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偽善者と混乱の牙 三十二月目

偽善者と大規模レイド直前 その07

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 第四世界 不動の滝壺


 轟々と膨大な量の水が降り注ぐ迷宮。
 それこそが、【忍耐】のイメージから俺が生みだしたこの場所。


「さて、二人の反応はここにあったが……どこに居るんだ?」


 条件を満たした者以外は入ることなどできないが、彼女たちはそれを満たしている。
 なんせそのモチーフとなったものを、彼女たちのうち一人が有しているのだから。


「居た。ティンス、それにオブリ……『少しいいか?』」


 彼女たちの姿は、ちょうど滝の落ちる直下にあった。
 共に瞑想のように座禅を組んで、ジッと滝に打たれている。

 声を掛けようとするものの、滝の音がデカすぎて通常の会話をすることなどできない。
 なので魔力を練り上げて口に含み、言葉と共に彼女たちの下へ送る。

 念話よりも原始的な方法だが、魔力の密度さえ濃ければしっかりと届く。
 すぐ俺に気づいた彼女たちは、パチリと閉じていた目を開いた。


「『ああ、悪い。気の済むまでそこに居てくれて構わない。ここの仕様は分かるから』」


 そう伝えると、再び目を閉じてジッとし始めるティンスとオブリ。
 しばらくして、滝壺の底の方から粒子が登り始め……座禅を解く二人。

 共に自前の翼を持つ二人は、蝙蝠の羽と半透明な蝶の羽を広げて飛んでくる。
 そして、その片方が超加速して俺の下へと突っ込んできた。


「お兄ちゃぁあああん!」

「オーブリィイイイイ!」

「「ひしっ!」」

「……それ、何の茶番なの?」


 まあ、わざわざ抱き合う効果音まで二人で言っているもんな。
 特に意味は無かったけど、それなりに楽しいと思えました。


「よう、お二人さん。しかしまあ、よくここでレベリングをする気になるな」

「……自分で造ったんでしょ? それに、何もしないのには慣れているわ」

「うぅ、私は少し苦手だけど……でも、お姉ちゃんといっしょだから平気!」

「ありがとうね、オブリ。そういうわけだから、本格的に侵攻が始まるまではレベル上げに努める予定よ。どうせ貴方のことだから、そのことを確かめに来たんでしょ?」


 なんというか、お察しの通りで……。
 ティンスはそういう読みが鋭いので、細かい説明を省けて助かるな。


「ところでここ、どういう考えの基で設計したのよ? 動いたらダメで、そのまま居たら生き残れるって……」

「【忍耐】の迷宮だからな。挑戦者はただ滝に打たれて、ひたすら水中の魔物が全滅するのを待てばいい。全部居なくなったら、その後で下にある核に触れる……結構簡単な迷宮だと思うんだけどな」

「……常時全部の身力を吸われる上に、水面にいつでも自分たちを殺せる魔物が居る。そういう状況で平然としていることを強要するのは、間違いなく簡単とは言わないわよ」

「吸い上げも1で停止するし、魔物も直接攻撃をしてはこないんだけどな。ちゃんと入り口の立て札にもそう書いたはずだが?」


 俺だって、理不尽に敗北確定の迷宮を用意しているわけじゃない。
 まあ、ルール違反で動いたら、容赦なく水中の魔物が殺しに来るんだけど。


「『汝、待てばなんとかなるさ』……って、バカじゃないの?」

「なっ、バカとは失礼な! 俺なりに考えて考え抜いたヒントなんだぞ!」


 まあ、徹夜のノリで書いたような気もするけど……いちおうヒントのはずだ。
 実際に待てば魔物は勝手に死ぬ、そして道は開かれるのだから。

 なお、途中リタイアができるように魔物が再補填されるには若干の間がある。
 その間なら、ある程度動きが取れる……そこをどう生かすかが裏技のコツだな。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 第四世界 王者の一本道


 これまた俺の持つスキルをモチーフに造り上げた迷宮に、祈念者の眷属が居るようだ。
 ただただひたすら、真っすぐな一本の道だけが存在するのがこの迷宮。

 空も地面も存在せず、ただ真っ新な白い道だけがどこかへと続いている。
 後戻りはできない、道から外れたモノには相応の代償を支払う義務が生まれるから。


「おーい、ユウとアルカー!」

「あっ、師匠! ……って、そんな堂々と歩いてきていいの?」

「まあ、俺は例外ってことで。それよかお二人さん、少し休憩しませんか?」

「……少しだけよ。まだレベル上げが足りないんだから」


 二人の了承も得て、休憩時間を取る。
 その前に指を鳴らす──辺りに蔓延っていた膨大な量の魔物たちが、それに籠められた意図を感じ取り、その場を離れていく。


「とまあ、こんな感じで。【傲慢】たる者、王者としてこれくらいしないとな」

「……で、本当のところは?」

「一番最初に造ったから、仕掛けも結構盛大に仕込んであります」


 ジト目のユウに問われて、つい軽くなった口がネタバレをしてしまった。
 だがそれを聞いても溜め息を吐くことしかしない二人、どうかしていると思います。


「まあ実際、ここの魔物は圧倒的な格の差を見せつければ大人しくなる。その分、格下には全力で八つ当たりするけど」

「格下って……僕たち、レベルなら250を超えているんだよ?」

「それでも足りないからレベル上げに来たんだろうに。たしか職業の方は、極級職なら無制限に上げられるって話だし。把握はしていないけど、大罪の【魔王】は極級だから就いてみたらどうだ?」


 あっさりと言ってみるが、彼女たちはどうやら消極的。
 まあ、好き好んで【魔王】になる必要も無いか……それよりちゃんと訊かないとな。


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