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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と予定選び

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 夢現空間 自室


 ──やることを探すのは難しい。

 燃え尽き症候群というかなんというか、魔本関係でいろいろと忙しかった俺。
 これまでと違い、大きめな都市だったことが特に大変だった理由だろう。

 その間を取り持ち、他の世界との関係を悪化させないように駆け回った(物理)。
 そのお陰で得たモノもあるにはあるが、それ以上に俺の心は疲れている。


「しばらくは寝ていたい。いずれはそう考えるのも面倒だと思うだろうけど……うん、寝ていたいんだ」

《でしたら、会話なども遠慮しておいた方がよろしいでしょうか?》

「……気晴らしって言うのは失礼かもしれないが、自分の思考外の意見が入ってくるのは新鮮だ。俺が面倒臭がらず、かつ許容外にならないような話をプリーズ」

《そのオーダーそのものが面倒になりそうですが……この忠実なる下僕であるアン、尽力させていただきましょう》


 思考をリーディングしている相手に、隠すようなことなど特にない。
 むしろ、こういう時はこっちの気持ちを察してくれるので助かっている。

 会話のキャッチボール、というよりは犬にボールを投げる感覚か。
 アン任せな会話で、モチベーションのようなものを取り戻すことに。


《では、まずは軽いものから──祈念者たちが新たな大陸を解放しました》

「い、いきなりヘビーなのが来たな……もしかして、ナックルたちか?」

《御明察。クラン『ユニーク』の活躍によって、国交が樹立しました。まあ、国と言ってもこちらは国無き街ですけども。サルワス経由で、貿易が成されるようになりました》

「裏のトップは居る街だけどな。そっか、ついにやったのか……うん、お疲れさまだな」


 俺の渡した空飛ぶ船で、他の祈念者が未到達だった大陸に行っていた『ユニーク』。
 イベントを経て船を得た祈念者たちだが、彼らに比べればその進度は遠く及ばない。

 とっくの昔から時間を掛け、他の大陸との国交を結ぼうとしていた。
 その努力が実り、ついに攻略に成功したようだ。


「獣人の大陸だっけ? ティンスやクエラム関係とは違う。それが出来た結果、俺たちに何か影響はあるのか?」

《メルス様はお気づきになられなかったようですが、条件を満たすことで海を渡ることなく転移門で移動できるようになりました。これにより、祈念者たちもそれらを満たすために奮闘中です》

「……ああ、運営関係のお知らせはこっちだと届かないもんな。まあいいや、これで俺も楽ができるのか? 座標が分かれば魔力を貯めて、一気に転移もできるだろうけど」

《方法の一つに、ギルドでの一定以上のランクなどもございますので。形だけでもSランクになっておられるメルス様であれば、問題なく利用できるかと》


 ……まあ、全然ギルドって利用していないからな、そりゃあ不味いか。
 いちおう剥奪されない程度に、眷属といっしょに依頼を受けてはいるけどな。

 お金に関しては気にならないので、一度試してみるのもありかもしれない。
 これっぽっちもやる気にはならないが、いずれ使おうとしたときに必要になるし。


《また、獣人への転生が比較的容易になったようです。条件の緩和、そして特殊な獣人種への転生も解放されたとのこと》

「……それって、ティルみたいな感じか?」

《さすがにそちらは。ですが、複数回転生を行うことで、より希少度の高い種族となれるようです》

「ティル曰く、自分以上にレアな獣人もいるらしいからな……そこは気になるか」


 聖気を操る聖獣種、特化した属性を操ることができる色獣種、そしてティルのように何らかの伝承を基にした幻獣種。

 進化で至ることのできる種族もあれば、生まれつき──祈念者であれば転生でのみ──な種族も存在する。

 俺は彼らの因子さえ採取できれば、データからその能力を再現可能だ。
 無い物からは得られないので、ぜひとも祈念者には頑張ってもらいたい。


《──いかがですか? やる気、湧いてきましたか?》

「うーん、それなり? まあ、何かをしてみようかなとは思ったけど。アン、今の俺でもできそうなことってあるか?」

《いくつかございますよ。リストアップし、メルス様の網膜に表示させます》

「……ちょっと怖いから、ちゃんとUI表示にしてくれないかな?」


 コンタクトレンズのような物は付けていないので、網膜に表示するということは……そういうことなのだろう。

 勘弁してほしいので、代案として定番のやり方にしてもらう。
 すぐに目の前に浮かんだUIには、たしかに簡単にできそうなことが載っている。


「……この、『デで始まり、トで終わるぜひとも選んで欲しいもの』って?」

dead、といったボケは不要ですよ》

「その微妙に気を引く感じで出すのは、どうかと思うぞ俺。事実、気にしちゃったけど。あと、簡単じゃないからなソレ。失望されたくないし、念入りなプランとか計画した方がいいと思います」

《念入りに計画されたものも、突発的なものも。わたしたちはどちらであろうと、メルス様が共に居てくれるのであれば、大変満足できますよ?》


 いーの、ここは俺のプライドなの。
 少しぐらい男らしさをアピールして、普段のダメっぷりを帳消しにしたいんですー。


《そのように考えられましても。すでにカンスト済みの好感度は低下しませんよ?》

「ゲームじゃないんだし。都合のいい女とかチョロインなんて実在しないんだよ」

《仮にもゲームですので。メルス様の世界にも、ちゃんといますよ》

「……居ても俺とは無縁だから無しです」


 ダメなヤツを好きになる人もいるとのことだが、俺は見たことが無い。
 そして何より、俺は三の女性に対して好意が持てない残念な人間なので関係ないのだ。


「まあ、ともあれそれは無しとして。とりあえず──これをやることにしよう」

《畏まりました。では、彼女に連絡をしておきますね》

「やると決まれば、次第にエンジンが温まってくるものだな……沸々とやる気が湧いてきた気がする」

《それでしたら、選んでいただけても良かったですのに》


 なんて会話で、俺の今後の予定が決まる。
 たまにしか行っていない場所の中でも、特に行っていなかったからな……うん、いろいろと見つめ直そう。


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