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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その05

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 商店街(仮)にもまた、俺が入りたいと思える場所があった。
 ……ある意味同じなんだが、それぞれに今度訪れてみようと思う。


「しかしまあ、値段が向こうに比べて安いだけで品揃えは凄いな……」

「あっちは超一流のアイテムだけを集めて、こっちはそれ以外なら何でもって感じらしいよ。だからって、こっちが劣っているってわけじゃない。そういう物にも、こうしてほしいって思ってくれる人がいるんだよ」

「まあ、誰も彼もが高級ブランドを使っているわけじゃないからな。B級グルメが好きな奴とか、100均の物を工夫して使っている奴もいるし」


 無論、俺も現実だとただの凡人だったのでよくお世話になっていたものだ。
 わざわざ高級品でなくとも、人は満足することができるからな。


「たださぁ、ユウ。お前って……」

「えっと、何か言いにくいこと? あはは、僕と師匠の仲なんだし、別に聞いてくれていいんだよ?」

「そっか。なら聞くけど──お前って、それなりにお嬢様だよな?」

「そ、それなりって……でも、うん。いちおうね。けど、だからって高級品ばかり使うわけじゃないよ。せいぜい、行っている学校がそういう場所なだけだし」


 これ以上の追求をする気は無いが、ここだけは確認しておきたかった。
 なんというか、お嬢様っぽいヤツが多いんだよ……セイラとかクラーレとかもだが。

 ユウの場合、口調はともかく立ち振る舞いなどがそれに該当した。
 昔は分からなかったが、王女な眷属たちを見ていたらそう思ったんだよな。

 そんなことを思っていたら、ジト―っとした目を向けられている。


「なんか、お嬢様らしくないって考えている気がする。否定はしないけど、公式の場とかならちゃんとしてるから。師匠がそれを知らないだけだからね!」

「ふーん……まあ、それはいいとして。ここの料理、美味そうだな。ユウ、俺が奢るからいっしょに食べようぜ?」

「へっ? え、えっと……うん、いいよ」


 話題を切り上げるようにそう告げ、二人で店の中に入った。
 スライムパウダーとやらを水に溶いて、鉄板で焼く──お好み焼きみたいな店である。

 注文してすぐに届いた素を鉄板に零し、適当に焼き始めた。
 お馴染みの生産神の加護が、意識せずとも最適なタイミングを教えてくれる。


「女の子と来る店として、ここってどうなのかな……」

「まあ、たまにはいいんじゃないか? ほれほれ、生焼けだが食うか?」

「食べないよ……もう。師匠はどうして、僕のことを聞いてきたの?」

「何度も思っているけど、師匠らしくない師匠だしな。今後の方針を決めるついでに、気になったから聞いただけだ。俺の人生にユウの身分が関係するわけじゃないから、嫌じゃないなら態度はこのままにするけど」


 ユウは悩……まなかった。
 あっさりとそれを肯定する。


「うん、僕も今さら師匠に変な口調になられてもドン引きだし。それに、お嬢様扱いされたくないから、今までだって黙っていたんだからね」

「そりゃあそうか」

「なのに師匠ときたら……いろんな子を眷属にしちゃうし。まったく、節操が無いんだから困っちゃう」

「悪い悪い……でいいのか? ほれ、まずは食べろ。生産神様も、最高だって太鼓判を押してくれているぞ」


 熱々のお好み焼きを切り分けて、口の中でほふほふさせながら頬張るユウ。
 最初は熱さにやられていたが……すぐに驚いた表情をした。


「なにこれ……美味しすぎる。やっぱり、師匠の作る物って何でも満足できるよね」

「満足していただけたようで何より。話を戻すが、今後何を教わりたい?」

「……改めて言われると、全然浮かばないんだよね。だって、師匠から教われることがよく分からないし。普通こういうのって、そもそも師匠側で決めることじゃないの?」

「できることが多すぎる弊害だな。何でもできるから、その分何をしていいか分からない現状なんだよ。だからユウの意見を確認しておきたかったが……そうなると、俺側で決めていいってことか?」


 改めてユウをジッと見つめる。
 業値判定で悪人特攻な魔法剣士。
 陽光を魔法として操り、光速での戦闘をすることも可能。

 何より、【傲慢】を俺から与えられて眷属になっている。
 そういった観点から、何を教えればいいかじっくり考えてみた。


「……そんなに見られると、ちょっとだけ恥ずかしいんだけど」

「うーん、全然浮かばない」

「う、浮かばないなら、もう見なくてもいいよね?」

「まあまあ、いいじゃねえか。俺だって男、美味い飯を美少女と顔を合わせながら食べたい欲求ぐらいあるさ……おや、ユウさんや。ちょっとの割には顔が真っ赤だね」


 なんて会話をしながら、思考の大半はユウに教えられることを考察している。
 名残なのか男のように振る舞いながら、女の子らしさを隠さない少女。

 そんな彼女が【傲慢】に適合したのは、かつて抱いた傲りの影響。
 人の罪を己の采配で裁く、それまさにひどく【傲慢】な行いだ。


「──女の子らしさでも磨くか? 充分に魅力はあるんだ、そのままよりもかわいくなれると思うぞ」

「えっ? 女の子……」

「冗談だ。とりあえず、剣技と身力の運用でも学んでいこう。どっちも覚えておいて損は無いからな」

「う、うん……」


 もじもじしだしたユウに、少し多めに切り分けたお好み焼きを渡しておく。
 俺としてはどっちでもいいが……まあ、眷属経由でそっちもやるか聞いておきますか。


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