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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と新人研修 その02

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 結局、彼女たちは俺に言われた通りにマーカー機能をOFFにした。
 これにより、システム的に祈念者や自由民の見極めができなくなる。


「いちおう言っておくが、マーカーなんて無い方がいい。事前情報は大切って言う場合もあるが、時と場合に寄りにけりだ。まあ、それは後で説明するとして……そろそろ、外へ出てみようか」


 初心者とはいえ、彼女たちも一度として外に出ていないわけではない。
 例の無敵状態チュートリアルは終わっているし、レベルも別に1以上になっている。


「じゃあ、改めまして。お前らは大手の方々に捨てられて、誰も拾ってもらえなかった連中だ。自尊、意固地、諦念……理由はともあれこの場に居る以上、とりあえず俺の方針に従ってもらう。嫌なら止めてくれ」


 ゲームを始めて、数日で止めろと言われるヤツの気分って……どんな感じだろうか?
 少なくとも、三分の二ぐらいは怒りの感情が発露されるようだ。


「花子は……怒ってないな。じゃあ、お前から聞こう。お前は何をしたい?」

「別に……貴方に何ができるの?」

「こっちでなら、何でもだよ。何でもできる世界、適応できればそれが可能だ。だからこそ先達として、上から目線で訊いている。全部を独りでやる気が無いから、参加したんだろう? ほら、言ってみろよ」

「……どうせ、言わなくても無理やり言わされるか。ハァ、ハズレを引いたなぁ」


 本人を前に花子(仮)は嘆息する。
 残りの二人はそれぞれ異なる手段で怒りを訴えているが、彼女にはそれがいっさい感じられていない。

 それは、そもそも期待していないから。
 反応を示すのは、そこに思うところがあるが故……何も感じていなければ、反応もまた冷淡で済むのだ。


「私は退屈なの。だから、それを満足させてくれればいい。ここに来たのは、貴方たちが有名なクランの人たちだったから。何か退屈しなくなることを知っていると思ったから。なのに……貴方じゃね」

「そういうことなら、他のクランでもできただろうに。なんで断った?」

「戦ってみて、誰も私に勝てなかったから。そんな場所、絶対に退屈するでしょう?」


 三人が残された理由はナックルに聞いてあるが、曰く花子(仮)は強かったから。
 さすがにレベル差などはルールで制限したようだが……無敗だったとのこと。

 要するに、PSが異様なほど高いのだ。
 そんな彼女を彼らは天才と讃え、今に至るらしい……同世代の祈念者の反応なんて、言わなくても分かるな。


「うん、話しはよく分かった。つまり──お前は弱いわけだ!」

「…………はっ?」

「うんうん、分かるぞその気持ち。だがまあ安心しろ、それならいい方法がある。というわけで質問だ、こいつらは強いか?」


 彼女が俺の指先に沿ってみるのは、自分といっしょにここへ来た二人の初心者。
 片方はまだ怒っているようだが、もう片方はだいぶ冷静になっていた。

 ジッと見て、彼女の中でシミュレーションが行われる。
 その時間、僅か数秒……それだけで、彼女の中で決着は定まった。


「何度やっても私が勝つ。これで満足?」

「ふざけないで! この私が、負けるはずがないじゃな──!」

「動きは素人、装備も見た目だけのネタ。職業は……支援系の従魔師。ただでさえレベルの低い貴方は、すぐに倒せる」

「~~~~ッ!」


 どうでもいいと視線を横へ、そこには警戒するござる(仮)が。


「貴方の方は体幹がしっかりしているし、歩行も音を出していなかった。普段から、そういうことをしている人。現実でも、何かしらしているのでしょう? けど、今はまだ手数が少ないから、勝つことはできない」

「……お見事。そういう貴殿には、隙が無いですね」

「そう? 特に意識はしていないけど。とにかく、二人同時に掛かってきても勝てる。どう、これで充分?」


 俺はただ、黙ってそれを聞いていた。
 ……うん、俺が思っていた以上に彼女たちのことをよく教えてもらえたな。


「今、間違えなく花子は二人を自分よりも格下と認めた。なら、そんな二人にお前が負けたなら……それだけで、退屈じゃない戦いになるだろう?」

「……貴方が武器でも用意すれば、勝てるかもしれないね」

「そんなことしたって、お前の負けが必然だから仕方がないって? ハァ、安心しろよ。俺もそこまで弱い者いじめがしたいわけじゃないからさ」

「っ……煽っているつもり? よく居るよ、力づくで勝てないからって言葉で責め立ててくる人。そういう人ほど、弱い人間だって分からないんだね」


 素なんだが……彼女も彼女で、邪縛の影響で俺の第一印象は最悪だしな。
 そのうえこんな振る舞いをしているのだ、仕方がない……ということにしておこう。


「まあまあ、話は最後まで。俺は二人を勝たせる、本とかアニメみたいにアドバイスだけでやるのは無理だから、花子の言った通り何かをして。花子の勝利条件は、普通に勝つか俺が何をしたか当てる……これでどうだ?」

「それを私がして、得ってあるの?」

「特に無いな。まあ、普通に勝ったら干渉はしないさ。どうぞご自由に、契約も破棄しておいてやる。当てて勝ったなら、それと同じことができるようにしてやる……レベルが理由で負けることは無くなるぞ」

「…………それでいい。どうせ勝つのは私、なら負けた後を考える必要なんてない」


 そんなこんなで、戦いが始まる──ことはない。
 話を聞いていたとしても、それが俺の傘下として戦うことにはならないのだ。


「ふざけないで、誰がそんな下僕みたいなことしなきゃならないの!」

「なら、お嬢はこのままでいいのか? 花子が言っていた通り、普通に戦えばあっさりと負ける。つまり、下になるんだ。俺に協力するなら、花子が想像もしていなかった展開になる……それだけで充分じゃないか?」

「そ、それは……」


 会ったばかりだが、お嬢(仮)とて黙って引きがることはないと思う。
 彼女にはプライドがあり、それを傷つける行動こそが花子(仮)の発言だからだ。


「ござるは……聞かなくても大丈夫そうだ。口先だけのアドバイス、それともう一つのサポートだけだ。だが、それでござるを勝たせることが可能だ」

「まだ、貴殿を師とは認めておらぬ。しかしこの戦いを経て、片鱗を見せていただけるのであれば……」

「そういうのはいい。これは俺のアピールタイムじゃなくて、お前らのアピールタイム。花子に勝って、何がしたいのかを直接見せてほしい」


 彼女が何をしたいのかは、口調とかでだいたい察するが……遠回しに聞いているヤツにも伝えるべく、あえてそう言う。


「それで、お嬢。お前はどうする?」

「お嬢殿……」

「ああもう、やればいいんでしょ! いいわよ、何でもやってやりますわ! あと、私の名前は──」

「了解、二人の覚悟は聞き受けました! それじゃあさっそく、PvPを始めようか!」


 これが終われば、とりあえず俺が何をすればいいのかも決まる。
 花子(仮)には悪いが……二つの意味で敗北してもらおうか。


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