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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その11

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 空の旅はとても楽しかったと思える。
 そもそも、眷属と接することで俺は非凡な経験をたくさんしていると改めて知れた。

 なんというか、モブ的思考は大したことを実行できないんだよな。
 基本、俺がやっていることなんて──食べて、寝て、風呂、修練ぐらいだし。

 だが、眷属が何かに誘えば俺は乗る。
 そもそもやることがないから、拒否する理由が無いんだよな。

 当然、何かをすればそれに関する課題が生まれ、それを達成する必要が生まれる。
 その行いはとても非凡で、普段の俺ならばやらないこと間違いなしのことだらけ。


「究極的に言えば、俺はそうして他者に依存しないと何もできないのかもなー。まあ、それはそれとして早く行かないと」


 今日も今日とで、祈念者の眷属とどこかへ行くよう言われている。
 もう一方の眷属──自由民組は、いったい何を考えているんだろうな。

 そう考えてはいても、頭空っぽな俺は言われた通りに目的の場所へ向かう。
 嫌なことならNOとはっきり言うが、全然嫌じゃないし、むしろ俺からやりたいしな。


「おう、来たぞ」

「メル! ……ス、ですか」

「物凄い不服そうだな。けど悪い、魔法の使用は制限されてるんだよ」

「そうですか……せっかくメルに会えると思いましたのに、メルスですか…………ハァ」


 わざとらしい溜め息は、辺りに聞こえるほどとても大きかった。
 そこまでメルに会いたかったのだろうか、そう思うとなんだか罪悪感が湧いてくる。


「……悪い、本当に。クラーレが言うなら、今日はもう解散にしてもいいが」

「! ……いえ、大丈夫です。メルスも指示されてのことですよね? わたしも、メルスよりもメルの方がいいだけですので、わがままはいいません」

「あのー、クラーレさん? その遠回しに貶す感じ、わざとですか?」

「何のことですか?」


 えっ、もしかして本音マジレス
 中の人は同じはずなのに、ここまで差が出てしまうものなのだろうか。

 変身魔法は肉体に引きずられて精神も変貌するが、俺に関しては{感情}が保護をするため大して変化は無い……はずだけど、もしかして何かあるのかも。

 こう、妖女モードなら俺というモブにも何かしら魅力が生まれるとか。
 もともと変身体のイメージは、美(少)女な眷属たちだからな。


「まあいいです、とりあえず行きますよ」

「分かった。ただ、どこに行くんだ?」

「……メルといっしょでしたら、洋服を見て回りたかったですが。メルスですし、予定が台無しです」

「別にそれでもいいぞ? 眷属の服を仕立てているの俺だし、デザインとかはなんとなく分かるぞ……まあ、未だに服の名前とかは全然理解できないけど」


 大まかにワンピースやらドレス、ズボンパンツとかは分かる。
 ……最近はズボンはパンツと呼ぶらしい、なぜかそれをカナタに教わったっけ。

 まあ、名前が分からずとも誰にどういった意匠デザインが似合うかの審美眼だけは鍛えられた。
 司祭服をよく着ている彼女にも、相応しい格好を選べるだろう。


「……驚きです。メルスはてっきり、そういうことには無頓着な人だと思っていました」

「実際無頓着だぞ? 俺自身の格好なんて、事実ずっと平時は初期の服だし。あれって割と長持ちするから、不満が無いんだよな」


 初期装備である服には、不壊効果や自動洗浄機能などが搭載されている。
 いっさい能力値補正が無い代わりに、普段使いにとても便利なのだ。


「それで、どうする?」

「いえ、止めておきましょう。どうせなら、気になっていた場所に行きたいです」

「まあ、俺はどこでもいいんだが……どこに行きたいんだ?」

「もちろん──ダンジョンです!」


 ……いろいろと突っ込みたかった。
 けど、それはとりあえず後回しにしよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆

 上級迷宮 エキスパート


 リゾー島には、人の手が入って整備された迷宮がいくつも存在する。
 観光客の中には、そういった迷宮のスリルが楽しみたいという奴もいるらしいので。

 中でも俺たちが訪れた上級迷宮は、出てくる魔物のレベルから、造られたもののさほど観光気分で訪れる者が少ない場所。

 代わりに訪れた探索者が、体を鈍らせないように訪れている。
 俺とクラーレはそんな迷宮を、たった二人で潜っていた。


「階層ごとに、それぞれコンセプトがあるみたいだな。クラーレ、どこに行く?」

「では、この『無制限ラッシュ』を」

「……このドクロマークがいっぱいな場所にか? 先に言っておくけど、今の俺って魔法以外にも結構制限が……」

「ここが、いいです」


 その圧は眷属たちに負けず劣らず、俺には肯定しか許されていないようだ。
 カナと戦った時のように、せめて神器が使えれば……まあ、無理だけども。


「…………今なら、メルスにわたしの支援が必要になりますよね」

「ん? ああ、必要だと思うぞ」

「な、なんで聞こえてるんですか!? 独り言のつもりだったんですけど!」

「……身体強化をしていたんだよ。なんか、悪いな」


 そんなこんなで、俺たちはハードな迷宮で激しい戦闘を繰り広げることが確定した。
 ……でもそうだな、こういう感じで楽しむのも面白そうだ。


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