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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と霧の都市 その21

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 三階層の奥は、これまでの無機質な場所とは異なり人が居た名残が在った。
 散らかった大量の本や資料、どういう効果が有るか分からない魔道具などなど……。


「……回収された禁書もある。中身に籠められた力は失われたようだけど、記された文面はそのものだ。やはりここは、例の魔法師の隠れ家を再現しているのだろう」

「例の……というか、今じゃ霊のですね」

「? ああ、君の世界とは使う言語が違うからね。たしかに、ゴーストにはなっているが、君の口ぶりからして冗談ジョークを言ったのかい?」

「……なんだか、恥ずかしいです」


 そうこうしている内に、この部屋の主にして三階層の守護者が現れる。
 見た目はただの人族、深くローブを被って顔が見えない何者か。

 ただし、ジッと視ても顔は分からず、その身は霊体に還元されている。
 何より、顔の奥には何もなく、ただひたすらに深い闇を抱えていた。


死配者リッチだね。あれにはボクの攻撃も通じるだろうけど、おそらく威力不足。悔しいが、また君を頼らなければならないよ……やはり魔法師を取り込んだか」

「先生にはアドバイスとサポートをお願いしたいです。実戦の方は僕にお任せを」


 俺たちが現れた死配者に向き合うと、ソレは握り締めた長杖を地面に突く。
 すると、どこからともなく呻き声を上げる霊体たちが飛んでくる。


「──『武装錬装クラフトアームズ』!」

「──『追尾魔弾フライクーゲル』、『構造解析アナライズ』」


 共に魔術を起動して、戦闘を開始する。
 俺は本体である死配者を討つために、彼女は霊体たちをどうにかするために。


「ふぅ……“魔力体・純”──“縮地シュクチ”!」
《怪力、剛筋、体幹、軽業、歩行、体勢、脚力強化、身体強化、指力強化、細胞活性、駆足、駈足、血管強化、内臓強化、平衡、視界把握、健脚、俊足、豪力、跳躍、並列思考》

『…………』

「いやぁああああ──『業魔一刀ゴウマイットウ』!」
《身力操作、大声、狂叫、絶叫、声帯強化、発叫、裂孔、脱力、魔力付与、身力制御、爆音、切断強化、自壊耐性、負荷耐性、報復、強者殺、背水の陣──“限界突破”》


 俺、というか自由民の特権である制限数の無い多くのスキルによる相乗効果。
 再現した武技は霊系特攻の一撃、そこに乗せるのは制御と威力を整えるための仕込み。

 それらを限界突破でさらに強化して、確実に殺し得るだけの力とする。
 籠められた力のヤバさに気づいたのか、何らかの魔法を発動する死配者。

 だが、俺は真っすぐ突き進む。
 耐性スキルで大半の攻撃を弱体化させ、高めた身体能力の硬さで痛みも苦しみも抑え込み、並列思考で余計な物として排除する。

 本気で対処しようと霊体を向かわせているようだが、そちらは彼女が妨害していた。
 魔弾が次々と霊体たちを撃ち落とし、俺の下まで誰も到達できない。

 体感速度的に、ゆっくりと振られる刃。
 冴え渡った感覚が告げている、このままいけば斬り裂けると。

 俺もそう考えているし、彼女もそう思っているからこそ俺を向かわせた。
 ──だが、俺の直感だけはこのままでは終わらないと叫んでいる。


『──ッ!!』

「っ……これは!?」


 刃が核に突き立てられる寸前、死配者の体内から膨大な魔力が噴出。
 瘴気が混ざったそれの力に押され、俺の体は強制的に後ろに移動させられる。

 何が起こったかは分からない……が、俺でも分かることが一つだけ。
 ローブの中で爛々と光る緑色の炎、どこかで見覚えのあるそれは執念の輝きだった。


「ノゾム君!? 見たところ、異常は無いようだが……無事かい?」

「ええ、完全には到達していませんでしたので、断裂や骨折程度で収まっています。この程度であれば、すぐに再生が──」

「……思っていた以上に重傷だよ。特に、その考え方が問題だ。とはいえ、説教をしている暇は無さそうだ……あのような現象に心当たりは?」

「おそらく、自我のようなものが芽生えたのでしょう。例の魔法師は死にました、目的を遂げる間際で。だからこそ、同じような目に遭うのはごめんだと。文字通り、持ち得るものすべてを使って抗ったのかと」


 お説教を回避できたのは良かったが、これはかなり不味い状況だ。
 守護者として強化された禁忌の魔法師を、たった二人で相手にするのだから。

 しかも片方は戦闘経験が少なく、もう片方は再生するまで体がズタボロ。
 できることと言えば、相手を解析することのみ……さて、どうするべきか。


「ノゾム君、何か策はあるかな?」

「先生も考えたかもしれませんが、再現された以上この場所そのものに何かヒントがあるかもしれません。ギミックさえ解くことができれば、比較的容易に倒せるかと」

「……分かった、そっちはボクが」

「ええ、なのでお相手は僕がしましょう──“傀儡寄生マリオネット”」


 壊れた体を直す間は、魔術で対応する。
 デバイスでは緻密な操作ができなくなるので、自身で純属性の魔力を練り上げて発動。

 糸に操られる人形のように、体内から神経の掌握を行うことで人体を支配する魔術。
 他人に使うよりも簡単にそれは成功し、俺の意のままに壊れた体が動き出す。

 ──さて、俺が完全にぶっ壊れる前に彼女は攻略を済ませてくれるだろうか。


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