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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その19

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 迎えた最終日、歌姫によるコンサートが花火と共に幕を開いた。
 海上に展開されたステージの上で、少女がただ独り歌を奏でている。

 水が波紋を生み出すように、少女の声が心に響いていく。
 それは音叉のように共鳴し、やがて大衆の想いを高め合う。


「そう考えると、魔性の声とか洗脳とか言われそうな類いだな。俺からすれば、ただいい声で歌っているだけにしか思えないけど」


 精神干渉でもっとも通用する方法、それは体を経由して作用させるというもの。
 システム的な保護はされていても、本人がその状態異常に近しい心境ならば同じこと。

 状態異常としての魅了が通じずとも、その見た目が魅力的であれば魅了されるように。
 少女の歌は心身に訴えかけるナニカによって、大衆を引き付ける『導き』を成す。


「さて、そんなこんなで始まったぞ。全員、準備はできているか?」

《こちらA班、バッチリです。師匠サー
《B班、問題ないわ。妖精フェアリーが少し、はしゃいじゃっているぐらいよ》
《C班、問題ですご主人様サー。》

「了解。異常があればすぐに報告を。結界がある以上、やれることは限られている。目標が殺られないことは当然、他の奴らに可能な限り死傷者が出ないようにしろ」

了解ラジャー!》


 念話を繋ぎ、祈念者の眷属たちの様子を確認しておく。
 ユニーク組のA、それ以外を割り振ったBとC、そしてD。

 最後のグループはともかく、三グループには報連相をしっかりとさせている。
 彼女たちには会場内での問題を解決させるため、いろんな場所に潜んでもらっていた。

 加えて、親衛隊が目と結界を光らせているので迂闊な行動はできない。
 ……本当は悪意を弾く結界とかも用意できたらしいが、さすがにそれはダメだった。


「それやったら、欲情している奴とか全員問答無用で弾かれるもんな。夢を持つことぐらい、認めてやんないと」


 まあ、人の夢だから『儚い』わけだが。
 そんなわけで、内部に潜んでいる奴はどうにもできないので放置したが、外部からの狙撃などは徹底的に阻止している。

 それを成し得るためには、結界の方を先にどうにかしなければならない。
 だが、そのためには【聖櫃王】であるリーダーを含めた親衛隊の討伐が必須。

 おまけに眷属も防衛に参加しているので、おそらく不可能に近い。
 なので彼女たちの働き次第で、今回の計画は防げるわけだ。


「だからああして無駄に潜んでいるヤツは、ぶっ壊してもいいわけだ。アルカ、カナ。二人とも準備はいいか?」

「……ええ、早くして」
「全員、準備OKです」

「了解。じゃあ、制御は俺の方でやる。お前らは合図でいっせいに発射だ」


 指示を出すだけの俺とカナはともかく、アルカはだいぶキツそうである。
 それだけの規模の魔法を制御させているのだから、当然と言えば当然だが。

 仕込みはシンプル、<集束魔法>を隠れている連中に向けて展開しておくだけ。
 あとは二人が放つ一撃を、俺が集束させて正しい目標へ当てればいい。


「──準備万端だ、頼む!」

「もういいわね──『滅魔墜星』!」
「『みんな、お願いします』!」

「あとは任せとけ──“集束クラスター”!」


 アルカの放った巨大な隕石、そしてカナの従魔たちの攻撃をすべて支配下に収める。
 集束魔法の本質は、ベクトルの操作……無論、加速させることも可能だ。

 アルカの魔法をもっとも隠れている場所へ向け、それ以外の場所にも従魔の攻撃を。
 速度が上がり、集束魔法の干渉でさらに魔力が増大された攻撃が──ステルス船へ。


「……うーん、とりあえずこれでいいか。あとは、向こう側の方だな。ん? どうした二人とも、いろいろ複雑そうな顔だが」

「よくもまあ、他人の魔法にそこまで干渉できるわね。くっ、もっと制御する必要があるみたいね」

「えっと、それって凄いんでしょうか?」

「要するにプライベートを無視しているわけよ。犯罪臭しかしないわね」


 アルカなりの皮肉なんだろうが、カナはよく分からないようで首を傾げている。
 まあ、これができると身体強化魔法とかもハッキングできるしな。

 ……かつて俺がシャインにやったようなことも、擬似的に再現できるぞ。


「それはいいとして、さっさと行くぞ。結界の識別は無視できるんだ、あの騒動が完全に終わる前に一暴れしたい」

「は、はい、頑張ります!」

「アルカも……ほれ、手を出せ。魔力が勿体ない」

「……そうね。仕方なくなんだからね」


 カナ、そしてアルカの手に触れて転移を行う──<次元魔法>で。
 通常の転移よりも強引に、許可もへったくれもないごり押しだ。


「ちょ、バカなの!?」

「そういえば、今の俺の縛りを言ってなかったな──魔力の消費。0まで使い潰さないと大変なことになるんだよ!」

「……人の魔法に干渉する方が、都合がいいわけね」

「というわけで、もう外から来る心配も無いから一度強引に行きまーす」


 本来は簡単に入れただろう結界を、意味も無く強引に押し通る。
 例えるなら、鍵を持っているのに扉を破壊して入る感じだ。

 そう、つまり結界を破壊している。
 事前に神眼で結界を調べて、その反動が術者である親衛隊たちに響かないよう、いちおう最低限のフォローをしたぐらいだ。

 ──さあ、最後の戦いを始めよう。


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