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偽善者と迷い子たち 三十一月目

偽善者と友魔の楽園

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 第四世界 迷宮『友魔の楽園』


 本日、新しくオープンした迷宮のお披露目会が開かれる。
 他とは違い、踏破をしてはいけない迷宮だが……訪れる者は多い。


「ようこそ、『友魔の楽園』へ。ここには従魔たちを預け、君たちが必要に応じて呼び出せるように保護しておくために築かれた。とある従魔師が、よりよい環境で従魔たちに過ごしてほしい……そう願ったのだ」

「うぅ……」

「残念だが、その従魔師は名乗りを上げることを控えてほしいと言っていた。だが、それでもその従魔師がこの迷宮の建造に一役買っていることに違いはない。今後、ここを利用する際はその従魔師に感謝してほしい」


 集められた迷宮の入り口、の近くで恥ずかしがる少女が居るのだが……まあ、そこはご愛嬌ということで。

 当然ながら、願った本人が居なければ用意する意味が無いからな。
 隠れてもらってはいたが、個人情報まで隠すとは一言も言っていないのである。


「というわけで、本日開園だ。内部で説明を担当の者が行うから、各自準備が出来たら中に入ってくれ。襲ってくる魔物はいない、探索者でない者も安心してほしい」


 そう言うと、次々と迷宮へ潜っていく従魔師の皆さん。
 俺が管理する迷宮の安全性は、ここで過ごしていれば自明の理になるからなー。


「……それじゃあ、俺たちも行くぞ。カナ」

「魔王さん……嫌いです」

「あっははははっ! いきなり嫌われたらもう困りもんだ。なら、嫌われ者はここを離れるとしよう。案内に関しては、他の奴を派遣するから……それでいいか?」

「あっ、いえ。魔王さんがお忙しくないのであれば、案内してほしいです」


 俺よりも任せようとしていたヤツ──レンの方が詳しく説明してくれただろうが、そう望むのであれば俺が担当しよう。

 姿を隠すため、ローブを被ってもらって共に迷宮へ入る。
 一層に広がるのはどこまでも広がる草原、そしてそれを管理する──魔物たち。


「基本的に、管理は迷宮の魔物が行う。実際には管理が必要な個体だけしかしないし、言葉が分かる奴が必要かどうかは確認する。望まないことはしないつもりだ」

「他の階層もこういった感じで?」

「まあ、そうだな。フィールドに違いはあるけど、それぞれの環境に適した魔物がお世話係になる。自給自足ができるように、それ以外の魔物とか植物も配置しておくぞ」

「……凄く、考えられていますね」


 まあ、一度決めたからにはとことんやりたくなるのが生産者としての矜持だ。
 カナが、そしてその他の従魔師たちがいっさい文句を付けないような場所にしてみた。

 要望があればアップデートも重ねていく予定だし、まだまだ満ち足りていない。
 目指せホ゜ケモンセンター、そして育て屋さんだ!


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──とまあ、こんな感じだ。さっき渡した魔道具で、たぶんカナの固有スキルと接続できるようになると思う。操作も説明した通りだから、移住希望者は移してくれていい」


 十階層から成るこの迷宮の紹介を終えて。
 少し呆けた表情を浮かべる彼女に、そう言い含めておく。

 一度、目覚めているかどうか確認した方がいいだろうか……そう考えていたところ、そうせずともカナの口が小さく動き出した。


「魔王さんは……」

「ん?」

「どうして魔王さんは、ここまでしてくれるのですか? 何のために、ここまですることができるんですか?」

「何のために、か……まあ、趣味だな。誰かに何かを頼まれて、それを俺が楽しいと思えばやってみる。いいと思わないか? 自分にできることが、誰かのためになるってのは」


 その極致に偽善は存在する。
 人の生死すら、己の狂った秤に掛けて思うが儘に振る舞うのだから。

 カナの求めるような答えは返せない。
 これまでも、そしてこれからも……誰かを大切にしたいという解答を、責任が取れない奴はできないからな。


「俺からも一つ、訊いていいか? なんで、召喚士じゃなくて調教師だったんだ? それならわざわざ蘇生云々で悩まずとも、従魔を率いれただろうに」

「召喚士よりも、調教師の方が多く従魔を集められるということでしたし……そのための補助能力もありますので。何より、呼びだすだけじゃない、一から構築する関係に憧れていたんです」

「……その気持ちは分かるな。まあ、召喚士も召喚士で、契約するためにそれなりに努力しているらしいけどな。ほら、イアがちょうど召喚士だし」

「はい。召喚士を否定しているわけじゃありませんし、凄いとも思っています。それでもわたしは、調教師として限りある命を大切にしたい……そう、最初は思っていました」


 彼女は【友愛調教姫】。
 友愛の名が示す通り、彼女は従魔たちに慈しみを以って接している。

 祈念者は死に戻り、蘇生魔法が存在するこの世界。
 そして、召喚士は何度死んだように消えても再度同じ個体を使役する。

 調教師の残酷さに、思うところがあってもおかしくはない。
 それゆえに彼女は、こうして偽善者に魂を売るような行為に至った。


「──今度、従魔にも使うことができる蘇生魔法を開発してみようか」

「! それって……」

「まあ、ハークでもできないってなると、時間は掛かるかもしれないが……少なくともこの世界の俺には不可能なんてない。だから、お礼の準備でもしておけよ。そうだな、俺を楽しませてくれるものでも考えてくれ」

「っ……はい!」


 従魔を蘇生する手段が限られていたのは、それなりに理由があるからだ。
 だが、それを満たしたうえで蘇生を行えるアイテムが俺たちの手元にはある。

 ならば、やってみて損は無い。
 世の中に、同じ悩みを持つ従魔師は間違いなくいる……偽善にも繋がるのだ、やってやろうじゃないか──主に眷属が!


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