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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント終篇 その03
しおりを挟むイア(と従魔)と砂浜を満喫した。
まあ、俺は車椅子に座って彼女たちが戯れる様子を見ながら、彼女の外套をバージョンアップしていただけなんだが。
粋な計らいでいろいろと仕込んだら、それがバレて追いかけられてしまう。
その際、なけなしの魔力を使い切り……翌日の俺は、完全に動けなくなってしまった。
「というわけで、お前に任せよう。せっかくだし、おすすめの場所に連れて行ってくれ」
「よ、よろしいのですか?」
「よろしいも何も、俺が頼む側だしな。別にいいぞ、お前が勧める場所ならどこでも」
「っ……! 分かりました、ならばその期待に沿える場所を全力で見つけます!」
両手をギュッと握り、張り切る女……というか男──シャインの姿にさっそく一息。
空回りというか、わざわざそこまでしなくていいというか……。
「シャイン、今から探さなくていい。数日ここに居て、自分でいいなと思った場所でいいから。誰かのオススメより、お前のオススメが気になるし」
「そ、そうですか……ですが、俺は昨日までクランの奴らといっしょに居ましたので。女性が好む場所の方が多いですよ?」
「……まあ、別にいいか。その中で、お前がいいと思った場所へ俺を連れて行ってくれ」
シャインはなんやかんやあって、俺に体を女体化された元【勇者】な祈念者。
ハーレムパーティーを築いていたが、今は俺の下僕を望んでやっている。
にも関わらず、彼女たちとの繋がりは断たれておらず健在。
それどころか、今の状態を受け入れたうえでさらにメンバーを増やしている始末。
……モテるヤツって、どんな状況にあろうともモテるんだよな。
くっ、これが元でも『選ばれし者』だったヤツの力なのか!
◆ □ ◆ □ ◆
シャインが俺を連れて向かったのは、よく分からない場所だった。
まあ、一言で言ってしまえば巨大なショッピングセンターなのだが……。
「ゴチャゴチャだな」
「設定的に、あらゆる場所から人が訪れる場所らしいので。どんな物でも揃っている……という売り文句みたいです」
「秋葉原みたいな場所だな」
「……ご主人様、この売り文句でそれが浮かぶのは、少し──あひんっ!」
行ったことないから仕方ないだろう。
地方のヤツにとって、アニメで学んだ秋葉原には理想郷という概念が宿っていてもおかしくないんだよ(偏見)!
人ごみに溢れ、至るところで広告や宣伝が目に留まるような場所だ。
地元がそこまで都会じゃない俺としては、目がチカチカしてしまう。
反論し掛けたシャインの手を車椅子越しに掴み、手繰り寄せて耳元に息を一吹き。
……何故だかよく分かりませんが、お礼を言われてしまいました。
「ところでシャイン。お前はここで、女の子たちと何をしてたんだ?」
「何、と言われましても……誰が俺に一番似合う服を選べるかと勝負したり、逆に俺がプレゼントをしたりしていましたね」
「マジか……コイツ、マジぱないわぁ」
「? 普通だと思いますが」
俺との一件を経て、性根が入れ替わっているので、こういう思考になっている。
女性のことを考えられる、そんな奴に……チッ、忌々しい限りだ。
「まあいい、とりあえず移動するか。ほら、押してくれ」
「分かりました」
シャインに車椅子を押してもらい、この広いショッピングセンターを見てみることに。
何があるのか分からないが、まあ見てみれば興味の抱ける物もあるか。
◆ □ ◆ □ ◆
結論から言えば、絶対にまた来る。
今の俺では無理だが、しっかりと魔力が回復した状態なら……と思えるような店も見つけられたので、満足だった。
「スクロール屋、従魔ショップ、いろんな料理を売っている場所もあった。ついでに、お土産もいくつか買えた。シャイン、好い場所に連れて来てくれたな」
「そう言ってもらえて何よりです」
とても嬉しそうに微笑むシャイン。
コイツ、男だよな……と思いたくなる美少女っぷりだが、それ以上に俺としては気にしたくなる部分がある。
「なあ、シャイン。一度訊いたことがあると思うが……俺を恨んでないのか?」
「恨んでましたよ。それ以上の快楽に塗り潰されましたけど、やっぱり最初は、心のどこかでどうしてこんなことに……って考えていました」
「そう思うのが普通だ。いきなりすべてが覆れば、一時的にマヒするだろうが時間経過で普通に戻る。何もおかしくない」
少しだけ、寂しそうな顔をしていたのでつい慰めるようなことを言ってしまった。
それをしたのは俺、なのでそんなことを言う資格なんてないのにな。
「でも、それからのAFOは変わりました。アイツらとも、本音を打ち明けられるような仲になりましたし。ただ威張り散らしているだけじゃ、誰もついてこないって……心の底から学べました」
「……で、恨みの解消に繋がるのか?」
「今ではご主人様に感謝してもし切れないほどの、いろんな経験を積みました。アイツらのことも、この世界でくらい支えてやりたいと思えるくらいには。好きだって、その気持ちを体全部を使って表現しています」
「そっか……まあ、お前の選択だ。俺からとやかく言うつもりはない」
分かっているうえで、そう振る舞えるのは良いことだろう。
俺はそれができないからこそ、距離を一定に保とうとしていたのだから。
「ご主人様のことも、大好きですよ?」
「……男に言われても嬉しくないな」
「現実ではそうでも、こっちなら立派な女ですから。ご主人様が相手なら、何でも言うことを聞いてもいいですし」
「……好きにしろ」
それからもう少しばかりショッピングセンターを見て回り、俺たちはホテルへと帰還するのであった。
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