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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その02

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 アルカと過ごす一日は、何もなかったとても平穏だったと思う。
 途中から、ただ魔法に関する話をしていただけだが……それでも楽しめた。

 翌日、スキルはともかく体を動かせるようになったので、外に出てみることに。
 ちなみにリゾー島、超巨大なホテルがあって俺たちはそこに泊まっていた。


「まさか、車椅子まで用意してくれるとは。そして、それを動かしてくれる親切なヤツまでいるなんてな」

「別に、今日がワタシの番だっただけよ。というか、そんな重症者みたいなプレイをして楽しいの?」

「大人しくしているのが、今の俺のやるべきことだしな。ちなみにこれ、魔力を籠めれば全自動で動かせるんだぜ」

「……止めていいかしら?」


 煽った感はあるので、正直に謝る。
 彼女──イアには言っていないが、今の俺にはそこまで魔力が無いので、その機能は全然使えないのだ。

 短時間なら可能だが、せいぜい数メートルが限界のはず。
 なので、自由に動きたいなら可能な限り補助してもらった方が助かるのだ。


「それで、どこに行きたいの?」

「どこでもいい……が一番困るか。なら、イアの従魔たちも楽しめる場所がいいな」

「それでいいの?」

「ああ、それに……イアの好きな場所、って指定して男が入りづらい場所だと困るしな」


 どうやらその予想は当たったようで、小さく舌打ちをしていた。
 普段と違って妖女メルになれないので、細心の注意が必要になるな。


「とは言っても、あんまり今のあんたが満足できるような場所じゃないわよ。従魔お断りの場所もあるから」

「嫌がる奴もいるだろうし、それは仕方がないだろ。別に、どこがいいとか嫌とかは無いから、案内してくれよ」

「はいはい、分かりました。それじゃあお爺さん、行きますよ」

「ふぉっふぉっふぉ、孫がどこに連れて行ってくれるのか、今から楽しみじゃわい……自分で振っておいて、そんな露骨に引くのは止めてくれませんかね!?」


 なんて会話をしながら、俺たちは彼女オススメのスポットへ向かうことになる。
 まったりと日の光を浴びて……車椅子を押してもらいながら。


「そういえば、忘れられた設定になりつつあるアレ、どうなんだ?」

「設定? ……あー、呪いね。なんだかもう忘れていた気でいたわ」

「不憫だな、呪いを掛けたヤツ」


 イアの容姿は控えめに言って優れている。
 勝気な感じだが、男女どちらからでも好かれる美貌なんだろう……俺は眷属で耐性が付いているので、そこまでは思わないが。

 まあそんな感じだからか、彼女は初期設定中に理不尽ながら呪いを受けたらしい。
 その結果、見た相手が虜になったり激しく恨んだりするようになっていた。

 俺はそんな彼女の呪いを、とりあえず発動しないように処置しておいた。
 根本的な方法ではないが、誰も視なければいいという考えだ。

 そのため、彼女には認識偽装スキルが常に掛けられている。
 付与した外套を、ずっと彼女が着ているからこそなんだけどな。


「その外套、新しいのに変えようか?」

「えっ?」

「ずいぶんと経ったし、どうせなら平時以外にも使えるようにした方がいいだろう? 今ならより高性能にできるし……どうだ?」


 いろんな技術も学んだし、直接回路を刻み込めば偽装の性能も挙げられる。
 彼女にとってもお得なことだ、だからこそ提案したのだが……イアは首を横に振った。


「止めておくわ。だいぶこれも使ってきたけど、耐久度は勝手に回復するから不要だと考えたことが無かったもの」

「いや、だから古いだろうし、新しい物を用意しようと──」

「それに……これは、あんたから貰った物だし。どうせなら、大切に使い続けるわよ」

「…………アップデート、その外套のまま改良だけする。これならどうだ? 他の奴のもやっておきたいし、これから先、今のままで見抜かれるのも俺の後味が悪くなるしさ」


 それなら、と彼女は後で外套を渡すことを約束してくれた。
 まあ、物には付喪神が宿るというし、実際似たような例があることを俺は知っている。

 何より、自分の作った物を大切にしてくれるというのは喜ばしいことだ。
 無職な生産職ではあるが、そういう当たり前の感性ぐらいは持ち合わせている。


「ところでこれ、いったいどこへ向かっているんだ?」

「砂浜よ。従魔もOKな場所だから、従魔師たちが集まっているの」

「へぇー。そこって、遊泳は?」

「問題ないわ。けど、そんな状態で海に入ったら死ぬわよ」


 目的地が海だというから、当然の質問をしただけだ。
 もちろん、俺も入るつもりはない……死にたくはないからな。


「そうじゃなくて、俺は砂浜に置いて楽しんでもいいぞってことだよ。むしろ、こういう時は思いっきりはしゃいでいる姿でも見せてほしい」

「……バカじゃないの?」

「えー、いいじゃん。なんかこう、定番のイベントって感じがするだろ? ぜひとも、思い出のスチル登録でもさせてくれ。その間に外套も改良しておくし、偽装の方も俺がなんとかするからさ」

「……ハァ、面倒臭いご主人様ね。まあ、そういうことができるのもあんたのお陰だし、少しぐらいならやってあげなくもないわよ」


 そんなこんなで、俺とイア(と従魔たち)は海を満喫するのだった。


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