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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その17

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 商店街──フリアモ商店街を訪れた俺の姿は、これまでと変わっていた。
 平々凡々なのはそのままだが、その見た目年齢が大きく引き下がっている。

 あと、使えるスキルも縛りプレイで得たスキルのみに限定されていたり、なぜか大量のお金を持ち歩いているなど、結構な状態だ。


「さて、こっちに来たぞ──Z商会」

「『Z商会 フリモア商店街支部』へようこそいらっしゃいました、お客様」

「……あれ、どうしてこっちにも?」

「例のお買い物で、会頭が偉くお客様を気に入りまして。そのため、ノゾム様あるところ私あり、といったサービスが始まりました」


 訪れたのは、ノゾムの姿でかつて来ているZ商会という店の支部。
 帝国にもあったこの店だが……うん、なぜか同じ顔の人が担当していた。

 会話から分かると思うが、どうやら前回誰も買っていなかった会頭のスペシャル商品を買ったことで、好感度も買ったようだ。

 というわけで、帝国支部の支店長であるZさんがここに来ていた。
 ……いろいろとツッコミたい部分はあるのだが、それは後回しということで。


「ではお客様、本日お望みの品は?」

「えっと、前のようにユニーク種などは?」

「残念ながら、さすがに入荷はしていませんね。彼の魔物のような特殊な存在は、すべて外部からの入荷か会頭自ら持ち込んでの入荷となります」

「……さすがにありませんでしたか」


 かつて、この商会で一体のユニーク種を見つけて──討伐した。
 お陰で得た『流転呼珠[ディヴァース]』は、今も暇なときに使っている。

 因子を打ち込んで強制的に進化先を増やしたが、いろいろ足りないものが多くてな。
 それが完全な形で満たされるまでは、多用することなどできないだろう。


「ネームド、ユニーク種の情報に関してはいくつかございますが……どうされますか?」

「うーん、僕はあまり討伐を積極的にしているわけじゃありませんので。あっ、魔本の方はどうですか?」

「そちらでしたら、祈念者の方がよく売りに来てくれまして……大量に仕入れてございますよ」

「そうですか……見せてくれますか?」


 もちろんです、とZさんに案内される先は大量に蔵書がされた空間。
 Z商会は空間を繋げており、どこの支店でも商品のすべてを確認できるのだ。


「ちなみにですが、共に連れられていない場合はお客様同士が遭遇することはありませんのでご安心を」

「……あれ、僕今口に出しましたか?」

「いえいえ、お客様の心を察するのも立派な商人というものですよ」

「……僕の知っている商人とは、違う概念のようですね」


 読心術スキルでも持っているのかもな。
 無くても分かりそうな気はするが、そう考えておいた方が心に優しい。

 しかしまあ、人と会わなかったのはそういう理由だったのか。
 認識を弄るとか、空間内の人数を把握しているとか……いろいろやっているんだな。


「うーん……あんまりいいのは無いかな?」

「そうですか? やはり、お客様が求めているのは特別な魔本ですか。ユニーク種同様、お客様は特別なものを必要としているのですね。そうですか……では、こうしましょう」

「?」


 支店長の提案は、予想以上にとんでもないものだった──ので断った。
 さすがの俺も、物凄い嫌な予感を覚えたので……うん、会いたくない。


「なぜでしょうか? 会頭も、一度お客様に会ってみたいと申しておりましたよ?」

「……Zさん、面白がってますよね?」

「はい、それはもちろん」

「だから行きません。会頭さんには、いつもお世話になりますとだけお伝えください」


 そもそもやっていることが豪快だし、前に来たとき同じような存在だと言っていた。
 俺の同種って、どういう形であってもロクなもんじゃないだろう。

 俺が{感情}を持っているからどうにかなっているだけで、基本的に何かに没頭するような人種になるはず……カナだって、『導士』という意味では友愛に没頭しているし。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 前回目ぼしい物を買ってしまったから、今回はそこまで必要な物が見つからない。
 大当たりは無くとも、当たり程度の魔本をいくつか購入するだけに留まった。


「お買い上げ、ありがとうございます。そんなお客様にはポイントが付与されます。会員証のご提示をお願いします」

「あっ、はい」


 会員番号が666、といかにも不吉な数字が刻印されたカードを渡す。
 Zさんがそれを受け取ると、魔道具の中に一度通して返却してくれた。


「ポイントが溜まりますと、会員のランクが上がります。頑張って溜めてくださいね」

「それって、どういう恩恵が?」

「私共で利用している転移装置を利用できるようになります。さらに、高ランクのお客様専用のラウンジにも案内できますし、お求めの品を優先的に仕入れることも……お客様のお求めの物は、少々難しいですが」

「あはは、それは分かっていますので。けどそうですね、頑張ってポイントを溜めたら考えてみます」


 まあ、どうせなら上げられる最上位までそのランクを上げてみたい。
 金ならいくらでもある、そう言えてしまうこの世界だしな。

 ……会頭に会うのは覚悟を決めてからにしてほしいので、次来るのはだいぶ後だけど。


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