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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント終篇 その08
しおりを挟む翌日、俺は博物館を訪れていた。
この島の歴史、それと守護獣に関する情報の完全版などが載っているので、情報収集家たちが集まっている。
「わざわざすまんな、こんな機会を作ってもらって」
「いえ、構いませんよ。それに、こうして話す時間が欲しいとも思っていました」
「そうか? それならいいんだが……まさか指令が、そっちにまで及ぶとはな」
そんな場所に俺を呼んだのは、ブラウン色の少女。
眷属共通の外套、その下に白衣を纏った彼女の名前はノロジー。
所属する(本来の)クラン『ユニーク』において、情報系を担当している。
だがその実、まあいろいろとあってユウやアルカたちと同様に眷属になっていた。
そんな彼女だが、二人ほどの接点は無い。
絶対俺を殺すウーマンなアルカや、俺を師匠と呼ぶユウほど、俺に固執していないからだろう。
……なのだが、オブリとテーマパークを遊び終えた後に、眷属から指令が下った。
なんでも、ちゃんと祈念者の眷属全員と遊べとのことだ。
俺としては大歓迎だし、眷属の言うことなので何かしら意味があるのだろう。
だが、彼女には何ら利益の無いことのはずなので……疑問に思っていた。
「なあ、どうしてこんなことにつきあってくれ──」
「それより、速く行きましょう。クランの方が忙しくて、今日が初めてなんです」
「ん? お、おう……」
聞き出すその前に、ノロジーが先に博物館へ向かってしまう。
まあ、後で聞けばいいかと思い、俺もまた彼女を追いかけて中へ入るのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
博物館の中で壁画を見る。
眷属たちが集めた壁画の欠片、その完全版だった。
教えてもらった守護獣の出現情報や、聞いていなかった第二形態の情報なども、そこには記されており……うん、俺が思っていた以上に苦戦したのかもしれないな。
「……もしかして、これ。全部読めるの?」
「逆に、ノロジーたちからすると読めない部分があるのか?」
「ええ、言語理解スキルは取得してあるんですけど……貴方のスキルなら読めるの?」
「そうだな……異世界言語理解スキルを共有してみろ。全言語対応のスキルだから、読めるようになると思う」
いろいろと察してくれる彼女は、何も言わず共有した後に解析を始めた。
名称からして、普通に入手できないようなスキルだと分かっているだろうに。
「……凄いですね。まったく分からなかったはずなのに、共有した途端に日本語を見ているみたいにすぐ分かります。言語理解スキルも、書面や文献なんかを見るときは少し時間が必要になるのに」
「そういう効果なんだよ。ほら、異世界に行くと言葉が分かるって定番だろう? だから普通の言語理解スキルより、こっちの方が効果があるんだよ」
「……レベルもなぜか超級で確認されているEXだし、これを当たり前に思わないように気を付けます」
「眷属なら好きに使っていいんだけどな。別に人それぞれだから、その辺はノロジーにお任せしておこう」
俺がこんな状態になったことで、得られた数少ないもの──異世界言語理解スキル。
付与される形で得たものだが、俺自身は大して使わなかった。
が、眷属たちが俺に分かりやすく説明するためなどに使っていたっけ。
今じゃもっと高性能なスキルがあるので、俺が使うのはそちらなんだけども。
「ノロジーは俺の眷属になって、その価値を見出せたか?」
「そうですね、思っていた以上に特別なことは何もありませんでした。貴方に絶対服従ってわけでもなく、全能感が溢れてくるわけでもない……ただ、繋がりのようなものは感じられるようになりました」
「パスだな。意識すれば、俺やその先に居る奴と念話ができるようになる。昔の仕様だったら、そいつの考えていることや思っていることも分かってたな……これは俺も嫌だったから、廃止にしたけど」
「……それはそれで、気になりますね」
ノロジー、そして同タイミングで眷属にしたセイラの二人は直接眷属にしていない。
ユウとアルカに眷属化を行える結晶を渡して、間接的に眷属になってもらった。
時期もだいぶ後なので、その恩恵はあまり存在しない。
だというのに、どうして眷属であることを望んでくれたのだろうか。
「──私は、そんな繋がりが欲しかった。それは聞かれたときにも言いましたね?」
「そういえば……たしかに言っていたな」
「【化学魔法】を持っていた私は、自分が正しいと疑っていませんでした。自分が大好きな化学さえあれば、すべてを証明できると。そんな在り方がこの魔法を生み出したのかもしれません」
彼女の固有魔法は、地球における化学の法則をこちらでも強要するというもの。
その効果範囲なら、ファンタジーな存在はことごとく潰えるだろう。
そんな力の在り様は、彼女が語った通り我の主張が強いからできたこと。
だからこそ、『侵蝕』が解けた後はそれなりに悩んだ……と当時語っていた。
「唯一信じるものが偽りと思って、何か別に縋る物が欲しかった。そして、それがたまたま眷属だった……ダメでしょうか?」
「それは俺が決めることじゃない。ただ、世界中の誰が何と言おうと、俺はその選択が間違いじゃなかったと言い続ける。眷属である限り、俺はノロジーたちを幸せにする」
「……それ、パワハラですか?」
「かもな。上司として、幸せを強要しているわけだし」
不服そうな口調の割に、彼女の口角は自然な形で上向きになっている。
これでいいのだろう、少なくとも俺……そして眷属たちが彼女を肯定すれば。
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