1,952 / 2,518
偽善者と迷い子たち 三十一月目
偽善者とキップル渓谷 前篇
しおりを挟むW11 キップル渓谷
俺と彼女が訪れたのは、巨大な橋が架けられた谷だった。
座標的には水上都市と学芸都市の間、そこにこの谷は存在する。
ちなみに橋は有料なので、金を払いたくない奴は降りるか飛ぶしかない。
大半の祈念者は前回のレイドイベントで無料になっているが……俺は当然、有料だ。
普段通り、初心者の服で訪れた俺は忌々し気な目で見られている。
それはこんな場所に居る初心者に向けられたものであり……それ以上の妬みも感じた。
「まあ、目的地は下だから全然問題ないのが実情だけども。それじゃあ張り切って、捜索開始と行きますか!」
「はい、メルス様。護衛はお任せください」
「そうだな。目的地が現れるまでは、レミルに全部任せておく。採取ぐらいしかしないから、そんな俺を守ってくれ」
「畏まりました。この身を賭けて、メルス様の御身をお守りいたします」
今回、俺に同行してくれるのは天使だ。
正確には使徒だが、種族を総称すれば同じことである。
本気モードである甲冑などは装備しておらず、天使らしい白いトーガを纏っていた。
……それはそれで煽情的で、認識偽装が無かったら暴動が起きていたかもしれない。
閑話休題
その腕に取り付けた武具──二枚の盾こそが、彼女の戦い。
専守防衛、防御は最大の攻撃、そういったスタイルを彼女は取っている。
それは、ある意味俺(とレン)のせいでもあるんだけど。
彼女はそれを上手く使いこなし、やり抜いている……賞賛に値するよな。
「じゃあ、崖の下に行こう。普通の方法で降りることはできないし、どうやって移動すればいいのか……」
「よろしければ、私がお運びいたしますが」
「うーん、いきなり頼りっぱなしだな……まあでも、決めたばかりだしな。任せた」
「はい、承りました!」
俺たちは人目に付かない場所へ向かう。
そこで崖の先端まで歩を進めると、レミルがあるモノを取りだす。
それは巨大な盾。
彼女が装備している二つとはまた異なる盾が──持ち手側が上でふわふわ浮いている。
「メルス様より賜った“飛武具装”。ありがたく使わせていただきます」
「制御が大変なはずだがな……お荷物を抱えても大丈夫そうか?」
「お荷物などではありませんよ。ご安心を、必ずやお守りいたします」
そう言って微笑むレミルは、やはり眷属の中でも一、二を争う天使っぷりだ。
ちょっとだけ({感情}が戻さない程度に)キュンとしながら、俺は盾に乗った。
レミル自身は隠していた純白の翼を広げ、崖から落ちる。
それに連動して、一定距離を保ったまま移動を開始する盾。
「本来、崖から下に行くやつって、無抵抗だからな……来るぞ」
「メルス様には触れさせません」
まず出迎えてくれたのは鳥型の魔物。
雀のように小柄な体躯のようだが、その速度は決して遅くはない。
むしろ鈍重な体を持たないため、どの魔物よりも速く辿り着いたようだ。
そして、その勢いのままこちらに突っ込んで来て──どの魔物よりも速く死亡する。
「──“防合”」
レミルは両手に取り付けられた盾を合わせて防御を行う。
ただしそれは左右ではなく前後、重ねるようにして行われる。
彼女の盾『多重絶壁[アルメス]』は、複数枚の盾を重ねて使えるようにしてあった。
俺が今使ってもらっている“飛武具操”の恩恵にあやかり、同時に扱えるように。
レミルの持つ盾は現在、左右で異なる大きさの盾だった。
そして、盾を組み合わせることでその組み合わせによって異なる効果を発揮する。
今回はシンプルに防御性能の強化。
そして、そこに盾と盾を合わせることで発揮される武技による強化も重ねられている。
その結果が自滅。
おそらく防御ごと貫く自信があったのだろうが、それ以上の防御力に防がれることで反動を喰らったからだ。
「──“集攻盾”、“挑鳴打盾”」
次第に追いついてくる魔物たち。
その標的はレミルだけではなく、無防備かつ邪縛によって異常なほど殺したくなる俺も含まれている。
むしろ、俺の方に魔物が多く近づいてきていた──が、レミルがそれを防ぐ。
重ねていた盾を打ち合わせ、精気力を波紋のようにして魔物たちへ飛ばす。
すると、俺に抱いていた敵意や殺意の矛先が強制的に書き換えられる。
その結果、近づいてきていた魔物すべてがレミルの下へ向かうことに。
「──“反物防盾”!」
ガガガガッ! と激しい音が彼女の盾越しに鳴り響く。
何十、何百という魔物たちが突っ込んではその反動に押す潰されて落ちていった。
「いやー、なんともまあ凄惨な光景だな。あえて邪縛を切らなかったのがダメだったか」
「メルス様ご自身を隠す必要はありません。たとえ何物であろうと、通ること敵わず。それこそがレン様が私に刻んだ命です」
「そんな壮大な感じだっけ? まあ、俺はその表現好きだからいいけど」
「す、好きだなんてそんな……嬉しいです」
そんな感じで、俺たちはイチャイチャしながら渓谷の奥底へ向かう。
なぜそこへ向かうのか、それはそこに現れる可能性が高いから。
無いはずなのに有って、在るはずなのに見つからない──そんな霧の都を、俺たちは探していた。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる