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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その20

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 会場は大いに荒れていた。
 突如、ステージの機材が爆発したのだ。

 慌てふためく観客の中から、なぜか現れだす死に戻りのエフェクト。
 海上のステージは孤立無援の処刑場、それはPKにとっても、観客たちにとっても。


「──到着っと。それではカナさん、アルカさん。少々、懲らしめてやりなさい」

「えっ? え、えっと……」
「無視よ、無視。それよりも、早くこれを止める方に集中しなさい」
「は、はい!」

「……まあいいけどさ。俺も張り切るから、二人とも頑張れよ──“大海柱オーシャンピラー極大マキシム”」


 先ほどまで自分たちが居た場所を指定し、魔法を発動。
 尋常ではない量の海水が吹き上がり、巨大な柱を構築する。

 その視覚と聴覚、触覚を刺激する変化にほとんどの者は動きを止めた。
 そして、気づく──大量の船の残骸がその柱から降り注いでいると。


「踊れ──『聖刃武闘』」


 その隙に、聖気を注いだ剣を生成する。
 魔力を強引に変換したもので、【聖櫃王】であるリーダーが再度構築した聖なる結界の恩恵を受けるためのものだ。

 それを十、百と増やして放っていく。
 神眼で悪意を抱く者だけを見抜き、的確に当てていくだけの簡単なお仕事。

 魔力消費のために常時魔力を聖気に変換して供給しているので、切れ味はかなり良い。
 無駄な魔力を使い潰し、贅の限りを尽くして掃討を行う。


「魔導解放──“旋律源永奏楽団”」


 ついでに、この場にいる者たちにバフとデバフを施していく。
 反抗する者たちにはノイズ音を、それ以外の者たちにはお嬢さんの歌に合わせた音を。

 彼女は再び歌を奏でている。
 勇ましく、猛々しく心を奮わせる曲が、ステータスだけでなく、彼ら自身の心に勇気を灯していく。

 俺の曲はその補助に過ぎない。
 曲にバックミュージックが加わり、より彼女の歌のイメージができるようになった。

 一人、また一人と拳を握り締めてPKたちに立ち向かう。
 多勢に無勢、いろいろとサポートされて強くなっていたPKも数に負けて減っていく。


「けど、それだけじゃ終わらないか……」

「メルス、あれは何なの?」

「ふむふむ……要するに、予め集めておいた魔物を解放できるらしい。これも、本当はもう少し多かったんだろうが……ちょうどこのステージで収まる分だけになったか」

「……そういえば、迷宮を支配していたとか言ってたわね」


 当初の予定では、迷宮を支配したうえで魔物を大量に発生して確保する予定だったのだろう──その目論見は俺が台無しにしたが。

 設定を変えられなくなって、仕方なく自動ポップされた分だけを確保し続けたはずだ。
 まあ、一万は確保しているのだ、充分と言えば充分だ……俺たちが関わらなければ。


「魔導解放──“屍背負いの咎人よ”」


 重ねるように強いる魔導。
 業値がマイナスであればあるほど、ひどくなるデバフを施すというもの。

 魔物を用意したことで優位になったはずのPKが、さらに弱体化される。
 あえて魔物には何もしない、せめてもの経験値稼ぎをさせるにはちょうど良かった。


「これで、充分だろう。なあアルカ、他にできることってあると思うか?」

「……これ以上、何をする気なのよ。見なさいよあれ、酷いぐらい蹂躙じゃない」

「…………まあ、いいんじゃないか? この世に悪は栄えない、まさにその通りになっているわけだし」


 バフはてんこ盛り、相手は虚弱状態。
 イベント特有の盛り上がりも相まって、祈念者たちはノリに乗っていた。

 勝利の女神(歌姫)が付いている以上、自分たちには敗北などありえないと。
 そう思い込み、魔力がそれに応じて身体強化を発動し、普段よりも力を発揮する。

 PKの数が減れば減るほど、その思い込みは強くなっていく。
 もちろん、それでも勝てない相手は居るのだが……そういうのは眷属が処理している。

 そのため、安心安全に子供が夢見るような無双プレイを満喫できるのだ。
 裏で頑張っている眷属たちには……あとで労いの料理でも振る舞うとしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 最後に、俺はとある場所に乗り込んだ。


「やあやあ皆さん、いいエンディングをありがとう! Cパート、後処理の撮影を始めるとしようか!」

『っ……!?』

「どうしてここが? なんていい反応をしてくれてありがとう! 答えは簡単、君たちの中に裏切り者が居るのさ!」


 窃盗と暗殺、二人の犯罪者少女たちが見つけだした最終拠点。
 巧妙に隠された小島の一つに乗り込み、俺は高々に叫んでいた。

 なお、この間に潜入している二人にはご退場を願っている。
 この後は、いつものように処理するだけの簡単なお仕事だ。


「えー、誠に申し訳ないのですが、残念ながらまだ魔力の方が有り余っておりまして。つきましては、皆さんでそれをすべて発散させていただきます。もちろん、それを止める方法はただ一つ──私を殺すことだけ」

『死ね!!』

「では、それじゃあ一発目を。魔導解放──“閉ざされし終末”」


 時間の止まった空間に封じた祈念者を、弄ぶように眺める。
 まだまだ魔力はたっぷりあるのだ……精々頑張ってほしい。





 ──が、残念ながら次に発動させた魔導でPKたちは全滅。
 罰ゲームを受けることが確定し、イベントは幕を閉じるのだった。


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