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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と霧の都市 その17

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 濃霧が隠すのは潜む殺人鬼だけではない。
 そのことをこの施設に入った際に、思い知ることになる。

 中に入った俺たちは、ある出迎えを受けることになった。
 ただしそれは、殺人鬼でもましてや善意によるものでもない。


「──先生、来ます!」

「やはりか……頼んだよ、ノゾム君」

「分かりました──『武装錬製クラフトアームズ』!」


 魔力を編んで構築した片手剣を握り、周囲の警戒をする。
 俺の感知系スキルが気づいた反応を、探知系スキルでより詳細に暴いていく。

 現れたのは下級の悪魔たち。
 爵位などを有していない、位階で言うのであれば1から3程度の個体だ。

 ジャック・ザ・リッパーの正体、その説の中には悪魔だというものもある。
 運営が仕込んだであろうその設定が、このタイミングで形を成したのだろう。


「──『光刃コウジン』、『煌明刃ビームブレード』!」


 刃に光を燈す魔術を起動し、同様の効果を持つ武技を己で再現。
 完全な聖属性ではないが、それでも退魔の力をその剣に宿す。

 俺が最優先にしなければいけないことは、彼女と引き離されないようにすること。
 戦闘になるのはいい、しかし彼女を守れなくなることが一番避けたい点。

 幽かに見える悪魔たちは、笑い声を上げながらこちらを見ている。
 それは俺の必死な抵抗が、はたしていつまで持つのか……といったところだろう。


「今の間に身体強化の魔法を」

「うん。■■──“身体強化ボディブースト”」


 詠唱を省略することはできるが、まだまだ完全にとはいかない彼女。
 俺が時間を稼いでいる間に、身体強化をすることに成功する。

 霧対策に使った“防護覆服ガードスキン”もあるので、干渉自体はどうにか捌けるだろう。
 対人戦ならばどうにかなる彼女、接近戦に挑まれればそれなりに対処可能だ。


「だからそれ以外を、僕が守ればいい……行くぞ──“衣土ソイルクロス”」


 発動したのは攻撃魔法ではなく防御魔法。
 周囲の土をその身に纏い、防御力を上げることができる……身力操作を行いその性能を強化、イメージ的にはダイヤモンド級だ。

 しばらく膠着状態が続くと、痺れを切らした悪魔たちが襲い掛かって来た。
 彼女を狙うのが正解だろうが、俺には毎度おなじみのアレがある。

 理屈ではない、本能がそう訴えかけてくるのだろう。
 嫌悪感がするアイツを殺せ、他の何よりも優先して消せと。

 接近戦を試みようと爪を伸ばす個体、遠くから魔法で仲間ごと殺そうとする個体。
 迫って来る悪魔たちを見ながら、俺は魔力の刃に力を注いでいく。


「──『霊断リョウダン』!」


 破邪刀術の武技、本来今の俺では習得していない武技だが再現だけなら可能だ。
 霊視スキルを起動、悪魔の核となる部分を狙い刃を振るう。

 悪魔が不滅なのは、星辰体を傷つけられない限り何度でも蘇えるから。
 霧で一時的に顕現していたようだが、その核さえ狙えば一撃で潰せる。


「……殺人鬼と戦っている間も思っていたけども、この世界の誰とも異なる戦い方だ。君の世界の武人は、それほどなのかい?」

「それほど、の意味は分かりませんけど強い人はいますよ。僕の師匠は剣聖みたいな方ですし、僕自身武技は可能な限り自分で使えるようにしていますから。対応する武器が無くても、効果だけなら再現できます」


 理論上、武技は発動に必要な精気力を注いでモーションをなぞれば使うことができる。
 対応するスキルが無いと本来の性能は発揮しないが、それでもやれることがあった。

 斬撃であれば斬撃強化を、今回のような攻撃なら退魔特攻を精気力を変質させて行う。
 魔法と違って意識するだけでできることなので、使いこなせる者からすれば簡単だ。

 イメージ的には、気功系の武技で性質を変えているのと同じ。
 アレを自力でやっていれば、自然とできるようになるだろう。

 ──といったことを彼女に説明すると、何やら額に手を当てて唸りだした。


「……少なくともこの世界は魔法が主体だ。武人と呼ばれる者は少なく、居ても君に劣るだろう。純粋な力ならばともかく、その技巧は紛れもなく一流のものだからね」

「そうでしょうか?」

「うん、少なくとも会話をしながらそれだけ余裕に戦える者を、この世界では二流や三流とは呼ばないからね」

「僕は力で劣ることが多くて、その分口先で戦うことが多いので……自然とこういうやり方にも慣れちゃいました」


 時として、悪魔よりも悪辣に回る俺の舌。
 相手を挑発させられるのだから、使わないというのは損だろう……もう割り切って、使おうと思うときも時々ある。

 下級悪魔はそこまで知性が無いので、とりあえず話しかけるだけで挑発できた。
 これは俺に才能があるからではなく、畏怖嫌厭との相乗効果だろう。

 ──決して、俺が無意識で最適な怒りのポイントを突いているわけじゃない。


「そ、それよりも先生、どこに本体がいるのかは分かりましたか?」

「探知はしているが、反応は無い。そういった能力を持っているのだろう」

「そうですね、僕の世界の伝承を色濃く受け継いでいるならその可能性もあります。そうなると、虱潰しですか?」

「いいや、探知で分からずとも推理で当てればいいだけのことさ。目星は付けてある、そこを目指すとしよう」


 自信ありげに語る彼女は、とても綺麗だと感じた。
 ボーっとする気持ちをすぐに切り替え、俺は悪魔たちを掃討していく。

 そして俺たちは、広間へと辿り着いた。


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