1,996 / 2,518
偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者と新人研修 その02
しおりを挟む結局、彼女たちは俺に言われた通りにマーカー機能をOFFにした。
これにより、システム的に祈念者や自由民の見極めができなくなる。
「いちおう言っておくが、マーカーなんて無い方がいい。事前情報は大切って言う場合もあるが、時と場合に寄りにけりだ。まあ、それは後で説明するとして……そろそろ、外へ出てみようか」
初心者とはいえ、彼女たちも一度として外に出ていないわけではない。
例の無敵状態は終わっているし、レベルも別に1以上になっている。
「じゃあ、改めまして。お前らは大手の方々に捨てられて、誰も拾ってもらえなかった連中だ。自尊、意固地、諦念……理由はともあれこの場に居る以上、とりあえず俺の方針に従ってもらう。嫌なら止めてくれ」
ゲームを始めて、数日で止めろと言われるヤツの気分って……どんな感じだろうか?
少なくとも、三分の二ぐらいは怒りの感情が発露されるようだ。
「花子は……怒ってないな。じゃあ、お前から聞こう。お前は何をしたい?」
「別に……貴方に何ができるの?」
「こっちでなら、何でもだよ。何でもできる世界、適応できればそれが可能だ。だからこそ先達として、上から目線で訊いている。全部を独りでやる気が無いから、参加したんだろう? ほら、言ってみろよ」
「……どうせ、言わなくても無理やり言わされるか。ハァ、ハズレを引いたなぁ」
本人を前に花子(仮)は嘆息する。
残りの二人はそれぞれ異なる手段で怒りを訴えているが、彼女にはそれがいっさい感じられていない。
それは、そもそも期待していないから。
反応を示すのは、そこに思うところがあるが故……何も感じていなければ、反応もまた冷淡で済むのだ。
「私は退屈なの。だから、それを満足させてくれればいい。ここに来たのは、貴方たちが有名なクランの人たちだったから。何か退屈しなくなることを知っていると思ったから。なのに……貴方じゃね」
「そういうことなら、他のクランでもできただろうに。なんで断った?」
「戦ってみて、誰も私に勝てなかったから。そんな場所、絶対に退屈するでしょう?」
三人が残された理由はナックルに聞いてあるが、曰く花子(仮)は強かったから。
さすがにレベル差などはルールで制限したようだが……無敗だったとのこと。
要するに、PSが異様なほど高いのだ。
そんな彼女を彼らは天才と讃え、今に至るらしい……同世代の祈念者の反応なんて、言わなくても分かるな。
「うん、話しはよく分かった。つまり──お前は弱いわけだ!」
「…………はっ?」
「うんうん、分かるぞその気持ち。だがまあ安心しろ、それならいい方法がある。というわけで質問だ、こいつらは強いか?」
彼女が俺の指先に沿ってみるのは、自分といっしょにここへ来た二人の初心者。
片方はまだ怒っているようだが、もう片方はだいぶ冷静になっていた。
ジッと見て、彼女の中でシミュレーションが行われる。
その時間、僅か数秒……それだけで、彼女の中で決着は定まった。
「何度やっても私が勝つ。これで満足?」
「ふざけないで! この私が、負けるはずがないじゃな──!」
「動きは素人、装備も見た目だけのネタ。職業は……支援系の従魔師。ただでさえレベルの低い貴方は、すぐに倒せる」
「~~~~ッ!」
どうでもいいと視線を横へ、そこには警戒するござる(仮)が。
「貴方の方は体幹がしっかりしているし、歩行も音を出していなかった。普段から、そういうことをしている人。現実でも、何かしらしているのでしょう? けど、今はまだ手数が少ないから、勝つことはできない」
「……お見事。そういう貴殿には、隙が無いですね」
「そう? 特に意識はしていないけど。とにかく、二人同時に掛かってきても勝てる。どう、これで充分?」
俺はただ、黙ってそれを聞いていた。
……うん、俺が思っていた以上に彼女たちのことをよく教えてもらえたな。
「今、間違えなく花子は二人を自分よりも格下と認めた。なら、そんな二人にお前が負けたなら……それだけで、退屈じゃない戦いになるだろう?」
「……貴方が武器でも用意すれば、勝てるかもしれないね」
「そんなことしたって、お前の負けが必然だから仕方がないって? ハァ、安心しろよ。俺もそこまで弱い者いじめがしたいわけじゃないからさ」
「っ……煽っているつもり? よく居るよ、力づくで勝てないからって言葉で責め立ててくる人。そういう人ほど、弱い人間だって分からないんだね」
素なんだが……彼女も彼女で、邪縛の影響で俺の第一印象は最悪だしな。
そのうえこんな振る舞いをしているのだ、仕方がない……ということにしておこう。
「まあまあ、話は最後まで。俺は二人を勝たせる、本とかアニメみたいにアドバイスだけでやるのは無理だから、花子の言った通り何かをして。花子の勝利条件は、普通に勝つか俺が何をしたか当てる……これでどうだ?」
「それを私がして、得ってあるの?」
「特に無いな。まあ、普通に勝ったら干渉はしないさ。どうぞご自由に、契約も破棄しておいてやる。当てて勝ったなら、それと同じことができるようにしてやる……レベルが理由で負けることは無くなるぞ」
「…………それでいい。どうせ勝つのは私、なら負けた後を考える必要なんてない」
そんなこんなで、戦いが始まる──ことはない。
話を聞いていたとしても、それが俺の傘下として戦うことにはならないのだ。
「ふざけないで、誰がそんな下僕みたいなことしなきゃならないの!」
「なら、お嬢はこのままでいいのか? 花子が言っていた通り、普通に戦えばあっさりと負ける。つまり、下になるんだ。俺に協力するなら、花子が想像もしていなかった展開になる……それだけで充分じゃないか?」
「そ、それは……」
会ったばかりだが、お嬢(仮)とて黙って引きがることはないと思う。
彼女にはプライドがあり、それを傷つける行動こそが花子(仮)の発言だからだ。
「ござるは……聞かなくても大丈夫そうだ。口先だけのアドバイス、それともう一つのサポートだけだ。だが、それでござるを勝たせることが可能だ」
「まだ、貴殿を師とは認めておらぬ。しかしこの戦いを経て、片鱗を見せていただけるのであれば……」
「そういうのはいい。これは俺のアピールタイムじゃなくて、お前らのアピールタイム。花子に勝って、何がしたいのかを直接見せてほしい」
彼女が何をしたいのかは、口調とかでだいたい察するが……遠回しに聞いているヤツにも伝えるべく、あえてそう言う。
「それで、お嬢。お前はどうする?」
「お嬢殿……」
「ああもう、やればいいんでしょ! いいわよ、何でもやってやりますわ! あと、私の名前は──」
「了解、二人の覚悟は聞き受けました! それじゃあさっそく、PvPを始めようか!」
これが終われば、とりあえず俺が何をすればいいのかも決まる。
花子(仮)には悪いが……二つの意味で敗北してもらおうか。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる