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偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者と新人研修 その03
しおりを挟む──結論から言う、花子(仮)は負けた。
しかし、彼女はまだ負けていない。
自分が負けた理由を暴くことができれば、勝利条件を満たしたことになるからだ。
「さて、花子。自分がどうして負けたのか、その答えが分かるか?」
「それを答えにするよね」
「そのときは、ファイナルアンサーとでも言えばいい。好きなだけ言って、そのときの俺たちの仕草を読み取るのだって、立派な作戦なんだろう?」
ビクッとするのはお嬢(仮)、対するござる(仮)は平然と……あっ、目が泳いでる。
少し心配ではあるが、それでも仕掛けを当てられるとは思っていない。
俺の漏れ出る自信を嫌がるように目を逸らし、花子は順に考えを話し始める。
「最初は何かレベルを底上げしたのかと思った。全体的に強化されて、苦戦すると……でも違った。あっちのお嬢様は鈍臭くて、忍者も十全に動けていなかった」
「動きだけでレベルじゃないと考えたか。切り捨てるにしても、早すぎじゃないか?」
「そうでもない。実際、レベルで能力値を底上げされていたら、もっと早く終わっていたもの。忍者がある程度同じ能力値だったからこそ、途中まではこっちが優勢だった……だからレベルは違う」
初め、花子(仮)とござる(仮)は開幕すぐに打ち合いを行っていた。
共に短剣を使っての速攻……しかし、結果としてそれは決まらない。
花子(仮)は変則的な動きで翻弄し、ござる(仮)は型のような動きでそれを捌く。
その型を花子(仮)はどんどん学習して、攻撃を届かせる──直前で変化が起きた。
「途中でお嬢様が従魔を向けていなければ、忍者には致命打を与えられていたかも。でもできなかったから、この後に響いた」
「お嬢を警戒していなかったのは、花子が舐めていたからだろう? こっちの世界なら、本人が弱くても勝つための手段はいくらでもある。魔法職は紙装甲とか、そういう言葉もあるんだ……弱くても強いが存在する」
「従魔自体は弱かったけど、私の死角を突いてきていた。だから反応に遅れるし、じわじわと削られた」
「実際、観ていた限りだとお嬢の方がHPを減らしていたぞ。そういう意味でも、ちゃんと二人にやられていたってことだな」
お嬢(仮)の操る従魔は、初心者なので草原に居る犬や兎など……魔小鬼は居ないぞ。
本来ならすぐにやられるのだが、今回の彼女は見事に操り切ったのだ。
動作の合間、いかなる武人とて決して無くなることはない隙。
魔物が人よりも優れた点である身体能力を生かし、そこを突き続けた。
無論、花子(仮)も反撃をしていたが、ござる(仮)も居る以上そちらにばかり気を取ることはできない。
低レベルな現状では大技で全体攻撃をすることもできず、減らされ続けたわけだ。
「それで結局、二人を倒すことはできない、そのうえお嬢には傷一つ付けることができないまま敗北したわけだが……ご感想は?」
「……ムカつく」
「花子に雑魚扱いされた奴も、同様にムカついていたはずだからお互い様ってことで。それで、答えは決まったか? これに正解すれば、もれなく自由が得られるわけだが」
時間はたっぷり与えている。
花子(仮)の考えた自分の負けた理由、それは……
「──アドバイス。それを戦闘中もずっとしていたから」
「……ファイナルアンサー?」
「それ、言う必要ある?」
「じゃあいいけど。参考までに、どうしてその答えに行きついたか訊いても?」
俺は最初に言った、アドバイスと何かもう一つのサポートをすると。
そして花子(仮)の勝利条件は、それを当てることだとも。
「初めに、サポートがどういったものかは聞いていない。次に、アドバイスを何度するかも聞いていない。そして、あの二人の動きがこっちを分かったような動きだった……何より貴方は、私よりも上位のプレイヤー」
「だから、アドバイスだと?」
「[ウィスパー]の機能もあるし、それに似たことができないわけじゃない。言葉で人を縛ることができるなら、その言葉を二人にだけ聞かせることだって……」
「そうか。まあたしかに、俺はアドバイスをした。ちなみにその内容は、相手のことをよく見ること。それ以外は何もしていない……俺はレベル上げしかやっていないから、あんまりPSは高くないんだよ」
えっ、と漏れる声はどういう意味か。
俺の評価はまだ聞いていないが、少なくともそう悪くは無いと思う……眷属から動きや立ち居振る舞いも倣っているからな。
だが、凡人には真似が精いっぱいでそれ以上のことは上手くできない。
なので、彼女のような相手だと、ボロが出やすく勝率は低いのだ。
「ああ、なので答えは不正解だ。俺は二人にさっきの言葉以外何一つ送っていない。見られていた通り、ただ黙って突っ立っていただけだ」
「なら、なんで……」
「その前に──負けを認めるか?」
そもそもこの戦い、彼女を退屈させないために行ったものだ。
不正解であった以上、想定外の展開が飽きさせてはくれなかったはず。
事実、頭を回転させている彼女は少しだけ目を光らせていた。
そして、不正解と聞いた今も、それを否定しようとするぐらいには執着している。
「二人に負け、俺の答えを誤った。俺は退屈させていないし、二人も花子に勝った」
「そ、れは……サポートの──」
「サポートのせいにしていいのか? たぶん聞けば驚くぞ、そんなことでどうして自分が負けたのかってな」
「……正直、なんで勝てたのかしら」
「主君のお陰でござろう。あのような手、稀に見る鬼才でござった」
二人の感想もそんな感じ。
花子(仮)もそこまで言わせるサポートがどういったものか、気になっている様子。
「負けを認めて、とりあえず一月俺に師事されるなら教えるぞ」
「……一月だけですから」
「了解。それじゃあ、いい加減場所を変えないと怒られそうだ。全員、良い場所があるからついて来い。正解もそっちで言うから、二人も内緒にしてろよ」
「分かったわよ」
「承知」
そんなこんなで、三人を連れて俺はある場所を目指すことに。
普通の方法じゃいけないので、こっそりと細工して……反応が楽しみだ。
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