1,940 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント終篇 その11
しおりを挟む空の旅はとても楽しかったと思える。
そもそも、眷属と接することで俺は非凡な経験をたくさんしていると改めて知れた。
なんというか、モブ的思考は大したことを実行できないんだよな。
基本、俺がやっていることなんて──食べて、寝て、風呂、修練ぐらいだし。
だが、眷属が何かに誘えば俺は乗る。
そもそもやることがないから、拒否する理由が無いんだよな。
当然、何かをすればそれに関する課題が生まれ、それを達成する必要が生まれる。
その行いはとても非凡で、普段の俺ならばやらないこと間違いなしのことだらけ。
「究極的に言えば、俺はそうして他者に依存しないと何もできないのかもなー。まあ、それはそれとして早く行かないと」
今日も今日とで、祈念者の眷属とどこかへ行くよう言われている。
もう一方の眷属──自由民組は、いったい何を考えているんだろうな。
そう考えてはいても、頭空っぽな俺は言われた通りに目的の場所へ向かう。
嫌なことならNOとはっきり言うが、全然嫌じゃないし、むしろ俺からやりたいしな。
「おう、来たぞ」
「メル! ……ス、ですか」
「物凄い不服そうだな。けど悪い、魔法の使用は制限されてるんだよ」
「そうですか……せっかくメルに会えると思いましたのに、メルスですか…………ハァ」
わざとらしい溜め息は、辺りに聞こえるほどとても大きかった。
そこまでメルに会いたかったのだろうか、そう思うとなんだか罪悪感が湧いてくる。
「……悪い、本当に。クラーレが言うなら、今日はもう解散にしてもいいが」
「! ……いえ、大丈夫です。メルスも指示されてのことですよね? わたしも、メルスよりもメルの方がいいだけですので、わがままはいいません」
「あのー、クラーレさん? その遠回しに貶す感じ、わざとですか?」
「何のことですか?」
えっ、もしかして本音?
中の人は同じはずなのに、ここまで差が出てしまうものなのだろうか。
変身魔法は肉体に引きずられて精神も変貌するが、俺に関しては{感情}が保護をするため大して変化は無い……はずだけど、もしかして何かあるのかも。
こう、妖女モードなら俺というモブにも何かしら魅力が生まれるとか。
もともと変身体のイメージは、美(少)女な眷属たちだからな。
「まあいいです、とりあえず行きますよ」
「分かった。ただ、どこに行くんだ?」
「……メルといっしょでしたら、洋服を見て回りたかったですが。メルスですし、予定が台無しです」
「別にそれでもいいぞ? 眷属の服を仕立てているの俺だし、デザインとかはなんとなく分かるぞ……まあ、未だに服の名前とかは全然理解できないけど」
大まかにワンピースやらドレス、ズボンとかは分かる。
……最近はズボンはパンツと呼ぶらしい、なぜかそれをカナタに教わったっけ。
まあ、名前が分からずとも誰にどういった意匠が似合うかの審美眼だけは鍛えられた。
司祭服をよく着ている彼女にも、相応しい格好を選べるだろう。
「……驚きです。メルスはてっきり、そういうことには無頓着な人だと思っていました」
「実際無頓着だぞ? 俺自身の格好なんて、事実ずっと平時は初期の服だし。あれって割と長持ちするから、不満が無いんだよな」
初期装備である服には、不壊効果や自動洗浄機能などが搭載されている。
いっさい能力値補正が無い代わりに、普段使いにとても便利なのだ。
「それで、どうする?」
「いえ、止めておきましょう。どうせなら、気になっていた場所に行きたいです」
「まあ、俺はどこでもいいんだが……どこに行きたいんだ?」
「もちろん──ダンジョンです!」
……いろいろと突っ込みたかった。
けど、それはとりあえず後回しにしよう。
◆ □ ◆ □ ◆
上級迷宮 エキスパート
リゾー島には、人の手が入って整備された迷宮がいくつも存在する。
観光客の中には、そういった迷宮のスリルが楽しみたいという奴もいるらしいので。
中でも俺たちが訪れた上級迷宮は、出てくる魔物のレベルから、造られたもののさほど観光気分で訪れる者が少ない場所。
代わりに訪れた探索者が、体を鈍らせないように訪れている。
俺とクラーレはそんな迷宮を、たった二人で潜っていた。
「階層ごとに、それぞれコンセプトがあるみたいだな。クラーレ、どこに行く?」
「では、この『無制限ラッシュ』を」
「……このドクロマークがいっぱいな場所にか? 先に言っておくけど、今の俺って魔法以外にも結構制限が……」
「ここが、いいです」
その圧は眷属たちに負けず劣らず、俺には肯定しか許されていないようだ。
カナと戦った時のように、せめて神器が使えれば……まあ、無理だけども。
「…………今なら、メルスにわたしの支援が必要になりますよね」
「ん? ああ、必要だと思うぞ」
「な、なんで聞こえてるんですか!? 独り言のつもりだったんですけど!」
「……身体強化をしていたんだよ。なんか、悪いな」
そんなこんなで、俺たちはハードな迷宮で激しい戦闘を繰り広げることが確定した。
……でもそうだな、こういう感じで楽しむのも面白そうだ。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる