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偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者と霧の都市 その06
しおりを挟むそんなわけで彼女──シェリンと俺は殺人鬼の正体を暴くことになった。
俺は偽善のため、彼女は正式に探偵として認めてもらうため。
互いの利は一致……しているか微妙だが、それでも契約は成された。
もちろん形式的なものであって、特に縛りなどは無いんだが。
──むしろ、縛られているのは俺のステータスだけだ。
「……というわけで、まずは修理です」
「急にどうしたんだい? ああ、ここに関して気にする必要は無いんだよ」
「お姉さんは気にしなくても、僕は気になるからやります! 今は木工スキルがあるし、加工もできます。お姉さんは、木材か何かを用意していただけませんか?」
「ふむ……少し興味が湧いてきた、工面してみよう。そして、ボクも手伝おう」
彼女が行ってくる、とだけ言って外に出て少しして──木材を大量に持ってきた。
いやいやおかしいだろ、とノゾムの口調でツッコんだのだが──
「探偵とは認められていないけど、それでも小さなことはやってきたつもりだよ。その結果、できた繋がりもあるんだ」
「そこから貰ってきてくれた、ということですか?」
物語では定番の話だ。
まだまだ探偵としては完璧ではないらしい彼女も、すでに何度も小さな依頼を解決している。
そうした繋がりを経て、俺の些細な願いを叶えてくれたようだ。
……偽善よりも純粋に、彼女が依頼に取り組んだからこそだろう。
彼女がどのように伝えて持ってきたかは分からないが、どんな用途でも使えるように角材を丸々貰えるというのは、本当に信用されているのかもしれない。
大量の木材を、しかもそれを仕舞う魔道具まで借り受けたうえで頂いているのだから、それは間違いないはずだ。
「そういうことさ。ではノゾム君、君の腕を確かめさせてもらおう。木材だけでなく、工具の方も持ってきてある。好きに使ってくれていいようだ」
「はい、頑張ります!」
今の俺は意図的に加護の効果も抑制しており、生産神の恩恵にはあやかれない。
それでも行ってきた経験そのものは、俺の中に残っている。
それらを基に、木材の加工を始めていく。
魔道具から取り出した角材を、俺は記憶に残る加工技術を用いてテキパキと彼女の家に合わせて変形させる。
「……驚いたよ。ノゾム君には、このような才能があるんだね。いや、そのような言い方は野暮か。よくぞここまで、努力したね」
「はい、いろいろとありまして……。今の僕にできるのは、せいぜいお姉さんが立派な探偵になるまでの繋ぎです。そこからは、今回木材を提供してくれた親切な大工さんに頼んでください」
ちなみに加工と木工、そして建築スキルをやっている間に獲得した。
……うん、持ってなかったけども、つい魔が差したんだよ。
やはり経験に基づいてやっているため、普段よりも効率的に熟練度が溜まるようだ。
なんてことを考えながら、並列行動を意識しながら作業を続ける。
「ところで、依頼人としてボクにやってほしいことは分かった。けど、具体的なことをまだ聞いていない。君は殺人鬼を見つけて、どうしたいのかな?」
「……特に決めてなかったんですけど、とりあえず見つけてから考えます。それじゃダメでしょうか?」
「いいや、それもノゾム君の選択さ。よし、それじゃあボクは少し調査をしてこよう。その間、君に留守は任せておこう」
「うん……そうだ、お姉さんこれ! お守り代わりに持っていって!」
この場を離れ、調査に向かってくれる彼女に渡すのは小さなお守り。
ただし、内部に魔道具が仕込んであるので普通の物よりご利益があるだろう。
「これは……どんな効果があるんだい?」
「お守りだよ。僕の依頼を聞いてくれた、お姉さんを守ってくれますように。役に立ってくれないことを祈ります」
「うん、そうあることを善処するよ。では、行ってくるとしよう」
そう言って、彼女は外へ向かう。
どういったことをするのか分からないが、当てもなく彷徨っていた俺よりは情報を集めてくるに違いない。
「今の僕にできるのは、彼女の役に立つことだけだよね──“万色魔力”」
じっくりと時間を掛け、自身の魔力を純属性に染め上げたうえで発動する。
それは、固有魔法やある【賢者】の魔法を基に構築された──熟練度稼ぎの魔術。
今はまだ土属性しか属性魔法のスキルを習得していないが、これで効率を上げられる。
それを自分に当てていけば、耐性スキルのレベリングにも使える一石二鳥っぷり。
彼女の前でそれを見せなかったのは、決して警戒しているからではない。
単純に、この魔術を知られるのが非常に不味いと思ったからだ。
属性至上主義、みたいな感じのここでこの魔術は異端そのもの。
誰でも好きな属性を、微力とはいえ出力できることは危険でしかない。
俺がやっている通り、熟練度稼ぎに用いればどれかしらの魔法スキルは得られる。
一度得た熟練度は、そう簡単には下げられない……いずれはスキルに辿り着く。
「そういうどうでもいいことに、巻き込むわけにはいかないもんね……さて、同時にやっていこうか」
体は小屋を家にするため動かし、思念で構築した魔術を次々と異なる属性に変換。
それを繰り返していれば、無数のスキルを育てていける。
彼女も夜になる前には帰ってくるだろう。
その前には、この工程もすべて終わらせておきたいものだ。
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