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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と精霊グッズ 中篇

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 オリジナルの精霊魔法“精霊遊具エレメンタルグッズ”は、無事に精霊たちの住処を安定させた。
 百個生みだしたアイテムの中で、精霊たちは満足そうにしている。

 その様子に、ユラルも頼んで良かったという笑みを浮かべていた。
 ただしその都度、膝の上で寝転がる俺を見ては引き攣ったものになっていたが。


「ま、まだ寝てるの? もう、【怠惰】の効果は解除できたんだよね?」

「んー。単純に、ユラルの膝枕が気持ちいいからな……ダメか?」

「ダメなんて、言えないよ……けど、あんまり頬擦りとかはしないでよ」

「そもそもしてないから。観ている眷属が居たら、誤解されるから止めてください」


 いっそのこと、顔を膝の間に挟み込んでやろうか……と思ったが、それは眷属たちにどうお説教されるか分からないので、そのままでいることに。

 そもそもそういう欲を大して抱いてない。
 まあ、【色欲】状態ならまだしも、今は特にそういった想いが希薄な【怠惰】を使った後だからな。


「とりあえず、ユラルの要望……というよりも精霊の要望は達成できたんだよな?」

「う、うん……あの、このままシリアスな感じで話すのかな?」

「当然だろ。で、これからのことだな。単刀直入に言う──これ、全部売るぞ」

「…………。メルスン、理由がちゃんとあるよね? 聞いてあげるから、全部話してくれると嬉しいな」


 おやおや、植物の根が突然出てきたぞ。
 怖いから頭の向きを反対にして……あっ、半透明だからその先の根っこが見えちゃう。

 とはいえ、こうなることは初めから想定している。
 考えていた通りに、ユラルを説得するための言葉を紡いでいく。


「第一、そもそも置くところが無い。精霊はたしか、使われてこそ成長するんだろう? 放置して周囲の魔力を吸わせるより、誰かが使った方がいい……けど、うちの眷属に使いたい奴なんているのか?」

「それは……いないけど」

「第二、精霊入りのアイテムは貴重だし重宝される。ある意味、成長するアイテムだからな。祈念者も自由民も、ちゃんと使ってくれる人は使ってくれるはずだ」

「うぅ……その通りです」


 俺の言葉に正当性を感じてくれたようで、一方的に断罪しようとしていたユラルの罪悪感に付け込むことに成功した。

 ふっ、ここまでくればもう大丈夫。
 あとはどれだけ自分の意見を主張し、通すことができるのかという勝負になる。


「ユラル、俺は彼らが入ったアイテムを売り捌く……とはいえ、別に誰彼構わずというわけじゃない。その見定めには、ユラルにも参加してほしい。彼らがいい主に会えるよう、協力してくれないか?」

「メルスン、そこまで考えていてくれたんだね? ……疑ってごめんね」

「いいよ、いつもユラルを困らせてばかりなのは事実なんだから。けど、だからこそ頼ってもらえたなら、全力で応えたいって……それだけの話だからさ」

「メルスン……!」


 うん、イイハナシダナーと纏まった。
 ユラルが居れば、比較的容易に精霊たちも新しい主を見つけるだろう……うちは精霊の新規加入は、あまり受け付けていないのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 始まりの街


 精霊たちが入ったアイテムは、主に祈念者たちへ売り捌く予定だ。
 うちの国民には選択の自由があるので、望まれれば用意する……ぐらいでいい。

 というか、国民が使うのであればもっと質の良いアイテムに宿らせる。
 今回のアイテムは、品質的に言えばだいたいB+ぐらいだからな。


「ねぇメルスン、売る気あるの?」

「あるぞ。ただまあ、どうしても売りたいわけじゃないし……気長にやっていこう」


 バザー通りとか、そういった呼ばれ方がされている祈念者が集まる場所。
 初心者が経験値稼ぎに作った品とか、アタリハズレの激しいアイテムの売り場である。

 そんな場所に、俺たちも茣蓙ござを引いてアイテムを並べてある。
 張り紙を──『ご使用できたならば、値段交渉をします』と張っておいて。


「メルスンに頼まれた通り、使ってほしい相手以外は拒絶するようにしてもらっているけど……本当に売れるの?」

「まあ、使える奴は強引に使えるしな。それならそれで、合法的に裁くこともできる。あくまで俺たちのターゲットは、力の足りない初心者の応援だ。こっちの方がいい」


 精霊への適性とは、さまざまな要因で決定するもの。
 魔力量、魔力の質、属性適性、心根、使う武器などなど……いろんな要素がある。

 精霊ごとにピッタリなパートナーが居て、それを見つけるのが俺たちの役目。
 妥協するよりは、面倒でもしっかりと探した方がユラルも喜ぶだろう。


「さっきから、誰一人として成功していないから……ねぇ、大丈夫なの?」

「どいつもこいつも、武器系のヤツにしか触らないからだろ。自分に相応しいのが、武器じゃなくて小道具です……なんて言われて、はいそうですかと納得できないんだよ」

「そういうものなのかな?」

「そういうものだろ。現にせっかく主張してくれている精霊もガン無視で、失敗してるんだから。気づこうとすれば、ちゃんと認識できるよう発光してくれているのにな」


 精霊は基本的に認識できないが、精霊の方が意識すれば見ることができる。
 仕込んだ魔石を光らせて、適合者に教えているのだが……百個もあると気づかない。

 一人ぐらい、武器でもいいから適合者が来てくれればいいのに。
 ユラルと話して時間を潰すが、結局数時間は誰も適合しないまま時は過ぎていく。

 ──そう、数時間後にはようやく一人目の適合者が現れるのだった。


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