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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と新人研修 その04

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 第四世界 静寂の黄金畑


 色鮮やかに光り輝く畑。
 それらが突如として眼前に広がったとき、人々はどのような反応を示すだろうか。


「ど、どこなのよここは!」
「た、たしか私たちは、ギルドの地下から出たはず……」
「…………」


 三者三様、どれも異なる反応だ。
 一人は驚き、一人は振り返り、一人は……周囲の情報から何かを探っている。


「ここは迷宮の中だ。主に、アイテム採取目的の場所だな。ここでお前たちにやってもらうこと、それは──スキル上げだ!」

「スキル上げって……この私にいったい何をさせようとしているのよ!」

「いいか、スキルはポイントが無くとも頑張れば獲得できる。そしてそのスキルのレベルが上がれば、ポイントを増やして新しいスキルを得ることができる。これから三人には、そんな習得が簡単なスキルを取ってもらう」


 うちの世界の子供たち用に用意したこの迷宮は、若干ではあるが経験値などに補正が入るようにしてある。

 畑から少し離れた場所に安全な魔物も出現するので、ここはまさに子供の特訓場。
 それを今日は貸し切りにして、彼女たちにいろいろとやってもらう予定だ。


「アイテムを取る採取、周囲を探る探知、歩く補正の歩行、文字通りの集中……まあ、この辺りはここで獲得できるだろ。ござるは歩行の方は持っているみたいだし、代わりに体幹でも獲得してもらおうか」

「可能にござろうか?」

「やるだけやってみよう。方法はちゃんと分かるからな──この本のお陰で」

「……『誰でもできる簡単スキル習得本』」


 花子(仮)でも気になるようなタイトルをしたこの本、Z商会で購入したモノである。
 ポイント無しでも習得可能なスキルを調べることができるので、これを使うのだ。


「とりあえず、一人ずつこれに手を載せてから『検索:習得可能』って言ってみろ。そこに載っているスキルなら、ほぼ確実に習得することができる。これがあれば、ポイントを無駄遣いしなくて済むぞ」


 彼女たちも、これを拒否する理由は無い。
 俺が渡した本に触れて、それぞれが自分の習得可能スキルを調べていく。


「よし、三人ともさっき挙げたスキルはとりあえず習得可能だな。ござるも体幹を頑張れば取れる。問題は花子だが……まあ、とりあえず欲しいのを見てみればいい。一月の間なら、読むのも覚えるのも自由だから」

「……なら、そうさせてもらう」

「さすがに固有スキルは無いけど……初期から限界突破があるのは優秀だな。まあ、やらなきゃ得られなかったわけだし、これも俺が師事しているお陰ってことか?」

「…………」


 ありゃりゃ、無視されちゃった。
 しかしまあ、花子(仮)はどうやらポテンシャルが異様に高いようだ。

 さすがに『超越種』であるニィナほどでは無いが、それでも人並み外れた適性がある。
 本人にやる気があれば……とか、絶対そういうことを言われていたパターンだよな。


「あー、そこの少しショック気味な二人。別にスキルがあればあるほど便利ってわけじゃないからな。多く取れば取るほど、成長に必要な熟練度的なものが増える。それを補える天才ならともかく、普通は無理だからな」

「そうなの?」
「……でござるか?」

「現実でも、やることが多ければその分、習熟に必要な時間も増える。ゲームでも、複数のメンバーを同時にレベル上げしようとすれば、それだけ時間が掛かるだろ? 要はそういうことだ」

「……よく分かりませんわ」
「このゲームが初めてでござる」


 お嬢(仮)はともかく、ござる(仮)も本物の初心者だった。
 まさかと思い花子(仮)を見るが、そちらは首を横に振っている……経験者か。


「あー、ともかくだ。最初の例で、ある程度は分かったはずだ。習い事だって、多ければ多いほど大変だからな。えー、あんまり説明は上手くないんだ。習うより慣れろ、ともかくやってみてくれ」


 いちおう成長補正の掛かる教育や指導、指示スキルなどを起動していた。
 俺のチート級補正には圧倒的に劣るが、それでも常人よりは素早い成長が見込める。


「花子もそれでいいな?」

「……うん」

「よし、ならやり方を言うぞ。可能な限り、意識して実践してくれよ」


 先ほど挙げたスキルの、効率的な取り方を口頭で説明していく。
 決して難しいことでは無いので、言い終えたら彼女たちも作業を始める。

 俺はそんな彼女たちが触れた魔本から、履歴を呼び起こして調べ事。
 彼女たちに適したスキル、その中に当たりが無いかを探っていく。

 ……彼女たちの経験は俺の糧になるのだから、全面的に協力したくもなるのさ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺も知らないスキルが気になり、調べたりして時間を潰して数分。
 花子(仮)が採取を中断して、俺の方に近づいてくる。


「……ねぇ、一ついい?」

「うん、どうしたんだ花子」

「結局、正解はなんだったの?」

「正解……ああ、俺が何をしたかだな」


 とりあえず生徒にするため、詐欺に近い話術でどうにか誤魔化していたからな。
 けど結局、誤魔化せなかったか……気づいたからには教えるか。


「彼女たちには何もしていない。俺がやったのは花子、お前だ」

「……私に?」

「そう、俺はお前にデバフを送った。内容はシンプルに、思考の制御。とはいえ、そこまで洗脳染みたものじゃなくて……花子がアイツらを、評価できなくしていただけだ」

「…………」


 精神魔法“真理誘導トゥルーライン”。
 相手の考えを少しずつ歪める魔法だが、元からの思考であればそれを固定するといった形で使うこともできる。

 彼女はその魔法の影響もあって、彼女たちに対する認識が歪んでいた。
 自分よりも弱い、だからこそ警戒するのは別の場所……勝手にそう信じ込んで。


「……どうすれば、防げる?」

「逆に聞くぞ、どうしてそれを求める? それ次第で、教えられる方法も違う」


 真面目な話と感じ取ったのだろうか、彼女はこちらをしっかりと見て理由を語りだす。


「私は、負けたことが無かった。何でもできて、何も失敗しなくて……だから、この世界なら変わるかもと思ったけど、結局何も変わらなかった」

「で、今回負けたからビックリだったと?」

「絶対に勝ち目が無いわけでも、前提に勝つ手段が無いわけでもない。純粋に、自分の問題で負けたのは初めて。だから、次があるなら、同じ負け方はしたくない」

「そういうことか……一番簡単な方法は、耐性スキルを習得することだ。けど、これもポイントが無くとも習得できる。正直、可能な限りポイントは溜めてほしい。その方法で、やってくれるか?」


 少し悩んだ後、彼女は首を縦に振る。
 精神耐性、そして本人の希望でそれ以外の耐性スキルの習得方法を伝え……再び採取へ戻っていった。


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