上 下
1,997 / 2,518
偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と新人研修 その03

しおりを挟む


 ──結論から言う、花子(仮)は負けた。

 しかし、彼女はまだ負けていない。
 自分が負けた理由を暴くことができれば、勝利条件を満たしたことになるからだ。


「さて、花子。自分がどうして負けたのか、その答えが分かるか?」

「それを答えにするよね」

「そのときは、ファイナルアンサーとでも言えばいい。好きなだけ言って、そのときの俺たちの仕草を読み取るのだって、立派な作戦なんだろう?」


 ビクッとするのはお嬢(仮)、対するござる(仮)は平然と……あっ、目が泳いでる。
 少し心配ではあるが、それでも仕掛けを当てられるとは思っていない。

 俺の漏れ出る自信を嫌がるように目を逸らし、花子は順に考えを話し始める。


「最初は何かレベルを底上げしたのかと思った。全体的に強化されて、苦戦すると……でも違った。あっちのお嬢様は鈍臭くて、忍者も十全に動けていなかった」

「動きだけでレベルじゃないと考えたか。切り捨てるにしても、早すぎじゃないか?」

「そうでもない。実際、レベルで能力値を底上げされていたら、もっと早く終わっていたもの。忍者がある程度同じ能力値だったからこそ、途中まではこっちが優勢だった……だからレベルは違う」


 初め、花子(仮)とござる(仮)は開幕すぐに打ち合いを行っていた。
 共に短剣を使っての速攻……しかし、結果としてそれは決まらない。

 花子(仮)は変則的な動きで翻弄し、ござる(仮)は型のような動きでそれを捌く。
 その型を花子(仮)はどんどん学習して、攻撃を届かせる──直前で変化が起きた。


「途中でお嬢様が従魔を向けていなければ、忍者には致命打を与えられていたかも。でもできなかったから、この後に響いた」

「お嬢を警戒していなかったのは、花子が舐めていたからだろう? こっちの世界なら、本人が弱くても勝つための手段はいくらでもある。魔法職は紙装甲とか、そういう言葉もあるんだ……弱くても強いが存在する」

「従魔自体は弱かったけど、私の死角を突いてきていた。だから反応に遅れるし、じわじわと削られた」

「実際、観ていた限りだとお嬢の方がHPを減らしていたぞ。そういう意味でも、ちゃんと二人にやられていたってことだな」


 お嬢(仮)の操る従魔は、初心者なので草原に居る犬や兎など……魔小鬼は居ないぞ。
 本来ならすぐにやられるのだが、今回の彼女は見事に操り切ったのだ。

 動作の合間、いかなる武人とて決して無くなることはない隙。
 魔物が人よりも優れた点である身体能力を生かし、そこを突き続けた。

 無論、花子(仮)も反撃をしていたが、ござる(仮)も居る以上そちらにばかり気を取ることはできない。

 低レベルな現状では大技で全体攻撃をすることもできず、減らされ続けたわけだ。


「それで結局、二人を倒すことはできない、そのうえお嬢には傷一つ付けることができないまま敗北したわけだが……ご感想は?」

「……ムカつく」

「花子に雑魚扱いされた奴も、同様にムカついていたはずだからお互い様ってことで。それで、答えは決まったか? これに正解すれば、もれなく自由が得られるわけだが」


 時間はたっぷり与えている。
 花子(仮)の考えた自分の負けた理由、それは……


「──アドバイス。それを戦闘中もずっとしていたから」

「……ファイナルアンサー?」

「それ、言う必要ある?」

「じゃあいいけど。参考までに、どうしてその答えに行きついたか訊いても?」


 俺は最初に言った、アドバイスと何かもう一つのサポートをすると。
 そして花子(仮)の勝利条件は、それを当てることだとも。


「初めに、サポートがどういったものかは聞いていない。次に、アドバイスを何度するかも聞いていない。そして、あの二人の動きがこっちを分かったような動きだった……何より貴方は、私よりも上位のプレイヤー」

「だから、アドバイスだと?」

「[ウィスパー]の機能もあるし、それに似たことができないわけじゃない。言葉で人を縛ることができるなら、その言葉を二人にだけ聞かせることだって……」

「そうか。まあたしかに、俺はアドバイスをした。ちなみにその内容は、相手のことをよく見ること。それ以外は何もしていない……俺はレベル上げしかやっていないから、あんまりPSは高くないんだよ」


 えっ、と漏れる声はどういう意味か。
 俺の評価はまだ聞いていないが、少なくともそう悪くは無いと思う……眷属から動きや立ち居振る舞いも倣って・・・いるからな。

 だが、凡人には真似が精いっぱいでそれ以上のことは上手くできない。
 なので、彼女のような相手だと、ボロが出やすく勝率は低いのだ。


「ああ、なので答えは不正解だ。俺は二人にさっきの言葉以外何一つ送っていない。見られていた通り、ただ黙って突っ立っていただけだ」

「なら、なんで……」

「その前に──負けを認めるか?」


 そもそもこの戦い、彼女を退屈させないために行ったものだ。
 不正解であった以上、想定外の展開が飽きさせてはくれなかったはず。

 事実、頭を回転させている彼女は少しだけ目を光らせていた。
 そして、不正解と聞いた今も、それを否定しようとするぐらいには執着している。


「二人に負け、俺の答えを誤った。俺は退屈させていないし、二人も花子に勝った」

「そ、れは……サポートの──」

「サポートのせいにしていいのか? たぶん聞けば驚くぞ、そんなことでどうして自分が負けたのかってな」

「……正直、なんで勝てたのかしら」
「主君のお陰でござろう。あのような手、稀に見る鬼才でござった」


 二人の感想もそんな感じ。
 花子(仮)もそこまで言わせるサポートがどういったものか、気になっている様子。


「負けを認めて、とりあえず一月俺に師事されるなら教えるぞ」

「……一月だけですから」

「了解。それじゃあ、いい加減場所を変えないと怒られそうだ。全員、良い場所があるからついて来い。正解もそっちで言うから、二人も内緒にしてろよ」

「分かったわよ」
「承知」


 そんなこんなで、三人を連れて俺はある場所を目指すことに。
 普通の方法じゃいけないので、こっそりと細工して……反応が楽しみだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...