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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その14

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 リゾー島はそのほぼすべてが整備されているが、海岸沿いに関しては特定の部分を除いてほぼ何もされていない。

 博物館の資料によると、それが守護獣である竜との盟約だからだ。
 海に住む生命体に害が伴なう行い──つまり整備は無し、ということになっている。

 そのため、俺がそれを行う場所は島にいくらでもあるわけだ。
 入り江に呼び出された俺は、そこで竿を垂らす少女に声を掛ける。


「どうだ、お嬢さん。魚は釣れたか?」

「さっぱりね。でも、何もしないからこそ楽しかったわ」

「おっ、ずいぶんと分かってきたようだな。隣、いいか?」

「ええ、どうぞご自由に」


 許可も貰ったので、隣に腰を下ろす。
 ついでに竿を“空間収納ボックス”から取り出し、彼女と同じように釣りを楽しむ。


「……釣れそうかしら?」

「いいや、まったく。そっちは?」

「こっちもよ。なんだか、釣りが何をすることなのか分からなくなるわね」

「まあ、物事には物欲って概念があるらしいからな。釣りたいって思えば思うほど、逆に釣れなくなる……なんてことも本当にあるんじゃないか?」


 まあ、前の時と同じように彼女が心から望めば、入れ食い状態で釣れるだろうけど。
 そうじゃないのは、彼女がそうあることを百パーセントは望んでいないからだな。


「それで、ワタシに話したいことがあるってことだけど……何なのかしら?」

「賭け、その清算だ。約束通り、お嬢さんには俺のクランへ所属してもらう……まあ、これはイベント後の話だが。あっ、他の奴らはまったく要らんからな」

「ええ、あの人たちも嫌がっていたわ。負けた後、あの手この手で頑張っていたけど……ワタシが捻じ伏せたわ」

「おおっ、なんか凄いことがあったみたいだな。やっぱり、お嬢さんは強いんだな」


 さすがは『選ばれし者』。
 あくまで本気になっていなかっただけで、潰そうと思えばあのリーダーも含めて簡単に蹂躙できたのか。


「ただ……『サザンカ』、あの隊長さんだけは変な様子だったけども。お兄さん、何か心当たりはあるかしら?」

「……あの人か。固有スキルを持っていただろ? あれって、当たりハズレがあって失敗すると精神が狂うんだよ。まあ、要するに今が元のあの人ってことだ」

「そう……単にそれだけって感じじゃ無かった気がするのだけれど」

「それよりだ。お嬢さん、いくつか確認しておきたいことがあるんだが……」


 リーダーの『侵蝕』に関しては、どうにかできたのだろう。
 理屈は分からないが、俺が死に戻りさせるとそういうことにこれまでもなっている。

 俺は俺で模倣に成功して、彼女の固有スキルも得ているので……一石二鳥だな。


「とりあえず、クランに所属してくれるってことでいいか?」

「ええ、構わないわ。待遇に関しては、どうなるのかしら?」

「うちは特にそういうの、無いからな。ついでに言うと、二重所属もできる。まあ、こういうイベントの時は、どっちで参加するか決めないといけないらしいが……どうするかはお嬢さんに任せるよ」

「そう、ならそのままよ」


 正確には二重ではなく、偽装所属という形で別の場所に潜り込んでいるんだが。
 闇ギルドや『ボス』に手を回してもらい、そういった形にしてもらっている。

 ユウやクラーレなど、クランに所属している奴らが、それなりに自由にやっていけるように……あと、こっちの方が裏方担当のヤツらを隠しやすいからな。


「じゃあ、それはいいとして……次は眷属としての勧誘だな。こっちは──」

「じゃあそれも」

「……そんな、ハンバーガーのトッピングみたいなノリで決めないでくれよ。せめて、説明をちゃんと聞いてから考えてくれ」

「だって必要ないもの。ワタシだって、眷属という言葉の意味ぐらい分かるわ。お兄さんがご主人様……ってことかしら?」


 悪い意味では無いが、他の奴と比べて異なる思考回路なお嬢さんである。
 天然系というか、箱入り娘というか……独自の考えの持ち主だな。


「とりあえず聞こうか。眷属になるデメリットはほぼ無し、しいて言うなら俺や他の眷属にスキルや魔法の情報が漏れること。あとは特になし、逆に俺や他の眷属のスキルとかを使うことができる」

「ふーん、便利なのね。入るわ」

「だから早いんだって。一方的な解除は不可能だから、お嬢さんが辞めたいからってすぐに辞められるわけじゃない……それでも本当にいいのか?」

「ええ、構わないわ」


 ダメだ、何を言っても大して響いていなさそうに思える。
 何がそこまで彼女にそうさせるのか分からないが、まったく曲げる気が無い。


「眷属になったら、もっとお兄さんのことをよく教えてもらえるのかしら?」

「ん? ああ……まあそうだな、多少は信頼できる間柄ってことになるし。まだまだ教えていないこともたくさんある、何か暇なときにでも少しずつ話してやってもいいけど」

「なら、この話は充分にワタシにとっても価値のある話よ。前に歌ったお兄さんの歌も、もっと面白おかしくできそうね」

「……面白くするのはいいけど、おかしくするのは止めてくれよ」


 そんなことを言い合い、時間的にも暇なのでお嬢さんを眷属にすることになった。
 ……また『選ばれし者』に干渉してしまったが、まあ仕方が無いか。

 ──困ったときは、邪神リオン様にお任せだ!


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