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偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者と精霊グッズ 前篇
しおりを挟む始まりは唐突だった。
いや、別に長くて永い話を始めるわけじゃないんだけども……うん、こう言った方が盛り上がると思いまして。
まあともかく、ある日のことだ。
眷属たちと自堕落な日々を過ごしていた俺に、彼女がある提案をしてきた。
「──メルスン、少し手伝ってほしいことがあるんだけど」
「なあなあユラルさんや、その周りで光っている精霊さんたちはいったい……」
精霊の上位種にして、世界樹より嫌われし異端の樹聖霊。
そんな彼女は現在、とても眩い輝きをその身に纏っていた。
神眼を切り替え、その理由を看破。
世界樹からは嫌われていても、精霊たちからは好まれている彼女……慕う精霊たちが、彼女の周りに集まっていたのだ。
「あー、うん。この子たちが関係する話で、相談があるんだ。ほら、メルスンはいろんな武器を作れるでしょ?」
「そりゃあな。というか、眷属の武器は全部俺が創ったんだし……なんで今さら?」
「ねっ? みんな聞いていたでしょ、この人は凄い人なんだからね」
既知の情報をあえて言葉にしていたのは、精霊たちに俺のことを言うためだったのか。
実際、ユラルの背後に居た精霊たちが少しずつ俺に近づき始めている。
畏怖嫌厭スキルで疎まれる俺だが、精霊たちは人とは異なる感性で生きる存在だ。
敬愛するユラルが言うなら……と、第一印象を無視して絡んでくる。
「メルスンにはアイテムを作ってほしいの。この子たちが宿れる住み心地がいい場所を。お礼はちゃんとするから!」
「お礼ねぇ……まあ、他でもないユラルからの頼み事だ。俺も俺で、少しあることを考えていたんだ。そっちに協力してくれるなら、俺の方も協力するよ」
「……物凄く嫌な予感がするんだけど」
心配性なユラルは、俺の言ったことに不信感を抱いているようだ。
しかし、それならそもそも口にしないか、と自分を納得させている……惜しいな。
◆ □ ◆ □ ◆
夢現空間 生産室
精霊が宿れるアイテムに必要な要素。
そんなものは正直特にない、その精霊が我慢することさえできれば森羅万象あらゆる物に入ることができる。
ただし、意思を持つ物や付喪神と呼ばれる先住者が居るアイテム、格が精霊よりもはるかに上過ぎて入り込めない神器などは非常に難しい。
なので今回、ユラルが注文してきたのは普通に質のいいアイテム。
眷属用に創るチート級ではなく、精霊たちの居心地がいいアイテムにしてくれと。
「ちなみにユラルさんや、精霊さんたちの総数はいかほどに?」
「えっと、だいたい百ぐらい?」
「……で、その一人ひとりに合った住処を用意してほしいと? 普通に精霊が宿れるアイテム職人が居たとしても、結構な時間を必要とするはずだけど」
「うぅ……だからメルスンを頼ったんだよ。私たちの武具を作ってくれたメルスンなら、この子たちが喜ぶアイテムを一気に作れるかなぁって」
百体の精霊たちは、まだかまだかと俺がアイテムを作ることを待ち望んでいる。
その圧ときたら……うん、ユラルが俺を頼るのも仕方ないと思った。
ピカピカと淡い光を放つ精霊たちだが、その数が多ければ眩しく感じる。
精霊たちは不眠不休で活動できる……つまりはそういうことだろう。
「一気にか……ユラル、あとでご褒美は貰うけどいいよな?」
「ふぇっ? う、うん……メルスンが望むなら、いいよ」
「なら、頼むぞ──“不可視の手”」
彼女の羞恥に満ちた顔をもっと見ていたいと思ったが、今の俺はその想いよりも深い諦観に包まれていた。
嗚呼、仕事をしなければならない。
それはとても気落ちすることであり、鬱屈な気分に溢れた物……それでも彼女のためになるならと、瞳の色を白く染め上げる。
己が動かずとも、ありとあらゆる作業を代行してくれる不可視の手。
それこそが【怠惰】の権能の一つであり、今回の問題を解決してくれる奥の手だった。
「ユラル、膝枕」
「う、うん……はい、どうぞ」
「ああ……とりあえず精霊ども、どういうものが欲しいか言ってみろ。それに合わせた感じで作るから。修正も随時聞き入れる」
淡々と、冷めた口調で済ませる。
深度、とでも言えばいいだろうか……より権能を使いたいのであれば、【怠惰】に染まらなければならない。
武器を振り回すだけならまだしも、今回は特注品のアイテムを百個同時に作るのだ。
並大抵の手段ではできない以上、普段以上の深度で行使する必要があった。
精霊たちに言われるがまま、与えられた命令に遵守するだけの社畜モードに。
ただし思考は超絶冷静、生産神の加護の恩恵もあって理想のアイテムを作り続ける。
「す、凄い……もうほぼ出来上がってる」
「量産品ならこれで充分だろう。ただまあ、精霊が宿るならもう一工夫だな。属性魔石を組み込むでも、“精霊遊具”を刻んでおけばいい」
言いながらも、速く作業を終わらせるためにどちらかの作業をアイテムに施していく。
精霊たちも完成すると同時に、どんどん中へ入っていく……ようやく終わったわけだ。
「これでいいか……あー、ユラルのひんやりした感触が気持ちいい」
「やっと戻ったんだ……お疲れ様」
「ああ、頑張ったな。まあ、これは俺にも利のある話だったし。済んでしまえば、いいことだったと思えるな」
頭を撫でてくるユラルにそう答えながら、どう交渉すればいいかと思考を回す。
下手をすればお仕置き確定だ……上手くいくには、段階を踏む必要があるな。
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