよ」


 ヒィ! と雑魚キャラのような声を上げてこの場から去る俺。
 さっきと同じ台詞なのに、感じる恐怖が全然違う!

 冗談じゃない、俺は帰らせてもらう……あの子に言うことがあるんだからな!
 なんて死亡フラグを重ねながら、命からがら脱出するのだった、


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第四世界 死戦の大地


 死亡フラグマシマシでの退場だったが、幸いにもアルカが追いかけてきて強制的に勝負といった展開にはならずに済んだようだ。

 次の眷属の反応を調べて訪れたのは、ただ地平線が広がる広い迷宮。
 無尽蔵に現れる魔物たちを処理し、レベル上げを計る少女が独り。


「イア、暇か?」

「突然ね……見ての通り大忙し」

「そうか。なら、一度終わらせてくれ」

「ハァ……まあいいわ──“真龍化”」


 彼女は竜人族であり、今は進化して龍人へと至った祈念者。
 さらに大当たりなアバターを引いたため、『真龍化』という力を発現している。

 その詳細は、龍化を完全に制御して人型の龍になるというもの。
 具体的には、彼女の要所要所に各龍のパーツがセットされるのだ。

 ……システム的なことを言ってしまうと、要するに部品ごとの龍化の統合。
 ただしその分だけ、使いこなした際の性能が上がっている。


「すぐに終わらせるわ──『突撃』!」

『──ッ!』


 彼女が声高々に告げると、少し離れた場所で戦っていた魔物たちに変化が。
 一気に能力値が上昇し、その力で周囲の魔物たちを殲滅し始める。

 それは彼女が従える魔物たち。
 召喚士である彼女が、己を成長を顧みず可愛がった結果──何度も進化を重ねて強さをも得た個体たちだった。

 イアもまたその手に剣を携え、戦場に向かい魔物たちを屠っていく。
 俺はお茶を用意して、彼女たちの激戦が終わるのをじっと待つ。


「どれくらい時間が掛かるかな」

「そんなに時間は掛けない……ああもう、鬱陶しい──“真龍炎トゥルー・ドラグンフレイム”!」


 大きく息を吸い、それを吐き出す。
 ただし龍人なので体内で魔力を変換し、その息は業火のごとく燃え盛る。

 魔法として体系化した息吹を、より魔力を注いで強化したようだ。
 お陰で彼女が向いていた方に溢れていた魔物たちが、すべて灰燼と化した。


「そうしてイアたちはどんどん魔物たちを処理していき……やがてこの地は、屍たちにより埋め尽くされるのだった」

「……急に何なの? というか、魔物は迷宮だから勝手に消えるわ」

「まあ、それもそうだな。イア、今日もお疲れ様。その外套、似合ってますぞ」

「! そう……」


 アップグレードした俺の外套は、これまでよりもだいぶ性能が良くなっている。
 いろいろと仕込んでおいたので、これからも愛用してもらいたいものです。


「ところで、何をしに来たの?」

「意識調査……ってヤツか? いろいろと確認に来たんだが」

「ああ、それならもうちょっと待って。この後、もう一人来る予定だから」

「もう、一人……!?」


 えっ、あのソロでしか動かないことが有名なイアさんが、別の人と!?
 そんなことを考えているのがバレたみたいで、目がジトーっとした感じに。


「……これまで実際そうだったから、あまり否定はしないけど。でも、絶対にしないわけでもないから」

「悪いって。ところで、誰が来るんだ?」

「さぁ、見てのお楽しみってことで」


 待っている内に、おそらく魔物がまた現れるだろうが……まあ、それはその来た人に処理してもらえばいいか。


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