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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その16

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 夜、俺に与えられたホテルの一室にて。
 従業員以外自由民が存在しないこのリゾー島に、新しく来訪した存在が一人。


「──お疲れ様です。よいハーレムライフをエンジョイできましたか?」

「……それ、本気で言っているのか?」


 ここ数日の俺の観光をプロデュースし、かつ祈念者の眷属たちの活躍に評価を付けた代表者……そして何より、そもそもすべてをモニタリングしていた黒幕っぽい存在。


「……ふっ、よくぞ見破ったな。そう、わたしこそがメルス様の従順なる僕にして第一の眷属──!」

「それはミントだしな。それと、やっぱり棒読みだから悪役感が出てないぞ。アン、直接顔を合わせるのはいつぶりだ?」

「そうですね、数刻ぶりかと。重ねて申し上げますと、夜を迎えるたびに密会をしていたはずですが」

「…………そういやそうだったな。あと、その言い方はどうかと思うぞ」


 事実、アンとは夜ごとにここで会った。
 相談したいこともいくつかあっただし、加えて……他にも理由がある。


「俺はただ、お前たちと顔を見て話したいと思っただけだ」

「なかなかいい台詞ですね。ええ、好感度がグーンと上がりました」

「マジか。本音って大事だな」

「でも、わたしたちにしか通じませんので、他の方には使わないでくださいね」


 なんて、軽口を交わしながら話は進む。
 ほんのりと赤くなっていたアンの頬が元に戻る頃……本題に移った。


「改めまして、お疲れ様です。新たな眷属、それも『選ばれし者』を率いれることができましたのは、メルス様だからこそです」

「……別に狙ったわけじゃないさ。たまたま狙った相手が、そうだったってだけだ。そもそも向こうが拒んでたら、出会わなくなるような運の強さだし」

「対してメルス様は0以下、たしかに拒否されれば一生彼女たちの物語には登場することも無くなっていたでしょう」

「モブ以下だな、マジで。いろんな意味で、ありのままを曝け出すのが一番ってことだ」


 カナは『友愛導士』、俺なんかとは違う紛れもない本物の『導士』だ。
 天然ものであるがゆえに、すでに認定された『選ばれし者』の候補だ。

 そして、お嬢さんはそれよりも上。
 歌は大衆の心を奮わせ、その身に力を奮わせる──歌姫であり、『聖女』である存在。


「『水唱の聖女』、人魚の祈念者。彼女が担うべき『聖女』とは、彼女への想いを通じて信仰を集めるというもの。上手く奪えば、彼らの弱体化にも通じますが?」

「そのままでいいだろう。リオンに連絡はしてもらえたか?」

「はい。眷属のパスを通じて、一部改竄を行うようです。それと……『次に会ったときはサンドバックなのだ』、と伝言を仰せつかっております」

「…………マジですか」


 マジです、と即答するアン。
 リオンのサンドバックか……世が世ならご褒美にもなりかねん絵面が脳裏に浮かぶが、普段の俺はそこまで堕ちていないからな。


「こ、こほんっ。まあ、リオンには俺が顔を合わせた際に土下座で勘弁してもらうことにしよう。問題は、アイツらの保護だ。眷属になってもらった以上、最上位の扱いをしなけえばならない……頼んだぞ?」

「祈念者としては、ですね。畏まりました、その旨を再度伝えておきましょう」

「……か、可能な限り丁重にな。なんだか、リオンが割とハードワークになっている気がするし。まあ、俺が言うことじゃないけど」


 リオンは元運営神な邪神として、運営方面にもある程度干渉することができる。
 そこら辺は上手く関われないので、頼んで結果を待つしかできないんだよな。

 GM姉妹の協力があっても、その作業はそう簡単に終わらない難しい作業だ。
 それを頼む以上、代償は必要だ……うん、満足のいくよう嬲られるしか無いな。


「──ところでメルス様、今後のご予定はいかがなさいますか?」

「とりあえず、ノゾムとして訪れたい場所が二つ……というか一つ。それ以外は特に、どこで何をしたいってのは無いな。アイツらといろんな場所を巡ったし」

「では、メルス様……」

「……それもいいかもな。お前らへのお土産決めに一回、それ以外にもまだ行っていない場所を探してみるのもかもしれない。決め方はどうするんだ? 優柔不断な俺には、正直さっぱりだが」


 要するに、向こうは構ったのだから今度はこっちを……というわけだ。
 構わせるように勧めた側が言うことかとも思うが、複雑な心境だったということで。

 事実だけ見れば、彼女たちは今間違いなく望んでくれている。
 ならば、それに応えるのが男というものではないだろうか!


「畏まりました。では、こちらの方で選定を済ませておきましょう。温めていた、幻の企画──『ドキッ、女だらけの水着大会』で」

「……えっ? なに、その見ておかないと絶対に損なイベントは。むしろ、こっちのヤツよりもそっちに参加しないとダメな気がするけど?」

「ご安心を。後日、編集したものを映像化してお送りいたしますので」

「……む、無修正でお願いします」


 実際にやるかどうか分からないが、それはそれで想像力が膨らむよな。
 せっかくなので企画にアイデアを提案していると……夜が明けるまで語り合っていた。


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