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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント終篇 その01

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 リゾー島


 なんというか、いかにも定番な語呂合わせな名称の島。
 それこそが、俺たち祈念者が求めた終着点である。

 名称通り、リゾートっぽい感じのこの島は選ばれし者だけが訪れることができる楽園。
 一度訪れれば、誰もがその虜になる……といった宣伝文句が看板に書かれていた。

 ……なお一年に一度だけ、本当はもっと簡単に入れるとか入れないとか。
 まあ、あんなに過酷な条件を出してたら誰も来なくなるだろうよ。

 そんなバカンススポットで、俺は現在何をしているかというと……何もしていない。
 というか、何かしようとすることを許されていない状況にあった。


「はぁ……俺も早く遊びたい」

「しばらくは安静よ。アンタ、体がボロボロなんだから」

「くっ、こんなもの、再生系のスキルでも魔法でも使えば……」

「せっかくの休養地なんだから、大人しくしてなさい」


 本日の監視員、アルカに手ひどくあしらわれて溜め息を一つ。
 ベッドの上で彼女のお小言を聞きながら、改めて彼女を見る。

 わざわざ隣に椅子を用意して、本を読むという時間潰しまで用意する徹底っぷり。
 だが空色の瞳が映す対象に、文字だけでなく時折モゾモゾと動く俺も含まれていた。


「──言われたんでしょ? 何もしないでいろって。だからアンタも、今は本当に入院みたいに何もしていない」

「そうだよ。そもそも、俺の力のほぼすべてはアイツら由来だしな。そこをカットされたら、ただの雑魚しか残らん。どうだ、今なら圧勝できるぞ?」

「……するわけないでしょ。少なくとも、相手が戦える状態じゃないのに挑むのは、さすがにどうかしているわよ」

「死体を動かしている時の俺も、結構弱体化していたと思うん──ひゃばっ!?」


 突然チカッと光が瞬くその瞬間、どうにか頭を動かしていた俺。
 嫌な予感は当たるもので、首筋に光で編まれた針が刺し込まれていた。


「矛盾点を突きつけられたからって、そこまでしなくてもいいですよね!?」

「う、うるさいわね! あ、あれは戦場に居るんだからいいの、セーフなの!」

「だから……あっ、いえ、その通りですね」


 宙に浮かぶ無数の針を見れば、さすがにこれ以上は何も言えなくなる。
 というか、入院患者を相手にやる所業じゃないんだよなー。


「それでその、具合はどうなのよ? 私はともかく! 他の子は心配しているわよ」

「さっきも首を動かしたし、そこまでのものじゃないぞ──全身筋肉痛、それにすべての身力が欠乏しているだけだからな」

「……普通死ぬわよね?」

「そのギリギリを彷徨っている感じだ。今は全部のステータスが1にされているから、激しい動きができないってだけでもある」


 強すぎる力には代償が伴なう。
 今回発動した[因果応報]と[神域到達]にもまた、それが存在した。

 本当はそれぞれ軽いのだが、重ねて使うことでデメリットも向上している。
 その結果、大半のスキル使用不可の状態で先ほど語ったデメリットを背負っていた。


「今は何ができるのよ?」

「そうだな……パッシブ系が少し、アクティブは完全にダメだ。あと、スキル無しでできることなら何でも。まあ、こっちはその原動力が無い状態だから、今は何もできていないけどな」

「で、そんな状態で何をしているの?」

「とりあえず、身力の回復を促しておきたいからな。呼吸スキルを真似して、一度に取り込める量を増やせないかやっている感じだ」


 ついでに、精霊術の『無吸』で魔力の回復速度も上げている。
 溜めた身力を肉体の修復に回し、とりあえず動ける状態にすべく頑張っていた。


「なあ、アルカ……お前の魔法でどうにかできないか?」

「できるけどやらないわ。それこそ、アンタならその状態でもできるんでしょ?」

「そりゃあな。けど、約束をしたからできない。それに、よく分からんがバカンス中は人に頼ることを宿題にされたんだよ」


 自分にできないことは人に頼る、闇雲に突き進むヤツにそんなことを言うのは定番だ。
 しかし……できるのに人を頼る、というのはなかなかレアなケースではないだろうか?


「だからアルカに頼ってみたんだが、事情を聞いてもダメか?」

「ダメね。そもそも、あんまり回復は適性が無いのよ」

「そうなのか? てっきり、どんな魔法でも万能ですって感じがしたんだが……」

「【賢者】で創った回復魔法は、医学を組み込んだだけ。従来の魔法みたいに、イメージ力で補う方はさっぱりね」


 人には向き不向きがあるし、アルカの場合は治すより壊す方が向いているのだろう。
 ちなみに俺は、どっちも普通レベルでしか本来の適性が無いぞ。


「アンタはどうなのよ? 魔導でも、あのとき回復らしいことをしていたけど」

「俺の場合、適正が俺自身のモノとは関係なく上級分までは底上げされているからな。加えて、回復に補正のあるスキルもいくつか有るから……」

「つまりチートってことね、腹立たしいことこの上ないわ」

「否定できないなー。俺も自分に、そこまで回復関係の適性があるとも思わないし、儲けものぐらいに捉えているよ。まっ、有って困るようなものじゃないし」


 便利過ぎる{感情}系チート。
 適性が上がればスキルを得られ、祈念者だからスキルはSPで簡単に習得でき、そのポイントも大幅値引き……連鎖しているよ。

 アルカはとても不服そうだが、彼女は彼女で俺の持つチートを一つ持っているしな。


「私のヤツ、そういうのまったく無いんですけど。戦闘にしか役に立たないわよ」

「その分、戦闘には便利だろ? だいたい、名前が七つの大罪なんだから、そっち方面の利便性を求める方がダメなんじゃないか?」

「……騙された方が悪い、そういうことね」

「あの、人を詐欺師みたいに言うのは少々いけないと思うんですけど……」


 何でもないような、友人と冗談交じりに話す時間。
 俺とアルカは……ライバル(?)、のようなものだが、自然と会話は続いていった。

 そして、ふと──


「なんというか……落ち着くな」

「何がよ?」

「いや、久しぶりにこうしてまったりとしている時間がな。普段、アイツらといっしょに居る時も、それはそれで落ち着くんだが……それとは別に、親しい誰かと話す、みたいな感じで時間を過ごせるんだよ」

「…………そ、そう」


 まあ、俺にそんな相手は…………。
 ともかく、そういう感じなんだろうなぁとアルカたちと話していると思う。

 彼女たちには現実世界がある以上、俺みたくどっぷりこちらに嵌ることは無い。
 言っては悪いが、後腐れの無い関係みたいなものなんだろうな。

 顔を逸らすアルカが、俺のことをどう考えているのかは分からない。
 それでも、彼女も俺のことはライバルか知り合いぐらいの関係だと思っているだろう。

 ゲームに没頭する人も、そこには割り切りと限度を持っている。
 ……そう考えると、やっぱり俺は異常者だなぁと再認できるな。


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