1,926 / 2,519
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント後篇 その17
しおりを挟むようやくカナは心を表に出した。
いや、正しくは出していた……が、それは正の想いのみ。
聖人とて、決して負の想いが存在しないわけではない。
それを切り分け、表に出さないことができるのが聖人なのだろう。
彼女は普通だ、それでも聖人のように振る舞えてしまった。
これまでの俺に対する優しさとは、それ以外の想いが露出していなかったらこそ。
……当然というかなんというか、畏怖嫌厭で印象最悪のヤツへの態度じゃなかったし。
そういう部分も割り切り、離すことができたのもまた異常の一つなのだろう。
「魔王さん!」
「ふはははっ、いつでも来い!」
太陽のように輝く剣と花に包まれた剣、そして透明な槍を操る俺。
対するカナは、まだその身に宿る従魔たちと共に俺を倒そうとしている。
だが、何もかもが足りていない。
ただの従魔師が至ることのできる限界は、もうすぐそこまで来ている。
「くっ、どうして……」
「どうして、とは? 俺がこれだけの力を持つことか? 俺がお前にしたことか? 俺がお前にこれだけのことをした理由か? すべて無駄だ、答えは一つ──俺が俺であるために必要なことだからだ!」
剣を畳みかけ、槍で奇襲を行う。
その繰り返しを続けているだけで、少しずつ減っていった彼女の従魔たち。
それは紛れもない彼女の選択によるもの。
ここに至るまでのすべて、俺の干渉もあるが最終的な判断は彼女自身が選んだ道……だからこそ、そこに躊躇していた。
「それに対してカナ、貴様はどうだ? その力は何のためにある!?」
「それは……これは、みんなとの絆──!」
「絆は破れ、今に至る。そんなことも分からないのか、貴様は。俺が求めたカナという娘は、もっと思慮深いと思ったのだがな」
俺がそれを言うと、大半の人間がより賢くなってしまうのだが……そこはご愛嬌。
そのことを知らないカナは、歯を食いしばり──叫ぶ。
「あなたに……あなたに何が分かると言うんですか!」
「何度も言ったではないか、知らんと。俺に分かるのはせいぜい、カナがその導きの力を使っていないことぐらいだ」
「っ! どうしてそれを……」
「同種の力を有しているからな。貴様は友愛の先導者、俺は……無数の理の先導者。先達として教えてやろう、紛れもなくそれは貴様の在り様が生みだしたもの。選択そのものは間違っていなかったのだよ」
シュリュの持つ<元劉帝>。
本来の十全たる<劉帝>は、彼女曰く簒奪の証であり導きの結果だという。
彼女の導きは『覇道』。
友愛とは違い物々しいそれは、彼女の歩む道を血みどろ色に染め上げた。
そして、その証は他にもある。
それこそが彼女の就く<武芸覇者>、覇の理を抱いた武芸者に与えられた力。
彼女もまた、友愛の名を冠した術法を会得している。
それゆえに、彼女は彼女であることを示す術を知っていた。
「みんな……アレを使います」
『カナ、本当に?』
「ごめんなさい。わたしに覚悟が無くて、これまで一度も使っていませんでした……それでも、今回だけは!」
『……いいわよ。わたしたちはカナのじゅうま、それいじょうにカナといっしょにいたいおともだちよ。だから、あのいまいましいおとこをぶっとばしちゃいなさい!』
酷い言われようだが、今はただ黙って聞いているだけに留める。
覚悟を決めたカナは、いったん従魔たちとの融合を解除した。
「ふむ、降参をする気になったか?」
「……これから使う能力は、まだ一度も使用したことがありません。テキストを見ただけですので、わたし自身がどうなるかも不明です。ただ、魔王さんにも負けない力が手に入ると思います」
「そんな力があるのか。ならばなぜ、これまで使ってこなかったのだ? まさか……俺程度ならば、加減した力でも充分と驕っていたのか?」
「違います。わたしはみんなの期待に報いることができない……ずっとそう思っていますし、今も思っています。それでも、全力を出さねば魔王さんには勝てません」
無茶を通してでもやりたいことがある。
その結果が、イチかバチかの賭けというわけだ……うんうん、実に好ましい。
「好きにしろ。把握しているとは思うが、向こうの戦いももう間もなく終わりを迎える。その後でも前でも構わん、勝てると踏んだならばいつでも掛かってこい」
「魔王さんは……」
「ん?」
「……いえ、何でもありません。たとえどのようなお考えがあろうと、その時間はハークさんが稼いでくれたもの。勝ってそれが無駄ではなかったと、証明してみます!」
彼女は何かを準備を始める。
その全貌を理解することはできないし、今は知りたいと思わない。
高まる魔力が漏れ出し、俺の感知能力がその量が眷属たちに匹敵すると教えてくれた。
もう必要ないだろう、そう感じて死ぬ危険のある[アズルジャア]を帰還させる。
カナもそんな些細なことは気にせず、ただ自分の世界に深く潜っていた。
大きく深呼吸をして、準備の終わり……そして最後の戦いの始まりを告げる。
「──“友愛托生”!」
鑑定眼が映し出すのは、一気に増大する彼女のステータス。
それは俺の終焉の島転移前の数値を軽々と超え、五桁……六桁へ到達していた。
生を託す、それが召喚士と違う調教師としての極み。
……非常に厄介だな、だがこれを潰せば俺の勝ちが確定する。
──戦闘終了まで、あと180秒。
0
お気に入りに追加
520
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる