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偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者とセッスランスの決闘 後篇
しおりを挟む彼女の言葉に応え、限界突破スキルでその動きを高めた。
だが、それができるのは彼女も同じ──すぐさま自身を強化する。
「では、私も全力でいかせてもらおうか──“『限界突破』”!」
彼女個人が有する限界突破スキル。
そして、重ねて行使されたのは、鞘に仕込まれたもう一つの限界突破の能力。
二つを同時に使い、暴走に近い形で高まる力を赤丹の気功で制御していた。
そう長くは持たない……だからこそ、俺たちの戦いは短期決戦となる。
「それじゃあ、俺も行くぞ! ぜひとも、楽しんでもらおうか!」
「ああ、ぜひともやってくれ!」
これまでの繰り返し、剣と剣をぶつけ合い相手を圧し切る機会を探っていく。
ただしその速度はこれまで以上、常人では捉えることのできない速度に高まっている。
「……そういえば、やっておかないとな」
PvPを再現した結界なので、ちょっとした速度調整も可能だ。
俺たちの体感時間は変わらないが……それでも、今回はそこに意味がある。
俺が結界を弄ったことに気づいたのか、少し頬を緩ませるウィー。
すぐに顔を引き締め、宝剣を振るう──鋭く、そして速く。
限界突破は純粋な身体強化だけでなく、ありとあらゆる部分を昇華させる。
相応の代償を支払う必要があるが、一度使えばその間だけは間違いなく強い。
動体視力で剣を捉え、思考能力で動きを予測し、その行動が現実となる前に動く。
上下左右、超常的な動きであらゆる方向から振るわれる剣に対応する。
一つと二つ、それだけの違い。
しかし加算ではなく累乗となる限界突破の重ね掛けによって、純粋な力であれば彼女の方が上になっていた。
「──『王断』!」
「なら俺は──『四肢連斬』!」
重さの一撃と速度の四連撃。
それらをぶつけあった結果──俺は吹き飛ばされる。
四肢を断とうとする動きを、完全に防がれたのだ。
そのうえで、こちらには防いでも防ぎきれない重たい一撃──当然の結果だった。
「けほっ、けほっ──!『軽気功』!」
「チッ、逃げ足の速いことだ」
「お、女の子が舌打ちを……するにしても、時と場合を考えなさいな!」
「否定しない辺り、貴公の配慮が見受けられるな。まあいい、そろそろ終わりにしよう」
限界突破は消費が激しい以上に、肉体へのダメージが深刻だ。
筋線維や骨だけでなく、激しく巡らせる脳細胞や血管なども……ズタズタになる。
重ね掛けをしている以上、俺よりもウィーの方がその被害は酷い。
それでも彼女の目は、まだ諦めずに闘志を宿している……ならばそれに応えよう。
武技を使わずとも、武技と同じ動きを取って精気力を注げば可能になる。
彼女は上に構え、高めた精気力すべてを剣に注ぎ──斬撃を放つ。
「──『極斬撃』!」
「夢現流武具術剣之型──『斬々舞』!」
「「うぉおおおおおおおおおお!」」
この街全体に届くような大声で自分を鼓舞し、俺たちは剣に力を籠める。
斬撃がエネルギーの塊として放たれる彼女の一撃に対して、それを捌く俺の連撃。
本来の効果は剣系の武技を組み合わせ、相乗効果で最後の一撃を高めるというもの。
それらすべてをマニュアルで行っているため、脳の負担が尋常ではない。
が、彼女も二重の限界突破でリスクを背負うのだ……俺も同等のことをしても、なんらおかしなことは無い。
「これで終わりだ、諦めろメルス!」
「嫌、だね……諦め、たら、応えられなく、なるだろうが──“神域到達”!」
奥の手である限界突破の最終形態を起動。
ありとあらゆるリミッターは失われ、息をするように武技の再現ができるようになる。
身体能力も向上しているので、だんだんと剣を振るう速度が上がっていく。
斬撃のエネルギーを削りとっていき──ついには、俺の剣が突破口を切り開いた。
「これで、終わりだ──『極斬撃』」
最後の一撃はこれと決めていた。
先ほどのウィーの動きをなぞり、まったく同じ武技をそれ以上の威力で振るう。
すべてを出し切った彼女に、それを防ぐ術は無く──あるがままを受け入れ、斬撃の奔流に呑まれていった。
◆ □ ◆ □ ◆
わいわいがやがやと人々が集まる中、屋根の上に駆け上がったウィーが叫ぶ。
その瞬間、ピタリと騒ぎ声は止み、人々はその声を聞き逃すまいと必死に彼女を見る。
「──観ていただろう! 宝剣を握った私と対等……いいや、対等以上に戦う姿を。これこそが彼の王、メルスの真の力だ」
周囲の気配から、人々が集まっているのは理解していた。
だからこそ、途中から結界内の速度を外部から見れば遅く捉えられるように設定した。
別に、彼女を王として崇めるあまり、俺を殺そうとしている……といった展開にはそもそもなっていない。
それでもこの国を復興させる者たちの中には、俺を立てる彼女の姿に何か思うところがある者が居るらしく……なんて話を聞いていたので、もしかしてとは思っていた。
「上には上がいるのだ。このメルスだけではない、彼に従う眷属たちはその一人ひとりが一騎当千の猛者であることを重々承知しているはず! 彼女らが従う主が、弱いはずがないのだと分かっただろう!」
今回の戦いが生んだもの。
それは俺の意思の確認──そして、彼らからからの俺に対する信頼。
武を尊ぶ国出身の彼らならば、それでもいいと判断したのだろう。
……この後は宴になったのだが、それ以上に模擬戦をさせられる俺なのだった。
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