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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント終篇 その07
しおりを挟む翌日、俺はテーマパークのような場所を訪れていた。
この世界にも機械技術はあるので、そこに魔法などを組み合わせた未知の施設だ。
「そりゃあ、大人でも来たくなるよな……参考にするにも、楽しむにもピッタリだ」
仮想現実だと捉えられているこの世界、何でも自由ならば……と思う者もいるだろう。
イメージ的には、子供向け映画を独りで満喫する大人な子供だな。
実際、単独行動を取ってテーマパーク内を徘徊する大人を、今いる外側から見つけた。
現実なら隠れられたかもしれないが、残念だがここにはスキルがある……バッチリだ。
「──お兄ちゃーん!」
パークの中を観察する、傍から見られたらヤバい俺に近づく少女。
種族補正もあり、軽々持ち上げられるほどに小さな彼女を迎え入れて持ち上げる。
「おおっ、オブリ。お招きありがとう。こんなにいい場所があるなんて、今まで知らないで休んでいたよ。ちなみにここ、オブリは来たことあるのか?」
「えへへへ……うん、一回だけ。だからお兄ちゃんを案内できるよ!」
俺に抱えられて、回転されてもなお笑顔でいられるオブリ。
まあ、妖精族なので自前の種族スキルで軽く浮身(宙)をしているのだろう。
「さすがはオブリだ、予習はバッチリってことだな! うんうん、それじゃあパーク内のことは全部オブリに聞こうか!」
「そ、それは……えっと、そうだ! パークの人のお仕事だからダメなんだよ!」
「そうかそうか、なら仕方ないな。オブリに聞きたかったけど、ちゃんとパークの人に分からないことは聞くことにしよう」
「う、うん、それがいいよ……ほっ」
安心したのか、小さく息を吐くオブリ。
からかって悪いとは思うが、可愛かったからついな。
おそらく、アトラクションは試乗したがそれ以上はしていないのだろう。
美味しい食べ物の場所とかは知っているかもしれないし、そういう時は頼ろうか。
「うん、それじゃあお兄ちゃん、手!」
「そっか、俺が迷子になったら困るしな。道案内をお願いします」
「任せて! 絶対にお兄ちゃんを楽しませてあげるんだからね!」
ギュッと俺の手を掴み、引っ張っていくオブリ。
父親ってこんな気分なのか……なんて思いながら、パークに入場するのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
入り口でパンフレットを受け取って、気になった場所に案内してもらう。
ジェットコースターだけでも数十種類、アトラクションは百を超える巨大なパーク。
オブリも全部は制覇できていないらしい。
制覇すると貰えるという、記念メダルがあるとのことで張り切っていた……とはいえ、一日や二日でのコンプリートは無理だな。
一休みということで、昼食を取りながらオブリとベンチで休憩中。
共に食べ終えて、余韻に浸っているのが現在である。
「……ふぅ、今日中に全部は無理だけど、少しずつ巡っていけばいいか。まあ、終わらないにしても、それならそれで楽しいし。コンプリートは、また今度だな」
おそらく子供が退屈しないため、そして何度も来てもらうための企画だろう。
落としてもらう金ならいくらでもあり、ここにはあらゆる場所から技術が集まるのだ。
テーマパークは今なお進化を続け、子供たちを楽しませるのだろう。
……某世界中に存在するネズミの世界を思い出してしまうな。
「どう、お兄ちゃん……楽しい、かな?」
「ああ、本当に楽しいよ。だから、そんなに心配そうな顔をしないでくれ。ちょっと、懐かしいことを思い出してな。そのことを考えていただけなんだ」
「お兄ちゃん、寂しそうだったよ?」
「……そう、か。自分じゃ分からないものだな。ただ、成長してからこういう場所に来たことが無かったからな。本当に、懐かしいと思っていただけなんだ」
目を潤ませるオブリの頭を、触れるか触れないかという力加減で撫でる。
嫌そうならすぐに止める気でいたが、案外そのままでいてくれた。
俺の心情を思いやってのことなのだろう。
愚直過ぎた彼女は、人のことを考えすぎてしまう気がある。
「俺は今、幸せだ。あっちの眷属が居て、オブリたちみたいないい奴らとつるめて」
「つるめる?」
「……いっしょに居られて、かな。俺がこんな風にやっていなかったら、あのときオブリとティンスに会うことも無かった。だから、俺がやってきたすべては否定しないしできない。ああ、間違っていないんだからな」
難しい話なので、うーんと唸って理解しようとするオブリに苦笑した。
地頭はいい彼女なので、ゆっくり学んでいけば俺の稚拙な言葉などすぐに理解できる。
「オブリはどうだ? 俺……俺じゃなくてもいいか。ティンスや、他のみんなといっしょに居られるのは」
「楽しいよ! あのとき、お兄ちゃんが助けに来てくれたから、いろんなことができるようになったんだよ!」
「そりゃあ良かった。あのとき、男の方に加担するのが正しかったかもしれない。ああしないといけない理由が、向こうにもあったかもしれない。でも、俺はお前らを助けた。そして、今が最高だと思える」
「私も! お兄ちゃんのお陰で、とーっても幸せなんだから!」
身振り手振りで表現するオブリは、それはもう満面の笑みだった。
そういう一つひとつに、俺は救われているのだろう……。
「よし、それじゃあもう一踏ん張りだ! 案内してくれよ、オブリ!」
「うん、分かった!」
この後も、俺とオブリはテーマパークを満喫しきった。
童心に帰ったようで、とても楽しかった一日だろう。
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