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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント後篇 その14

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 おそらくだが、ハークはすでにゴールするために動いているのだろう。
 だからこの場には居ないし、カナも俺と戦おうとしている。


「この戦いはクラン戦。たとえここで俺を止めようと、まだクランメンバーが居るぞ」

「……それでも、勝つのはわたしたちです」

「ふっ、いい覚悟だ。ならば、その力を示してみせよ!」

「そのつもりです。今回は最初から、全力で行きます──“魔獣身化”」


 前に戦った時と同様、その身に複数の従魔の種族性質を宿すカナ。
 天魔と龍の翼、反転する瞳の色、交ざり合う魂魄の輝き……本当に厄介だ。

 前回はナースを呼び出し、虚無の力も用いて対抗した。
 だが、同じというのもつまらない──俺には無数の手札があるのだから。


「来い──[花日]、[水月]、[天華]」


 ありとあらゆる隔てりを越え、契約者である俺の下に集う三本の神器。
 虹色と半透明の剣、そして不可視の槍に与えた名前を告げて召喚した。


「此度、俺は全力だ。不条理とも不合理とも不義理とも言えるが、俺は貴様を屈服させた上でクランに引き入れよう」

「…………」

「そう容易く、折れてくれるなよ」
《[天華]──“透明追撃”》

「っ……スラ!」


 音も無く行った攻撃なのだが、カナは従魔のナニカが感じ取ったのかそれを防ぐ。
 物理反射ができるスライムの名を告げ、その性質で弾いたのだ。

 その正体は『無槍[天華]』。
 不可視という性質を与えられたそれは、ありとあらゆる槍(矛)の性質を一振りで表すことができる。

 某神の槍のように、自動追尾で戦闘をしてくれるオプション付きだ。
 なのでそちらで翻弄しつつ、俺もまた二振りの剣で攻撃を仕掛ける。


「それでは、前回の復習といこうか。夢現流武具術闘之型──“移転闘法”!」

「なら──“空間全智”!」


 カナが何かをすると、高速で転移しての奇襲が連続して失敗した。
 まるで、俺が辿り着く前からその場所を把握しているかのような動きである。


「新たに会得したか……ならば、実力勝負といこうか!」

「っ……モーユ!」


 カナが使う武器は鞭。
 植物で編まれた代物なのだが……前回と違い、精霊の反応が確認できる。

 よりしなやかに、より速く、より強く打たれる鞭を剣で切断しようと挑む。
 だが鞭は斬られてもすぐさま再生し、畳みかける前に鞭自らが回避を行う。

 ユラル以上とは思わないが、それなりに格のある精霊なのだろう。
 とはいえ、殺すわけにはいかない……彼女は『調教師』だし、従魔は死ねば終わりだ。

 いちおう寸止めができる仕込みはしてあるが、絶対に発動できるかは微妙だしな。
 どうしたものかと考え……そういえば、と思えたものを使う。


「[水月]──“神殺滅封:律喰界花”」


 一振りすると、空間の裂け目が開かれて大量の花々が咲き誇る。
 それを避けようと、カナは翼を広げて高く飛び上がった。

 その効果はシステム由来の能力吸収。
 要するに、触れている間は[メニュー]関係のものはほぼ使えなくなる……あっ、死に戻りは可能だぞ。

 まあ、今回の場合なら魔法や武技が使えなくなる程度。
 マニュアルならできても、システム頼りの動きなら不可能になるはずだ。


「魔導解放──“黄金輝く日輪の生誕”」
《[花日]──“魔技直付”》


 片方の剣で花を生み出している間、もう片方の剣にも力を注ぐ。
 太陽を生み出す魔導、その莫大な力をいっさい還元せずにそのまま押し込む。

 そして、花の方も[水月]に命じて自身に纏わせるように動かす。
 それが完成したそのとき──再び転移による攻撃を行う。


「スラ、ミラ──“完全反射”!」

「反射にも限度があるのだろう? いっそのこと、見せてやろう──これが終焉だ」
《[水月]──“干渉透過”》

「う、嘘……」


 彼女も俺が振るうこの一撃が、危険だということくらい分かっているのだろう。
 物理と魔力の反射を切り替えていたが、今回はその両方を合わせて行った。

 ……が、[水月]は何物にも染まり何物をも拒絶する透明な剣。

 刃は合わせ鏡を透き通り、何もないかのようにあっさりと振るわれる。
 その先にある一切合切を、分かつように押し進めて。


「まずは二体」

「……スラ、ミラ──ぇっ?」


 切り裂かれた二体の魔物が、カナから分離して出現する。
 一心同体……ならぬ一身同体となっていた彼らを、透明な剣が引き裂いたのだ。

 このまま放置すれば、そのまま粒子化して永久に消滅するだろう。
 だがカナは一流の祈念者、死亡直後なら使える蘇生アイテムの一つや二つあるはずだ。

 だがそれを俺がさせない……ただただ圧を放ち、身動きを抑えていた。
 淡い光が、少しずつ生みだされ、カナの表情が絶望に染まり──唖然としたものへ。


「とはいえ、恨まれでもしたら大変だ。アフターフォローぐらい、用意してあるから安心しろ──“概念再成”」

「スラ、ミラ!」

「すぐに退場させろ。俺が寛容でなければ、すでに死んでいるのだからな」

「……分かりました。あの、その……ありがとうございます」


 蘇生とは少し違うが、彼らを構成する概念すべてを遡らせることで命を救う。
 速ければ速いほど、正確性が上がるので、彼女の了承無く速めに使っておいた。

 どうやらその判断は正しかったようで、彼女はホッと息を吐いて二体の従魔を戻す。
 彼女の固有スキル【育成空間】によって、彼らは収容された。


「──では、次を狙おうか」

「っ……!」


 再びやって来る攻撃に、カナは攻撃を捌くことしかできない。
 速くしないと反撃しないと、しかしそうすれば仲間が……そんな風に悩んでいるはず。

 さて、どうするのやら。
 俺は思考速度を高め、この先の展開を読んでいくのだった。


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