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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その10

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 セイラにカジノの遊び方を教え、周囲からクソ野郎として見られたのは先日の思い出。
 今を生きる俺は、そんな過去をさっぱりと捨てて前を向いていた。

 少なくとも、初の体験ということも後押ししてカジノは楽しんでいたようだし。
 ……まあ、ギリギリセーフってことで大目に見てもらおう。


「というわけで、本日はよろしくな」

《はい、お願いします》


 口ではなく、俺の脳に直接思念で言葉を伝えてくる──全身鎧を身に纏うペルソナ。
 彼女の場合、『身バレ=現実の容姿発覚』に繋がってしまうから仕方ないのだろう。

 眷属に渡した外套も、絶対に防げるわけではない。
 逆に言えば、彼女の鎧もそうなのだが……まあ、そっちの方が隠す性能は上だしな。


「それじゃあ、例の場所に行こうか。確認するけど、本当にあそこでいいのか?」

《はい、一度行ってみたかったので》


 彼女の行きたい場所は、アトラクションとしてはそれなりに有名な場所だ。
 だが、勇気が無いとなかなか行きづらい場所なので……誰も俺と行っていなかった。

 たしかに、この世界であれば安心して行ける場所なんだよな。
 だからこそ、彼女も行ってみたいと思ったのかもしれない。


「どうやって行く? リフトで行くって方法もあるけど、空間魔法で転移してサクッと目的地に到着って方法もあるにはあるが」

《やっぱり、新鮮な気分で行きたいですのでリフトで行きましょう》

「んー、まあ俺はどっちでもいいけど。ペルソナがその方がいいなら、それで構わない」


 そんな彼女を連れて、リフト乗り場へ向かい乗り込む。
 上へ上へと、登っていくリフトから見下ろせる景色を彼女は楽しんでいる。


「綺麗だな……これ、夜だったらネオンライト風の光が何万ドルとかの夜景が見れたんだろうな」

《そうですね。なら、また見に来ますか?》

「それもいいかもな。もちろん、ペルソナが暇なときにでも」


 やがて、上ではなく平行に動いたリフトから降りた俺たち。
 辿り着いたそこは、このリゾー島において一番高い山の上。

 この島すべてを全貌でき、さらに先の海まで眺めることのできる絶景だ。
 すでに先に来ていた人々は、パラシュートのような物を着込み──飛び降りている。

 まあ、そういう場所である。
 ガイド員が魔法で誘導を行うため、安心安全に落下を楽しむことができるそうだ。


「俺たちは自前の翼で降りるんだけど……それはそれでスリルがあって楽しそうだな」

《はい、一度やってみたかったんです。この場所を上から眺めたらどうなんだろうなってずっと!》

「まあ、それはさっきしてたけど……どうせなら自由に動きながらみたいもんな」


 自分の翼で飛ぶことができる種族は、特別コースの料金を払えば一定時間飛べる。
 やむを得ない事情も無く勝手に飛ぶと犯罪認定なので、ちゃんと手続きが必要なのだ。

 許されているのは、それが許可されている場所だけに限る。
 そしてまあ、だからこそ彼女はここに来たわけなのだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 共に白と黒の翼を広げて大空に舞う。
 全身を風が包む感覚、それを翼が集めて自在に方向を操る感触を楽しみながら、眼下に映る光景を眺めていく。

 どこかしこも喧騒で溢れ、賑やかな島。
 人々の営みを見下ろすというのは、なんというか爽快感に溢れていた。


《どうだ、ペルソナ。楽しいか?》

《はい! とっても楽しいです!》

《ならよかった。どうせなら、島一周をグルリとやってみようか》

《それ、面白そうですね!》


 彼女もこの感覚に嵌っているのか、いつもよりもテンションが高い。
 念話で確認してみたが、ありのままの想いが伝わってくる。

 速度を上げたり、技のような動きを披露したりと俺も楽しんだけども。
 彼女も負けじとついてくるので、つい興が乗ってしまったんだよ。

 しばらく飛んでいると、だんだんとペルソナのテンションも元に戻っていった。
 そして……自分のはしゃぎっぷりを思い出したのか、なんだか恥ずかしがっている。


《うぅ……盛り上がっちゃいました》

《別にいいと思うけどな。まあ、傍から見たら黒い鎧の騎士が暴れ回っているようにしか見えないと思うが……全然いいと思うぞ》

《フォローになってませんよぉ……》

《悪い悪い。けどまあ、そうしてありのままで楽しんでくれて何よりだよ》


 自分の姿のままログインした結果、鎧を纏い続けなければならなくなったペルソナ。
 常に偽り続けなければならないのは、やはりキツイだろう。


《メルスさんは、どうですか?》

《俺か?》

《はい。ありのままで、楽しめましたか?》

《そうだな……ああ、結構楽しめた!》


 俺もまた、{感情}が俺のすべてを解放することは許してくれない。
 だが、一時的な高揚感ぐらいならば、多少許してくれる。

 ……だんだんと平常化しつつあるが、それでも楽しかったと思ったのは事実。
 ペルソナも、これならば俺が楽しめると分かってここに来てくれたのかもな。


《メルスさんには眷属にしていただいて、自分の素を出す場所を与えてもらいました。そのお礼は、これからもしていくつもりです》

《お礼か、ありがたく受け取っておくよ。でもどうせなら、もっと別の姿でやってくれると嬉しいんだがな》

《今はダメです。もっと、メルスさんが素を見せてくれたら考えます。……時間ですね、今回はこれで終わりですか》

《おっと手厳しい。でもそうだな……またいずれ、そういう機会があればな》


 いつになるかは分からない。
 だが、そうなる日もいずれ来るだろう。

 そんなことを思いながら、街へ滑空していくのだった。


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