1,973 / 2,518
偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者と霧の都市 その19
しおりを挟む二階層は白亜の壁や床だった一階層と打って変わり、土くれの壁や床だった。
何より着眼すべきは、そこには無数の檻が広がっていること……そこは独房なのだ。
「ここにはかつて、囚人たちが収められていた……君たちの世界ではどうかな?」
「僕の記憶がたしかなら……はい、そうだったと思います」
あまり海外のことは調べていない俺、昔読書で得た知識を引っ張り出して思い出す。
王族を収容していたこともあるらしいが、それはここなのか別の場所かは不明だ。
「どうやら悪霊の類いはここで生み出されていたのだろう。無垢な子供たちをも巻き込んで、己の復讐に加担させていたわけだ」
「それは……許せませんね」
「死人に倫理を語ることは、愚かだと言われるだろう。それでも、救いはあるとボクは思う。善良な生き方、それをすることもできずに死んでいった者たちもいる……ここで止めなければならない」
俺たち生者の存在は、死人たちにとって恰好の餌。
それゆえに即座に気づかれ、悪霊と化した霊魂が俺たちに襲い掛かって来る。
「ボクが──」
「いえ、先生は温存を。見ての通りかすり傷一つ負っていませんし、先ほど休んだことで充分に戦えます」
「それはボクもなんだが……いや、頼れる助手君にお任せしようか」
「はい、任されました」
構えるのは“武装錬製”で生み出した剣。
休憩中にデバイスから自己での発動に切り替えたので、新しく異なる魔術の行使をできるようにしてある。
「──『斬ノ理』」
俺の持つ魔術の中でも一、二を争うレベルで消費魔力が尋常ではないこの魔術。
理を冠したこの魔術は、ありとあらゆるモノを斬り得る可能性を秘めている。
弱点も無効化も関係ない。
ただ相手がどれだけ魔力を割いて防御するかどうか、防ぐための術はそれだけだ。
霊体と向き合い、俺は力を溜め込む。
身体強化に関するスキルをすべて起動、思考系スキルで身力の制御を済ませ、脱力スキルでそれらを一瞬押し込め──解き放つ。
「夢現流武具術剣之型──『刹那由他』」
準備期間中に得ていた縮地スキルをさらに強化して、霊体たちの間を潜り抜ける。
その際に何でも斬れる剣を動かし、無抵抗の霊体たちを斬り続けた。
途中で縮地が切れたら、格闘術の武技スキルである“縮地”を発動。
それも切れたら歩行スキルで再現し、再使用可能になったスキルを使い、また武技で。
そうして彼女を残したまま進み続け、辿り着いた最奥の間。
何かが発生したと感じた場所に、空間ごと切り裂く刃を振るい──出現を阻止。
結果、二階層に居たであろうすべての霊体たちが核を斬られて消滅。
ゴゴゴッと音を上げ、三階層へと続く道ができたことを確認する。
「ふぅ……これで、よか、った……」
俺はそのことに安堵すると、そのまま前のめりに倒れ込む。
もう少しスマートにやりたかったが、残念ながらこれが俺の限界だ。
夢現流武具術、それは『偽善者』のチートスペックに合わせた武技の盛り合わせ。
結構な時間を掛け、それなりのスキルを得たものの……圧倒的に能力値が足りない。
そんな状態で、強引に再現した武技。
それは名前の通り、刹那の間に那由他の斬撃を放つという頭のおかしい技。
もちろん、実際にはそこまで速い斬撃を行えたわけじゃない。
……まあ、フルスペックの状態ならできないわけでもないけど。
だが相応に速い速度で、しかも未熟な体で限界を超えた動きをすればどうなるか。
それがこの現状──筋線維はズタボロ、体の内外が損壊して大ダメージだ。
「──『癒療』、『無吸』、“息衝”、“超再生”」
魔術、精霊術、武技、スキル。
四つの手段を用いて、彼女がここに来る前までに最低限の回復を済ませておく。
彼女もすぐに気づいてしまうだろうが、そうでもしないとここは突破できなかった。
ごくまれに発生する直感スキルの閃き、それが運よく今回発動したのだ。
「入った時点で増殖、霧は減るけどその分だけボスが強化……しかもそれは本体にまで影響する、なんて告げられたら急ぐよね」
上で休んだのは正解だった。
もしここで時間を掛けていたら、間違いなく面倒なボス戦になっていただろう。
有象無象を相手にしている間に、霧を取り込み強化するボス。
そしてそれをどうにか倒しても、最終的に戦うボスがよりパワーアップしている。
そんな展開を避けるためにも、超高速で倒す必要があった。
時間を短縮し、今後の楽を得るために……俺はこうして代償を身で支払っているのだ。
「──まったく、君は愚かなことをする。君に任せたボクの立場がないよ」
「お姉さん……」
「魔石はボクが回収しておいた。あとはそのボスの魔石だけだよ」
彼女は転がっていた大きめの魔石を拾い、“停滞穴”へと放り込む。
そして小さく溜め息を吐くと、彼女自身の魔術で“癒療”を使ってくれる。
「無茶はしないでほしい。君がそうしないといけないと焦燥感に駆られたように、ボクもまたそうさせた君の下に急がねばと急かされたんだからね」
「……その割には、歩いていましたよね?」
「…………走り続けるよりも、歩いていた方が到着する時間が速いこともあるのさ」
長時間の運動は、現在トレーニング中の彼女なのでそこは仕方がない。
しかしまあ、ツッコまれて顔を背ける辺り自覚はあるようで何より。
そんなほっこりに気づかれたようで、この後俺は長時間のお説教を受ける。
ある意味、普通に戦っていた方が良かったもしれない……そう本気で思うのだった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる