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偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者とセッスランスの決闘 中篇
しおりを挟む眷属同士でやり合う場合、システム由来の攻撃は無しで模擬戦を行っている。
要するに武技・魔法のオート実行は禁止、ただし手動ならばOKといった感じだ。
装備の効果は特に気にせず、本人たちで決着などは任せてもらっている。
スキルは完全に自由、眷属によってはスキルに依存して戦う奴もいるからな。
「「──疾ッ!」」
共に相手に向かって駆ける。
彼女は宝剣を、俺は宝玉を手に。
毎度お馴染み『模宝玉』ことギーは、すぐさま俺の意思に応じて変形を行った。
「そのような武骨な剣でなくとも、この宝剣でもいいのだぞ!」
「……なんというか、宝剣を使うからどうこうと言われるのもな」
「それは、残念だ!」
鍔迫り合いのようなことはせず、軽く打ち合っては距離を取る。
まずは様子見、まだ温まっていない体を少しずつ温め──ギアを上げていく。
「火よ!」
「なんの、水よ!」
剣身に属性魔力を纏わせ、再びぶつける。
ぶつかり合って、水蒸気が──ということも起きず、水は一瞬で火に焼き焦がされた。
赤色の世界は火の理が強い。
あらゆる相剋よりも、火が万物を燃やすという現象が優先されるのだ。
それ以上に魔力をごり押せば通常通りの相剋にも、逆に打ち勝つこともできるが……序盤で魔力を無駄遣いするわけにもいかない。
甘んじて受け入れ、そのまま続行する。
「どうした、貴公には手札がもっとあるはずだろう!」
「オーケーオーケー──身力操作っと」
「ならば私も──“赤丹解放”」
俺が彼女に渡した指輪から、赤色の気功が溢れ出す。
体内を巡りそれらは彼女と同一化し、その身に灼熱のオーラを纏わせた。
単純な身体性能の強化も行われ、おまけに熱ダメージをこちらに与えてくる。
それを防ぐため、精気力で熱を緩和するような膜を展開しておく。
「その剣のままでいいのか?」
「うーん、そこまで心配されると俺も悪い気がしてくるなー。ギー、頼む」
彼女の返事を表すように、一瞬ピカッと輝いた後に剣が変形を始める。
祈念者の眷属にかつて渡した、代償で強くなる騎士剣──『制約誓剣』になった。
「“誓約”──要求:身体強化。対価:武技と魔法の封印」
そもそも使っていない物を、あえて捧げることで効果的に力を得ることができた。
底上げにちょうど良かったので、燃える彼女に対抗すべくもう一つ誓う。
「“制約”──実現:水属性の強化。条件:その他の属性封印」
制約、そして誓約。
要求に応じた対価を支払う“誓約”に対して、“制約”は条件を宣言して実現したいことを言うだけ。
絶対に発動しなくてもいいので、維持コストを抑えたいときなどに使う方法だ。
まあ、相応の条件を提示すれば、“誓約”にも負けず劣らずの効果を発揮できるけど。
「準備良し。第二ラウンドの開始だ」
「ずいぶんと待たせたものだ。その程度で、私を満足させられるのか?」
「さてな。けどまあ、楽しませることぐらいはできると思うぞ。戦いでも、それ以外でもそうしてやるよ」
「ならば、そうさせてもらおう!」
剣をぶつける、先ほどは火が圧倒だったはずのそれは──水蒸気を生み出す。
強化によって水属性は同じ出力でも威力が上がり、対抗できるまでになっていた。
普通にやり合うことができるのであれば、そこからは剣技で競うことができる。
俺はティル師匠仕込みの剣技で、彼女は自身で磨いた宝剣ありきの剣技を。
国で継いできたその宝剣は、王が先陣を切り無双できるような仕掛けが施されている。
そのため、肉を切らせて骨を断つというようなやり方も可能なのだ。
本気でやると言った以上、そういうやり方でも俺は全然構わない。
むしろ、好ましいだろう──想いに応えるべく、目を凝らして剣を振るう。
水蒸気が少しずつ視界を曇らせる。
彼女自身に届かずとも、その目が映す光景に若干の誤差を生み出すことはできた。
彼女がそれを嫌がり距離を取ろうとするなら、俺はそれを詰めていく。
たとえ赤丹で強化されていても、どう動くかは彼女の経験によって決まる。
その方向を予測し、近づいていくだけ。
外れればその時間に溜めが行われ、強めに一撃で苦戦する……そうならないためにも、一度として間違えるわけにはいかない。
「綱渡りではないか!」
「はっ、だからこそ盛り上がるんだろう? ここから俺の何が分かるんだ?」
「貴公が私の言葉を、思いを、意図を受け取ろうとしていることだな!」
「……さぁな。けど、だんだん熱くなっているのはよく分かるぜ。なあウィー、このまま盛り上がっていいのか?」
あることに気づいたからこそ、俺は彼女にそう訊ねる。
真剣勝負だからこそ、何一つ逃さないようにと気を這っていたからこそ分かった。
「……バレてしまったか。だが、それでも続けよう! メルス、貴公のすべてを私に見せてみろ!」
「はいはい、分かりました分かりました──“限界突破”じゃぁああ!」
彼女が求める戦いには、より激しい闘争が必要だろう。
この場を整えてもらったのだから、ありがたく戦わせていただこうじゃないか。
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