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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と新人研修 その01

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 ナックルに頼まれた二つ目の依頼。
 それは、大手クランの受け皿に納められなかった新人たちの教育だ。

 ある程度自立すれば良し、そうでなくともAFOに飽きることなくプレイし続けてもらえるようにしてほしいとのこと。

 そうして残されたのは三人の少女。
 心広めなクランたちでも受け止めることができなかった、一癖も二癖もあるに違いない者たちだ。


「まったく、どうして私がこんな冴えない男に師事をされなければならないんですの!」

「お嬢殿、落ち着いてくだ……落ち着くでござるよ。おそらくあの殿方には、何かあるでござる。そうは思わんか?」

「……知らない」


 一人はThe・お嬢様の体現者。
 わざわざ初期の金を使ったのか、初心者の服ではなくドレス姿での参加だ。

 一人は……エセ忍者? といった少女。
 ただし、眷属に鍛えられた審美眼が、立ち居振る舞いに何かあると訴えかけている。

 一人はやる気の無さそうな少女。
 こちらも立ち姿などは、言動と相反して隙が無いのだが……一番苦労しそうだ。

 以上三人が、今回の俺の教え子たち。
 彼女たちを立派に育て上げ、ついでに何か面白いことに巻き込めればいいな……と思うのが教師である俺だった。

 軽く咳払いをして注意を引こうとするが、お嬢様は聞く耳を持たず。
 忍者はそれを宥めるためにこちらをしっかりとは見ず、最後の一人なんてガン無視だ。


「うーん、とりあえず──『前を向け』」

「「「──ッ!?」」」

「まずは挨拶か。初めまして、俺が……名前には興味無さそうだからいいか。気軽に先生とでも呼んでくれ。これから現実世界で一ヶ月の間、君たちのサポートを無償でやることになっている……そういう関係だ」


 これは最初の集まりから決まっていたことで、いわゆる研修期間である。
 その間にどこで何をしたいのか決め、そこに向かうのもまた良しということ。

 まあ、期間の延長を望むのも有りだ。
 しかしその逆、一ヶ月を前に降りることはダメ……これも始める前にいろいろとやったようなので、従ってくれるとのこと。


「俺は正直、他のどのクランの先生よりも説明下手だ。まあでも、君たちにこうして話を聞かせることができるから、担当になったわけだが……」

「聞かせる? 無理やりが付いてないよ」

「同じことだろ。先生の話を生徒が聞く、そこにはその話に価値があるってこと以外にも理由があるはずだ。たとえば成績のため、そして自己満足……なら、先生の側から理由を提供してやっただけさ」

「──ちょっと、早くこれを止めなさい!」


 俺が先ほどやったのは、声に魔力を乗せて行う命令。
 魔導“我が言霊は真理なり”の劣化版なのだが、新人である彼女たちには通用する。

 内部に浸透した俺の魔力が失われるまで、その効果が解けることは無い。
 もちろん、俺の意思次第で解除はできるのだが……今はそうしないでおく。


「とりあえず、右から順にお嬢、ござる、それと……花子でいいか。仮の名前だが、嫌々指示を受けている間は、そうして呼んでおくことにする。それじゃあ、まずはそれぞれやりたいことを教えてもらおうか」

「誰がお嬢よ! 私には──」

「『黙れ』。名前に意味を籠めたかは知らないが、知って知られて関係はできるものだ。一月の間の関係は確実にあるが、それ以上は無いかもしれない。そんな奴のために、わざわざ脳の容量を使うのが勿体ない」

「同感。私もその辺、貴方からその話を聞く理由とか価値は見いだせてないし」


 花子(仮)は、予想通り冷めきった目でそう俺に告げる。
 お嬢(仮)は顔を真っ赤にして怒り、ござる(仮)は……納得しているのか?


「ござる、お前はどう思う? お嬢のように黙らせはしない、率直に答えてくれ」

「はっ、では……この名は一族の証明、そう軽々しく告げるものではござりません。たとえ師であろうと、忠誠を誓わぬ相手であれば告げることは避けたいでござる」

「よく分からんが、理由が有るから名前は非表示にしているってことでいいな? まあ、好きにしてくれ。どうせ俺はマーカー機能を付けていないから、お前らの名前も表示されていないんだ。言われなきゃ分からん」


 鑑定眼で全員の情報を調べたが、その量が多かったので思い出せない。
 特徴的な名前だったと、お嬢だけは覚えているが……肝心のそれが長かったからな。


「じゃあ、そういうことで。まあ、もう目的はいいや。先にやってもらうことがある。全員、マーカー機能をONにしているなら切っておけ。他は別にそのままでいいが、俺の生徒でいる間は絶対だ」

「────!」

「何か言いたいことでもあるのか、お嬢? なら手でも挙げてくれよ。その間だけ、言葉が話せるようにしてやる」


 怒っているが、このままでは埒が明かないことは分かっているようで、大人しく手を挙げた。

 先ほどの命令の内、黙らせていた方の魔力のみを解除して発言を自由にさせる。


「──じゃないわよ! あっ……こほんっ、どうしてマーカー機能を消しますの? アレが無いと、プレイヤーとNPCの違いが付かなくなりますわ」

「うーん、俺は俗に言うリアル派だからだ。この世界の住民は真っ当に生きている奴らであり、俺たちの方こそ異物なんだって考えでやっている。マーカーがあると、お前みたいに考えるからな。しばらく切れ」

「……どうせ切らずとも、無理やりやらせるのでしょう? 分かりましたわよ、切ればいいのでしょう切れば!」

「おう、それでいいんだ。ござるも花子も、ちゃんと切っておけよ。ログインして分かっていると思うが、UI表示が無ければ異世界に迷い込んだと考えても不思議じゃない。分けて考えるな、それが最初の教えだ」


 祈念者の中でも、自由民がどういった存在なのかというのは未だに謎となっている。
 真実を知る者が限られている以上、彼らの口が開かれるまで真相は分からないだろう。

 ここは何でも自由な世界、しかしその管理者は運営ではない。
 ならばここはいったい何なのか、それを突きとめれば……知ることになるだろう。


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