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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その12

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 彼女の選んだ階層は、文字通り魔物が無尽蔵に出てくるという特殊な場所。
 人造迷宮なので、ある程度安全は確保されているが……それでも危険な場所だ。


「──お二人とも、こちらを」

「これは?」

「リゾー島の迷宮でのみ、使うことのできる特殊な魔道具です。魔道具が致死攻撃を身代わりしてくれた後、この場所まで強制的に転移してくれます。安全のため、必ずこちらを持っていてもらう規則です」

「分かりました……持っていてください」


 クラーレは受付が持ってきた魔道具を受け取り、その片方を俺に渡す。
 黙って受け取り、罠を利用した転移陣の上に乗って目的の階層へ向かった。


「うわぁ、いきなり魔物ばっかり……」

「しかも、ほぼすべての位階ランクが7以上……」

「そりゃあ人気も無いよな。迷宮だから必要最低限の素材しか落ちない、経験値もさして無い。あんまり実入りが無い分、ここまで空くわけだ」

「ですが、こうして来る人もいます。メルスには、わたしの護衛をしてもらいますよ」


 そういうわけで、俺はクラーレを守るべく武器を手に取る。
 大した武器は使えないので、俺が信じるのは──己の拳だ。


「──『土堅』、『真呼吸シンコキュウ』」


 精霊術、そして難易度の高い気魔闘術の武技で準備を整える。
 その後、クラーレから支援魔法を受け取り事前の用意は万端となった。


「──“反射保膜リフレクトコート”。これが最後です」

「了解、ならやるぞ──『波導弾アウロラスフィア』」


 構えは某かめはめ(略)。
 引いた手に魔力と精気力を注ぐと、魔物の居る方へ放つ。

 狙いなど付けていない……が、弾自体が魔物たちを捉えて軌道を変える。
 必中の魔弾、そんな性質が与えられているため、初撃は見事に命中した。

 そこからは、ただひたすら魔力と精気力を絞り出して前に撃ち出す。
 これもまた、先ほどのイメージと同じ作品からパクった感じで連続して撃つ。


「ふはははっ! 連続死ね死ね三サイル!」

「……ツッコミ辛いのですが」

「ひゃっはー! なら、いっしょに楽しめばいいんじゃないか!?」

「いえ、遠慮しておきます」


 一蹴されてしまったが、変わらない勢いで魔物たちを駆逐していく。
 精気力を絞り出す関係上、高揚している方が生成が速いからな。

 モチベーションで身力の回復は上がる。
 生命力は少し別枠だが、魔力や精気力は想いに応じて高まることが多い。

 今の俺は{感情}が内包する想いに引っかからないよう、制御しながら心を弄っている。
 強制的な平凡化が起きる寸前で固定し、頭がパーなヤツを意図して演じていた。

 ──そうでもしないと、残念ながら今は彼女を守り抜くことができないからな。


「準備ができました!」

「オーケーっと──『軽気功ケイキコウ』」


 気功、精気力を加工したエネルギー。
 それを自身を軽くするものに変換して、その身を浮かせて勢いよく跳躍する。


「行きます──“煌槍スパークランス”!」


 クラーレが放ったのは輝く槍。
 それだけなら、倒せる魔物の数は数体程度だっただろう……が、俺が戦っている間により多くの魔物を屠る準備を終えていた。

 輝く槍は複数の面を持った鏡にぶつかる。
 魔法によって生成されたそれは、同じく光で構築された魔法を受け止め──勢いを損なわないまま、無数に拡散させていった。

 鏡は一つではなく、複数配置されている。
 当てれば当たるほど増え、なおかつそのエネルギーは減衰することなく真っすぐ鏡にぶつかる度に増幅していく。


「……全滅したな。それじゃあ、帰るか」

「はい、そうですね」


 結果、魔物はすべてクラーレの魔法にられて消えていった。
 人造迷宮なので、予め出す量は絞られていたため魔物の生成は停止している。

 なので、これ以上何かやることもないので今日はここまでだ。
 二人で行きに乗った罠を使い、迷宮の入口へ帰還するのだった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 戦闘自体はすぐに終わったので、まだ空は青いままである。
 なので次に行く場所を、俺たちは求めて移動を再開した。


「どうしてどこも決めていないんですか」

「そっちにお任せだって話だっただろ? クラーレが行く場所を無くした時点で、こうなることは決まっていたわけだ」

「なら、どこかに行きましょう……浜辺なんてどうですか?」

「そこはイアと行ったな」


 それからの流れはお察しのもの。
 どこを提示しても、誰々と行ったと言い拒否をする【傲慢】な俺。

 さすがのクラーレも、なんだかこめかみの辺りがヒクヒクとし出していた。


「……逆にどうして、他の誰も迷宮には行かなかったんでしょう。なんだか、自分が脳筋だと遠回しに言われたみたいです」

「一番行きそうなアルカの時は、まだ部屋に監禁されていたからな。他は至って普通の場所を選んだし……まあ、クラーレは特別ってことだよ」

「そんな特別要りません! ……ハァ、ならどこならいいんですか?」

「別に……こうして歩いているだけでいいんじゃないか? もちろん、クラーレがどこかに行きたいなら話は別だが。ほら、迷宮に行く前に話した通り服屋でもいいし」


 だが、彼女は目線を逸らす。
 合わせようとしても、何度も頭を動かして目を合わせようとしない。


「……とりあえず、服屋に行くぞ」

「えっ? なんで……強いです! 離して、離してください!」

「俺が変質者みたいに思われるから止めてくれないか……声を大きくするなよ! ほら、速く行くぞ!」

「離して! わたしは別に服はこだわってないんです!」


 抵抗するクラーレを服屋に連れて行き、日が暮れるまでコーディネートした。
 その後、衣装を『月の乙女』のメンバーに見せて……その日は解散となる。


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