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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント後篇 その13

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 ゴールに着くためには、条件を満たして出現させた守護獣を起こさなければならない。
 その条件がもっとも簡単な嵐に便乗するため、集まっていた祈念者たちを殲滅した。

 そこら辺の情報が欠けている俺は、ティンスにその説明をしてもらっている。
 とりあえず、天候ごとに必要なものが違うことは分かった。


「嵐なら一定以上のレア度のアイテム一つ、それ以外の悪天候なら天候の名前を冠する宝玉を一つね」

「宝玉……あー、そういえばこれを拾ったの忘れてた」

「…………いろいろツッコミたいけど、それはどこで拾ったのかしら?」

「海賊風の祈念者が落としたんだよ。名前はえっと……雨だな」


 つまり、島一帯に雨が降っている時なら島に挑めるというわけだ。
 勝手に独りで納得していると、ティンスが深ーーい溜め息を吐いている。


「私たちが持っているのは轟雷。つまり、激しい雷が降っている間じゃないと、挑むことができなかった。だからこそ、対となる天候改変の魔道具が必要だったんだけど……もう要らなさそうね」

「そりゃあ雷なんて面倒な天候改変、ありふれたアイテムでできるわけないよな」


 ティンス曰く、希少な天候の宝玉ほど手に入りやすく、逆に魔道具は見つけづらい。
 そうして、ゴールに着くまでの時間をやや調整しているようだ。


「そういえば、そんなアイテムが必要とかいう条件が有るのに、どうしてあそこまでして割り込もうと? えっ、誰かがやっている間なら問題なしなのか?」

「そうね。人数とかは関係ないし、守護獣が出ている間にゴールに着けばいいのよ。だから誰かが呼びだして狙われている間に、こっそりと抜ければ問題ないわ」

「……そういうものか。じゃあ、生産職とかも? その場合だと、生産職だけのクランが単独で突破することが不可能になるけど」

「その場合は、イベント中に手に入ったアイテムだけで作った加工品を捧げるらしいわ。ただその場合、弱体化するだけで結局戦う必要があるらしいのよ。しかも、他のクランも捧げていないと結局強くなる仕様」


 横槍が入ると、面倒になるのか……そういう隙だらけな辺りも、おそらくわざとなんだろうな。

 今回、俺がPKクランの宝物庫で宝玉を拾えたのも、決して偶然ではないと思う。
 沈めた艦型の迷宮もそうだが、やはり何か裏があるんだろうな。


「じゃあ、周りも綺麗になったわけだが、俺たちはどうするんだ?」


 しっかりと周囲の島に到着していれば、死に戻り場所はそちらに変更できる仕様だ。
 やがて復活した集団が、そちらからこちらに来るだろう。


「メルスのそれで問題は解決したし、もう挑むしかないんじゃない? 幸い、雨を降らす魔道具は持っているし」

「了解、それじゃあその方向で行くとしようか。それで、そろそろ守護獣とやらの説明に入ってくれ」

「分かったわ」


 まあそれから、守護獣の話を聞いた。
 別にどんなヤツが相手でも、結局戦う気ではいた……討伐した方がポイントが手に入るので、勝つためには必要なことだからな。

 彼女たちは準備を始め、守護獣を呼び出すための儀式を行う。
 魔道具で天候を雨に変えて、そのうえで宝玉を船の舳先に飾っている。

 これで守護獣が出てくるらしい。
 その間、ゴールに向かえるので戦闘する気の無い奴らはそちらへ向かう……うん、ここが勝負所だろうな。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 守護獣は『雲海天竜マリンクラウドドラゴン守護者ガーディアン』らしい。
 天の竜であり、雲の海の竜……属性マシマシなラスボスを相手に、彼女たち・・・・は船の仕掛けも生かして戦うことになる。


「──二回目、か。敗北後、再び戦いを挑むという流れは定番ではあるがな」

「どうして……」

「何故を問われても、こう答えるしかなかろう。貴様ならば必ず来ると、そう信じていたからこそだ」


 嵐を収め、雨を降らせたゴール付近。
 知覚領域では無くなった場所で、俺はただ待ち続けたのだ。

 わざと魔力を放出して、待ち伏せをしていると……彼女はそこに現れた。
 その背後に小さな舟を背負った巨大な亀を引き連れ、天使と悪魔の翼を広げて。

 確認されている固有の種族【天魔】。
 それを従える彼女は、借り物の翼で亀を守るように俺の前へ立ちはだかった。


「ふむ。やはりこう言うことがベストであろう──ここを通りたくば、まずこの俺を倒してからにしろ、とな」

「……その間に、魔王さんのクランがゴールするということですね」

「いやいや、そういうことではない。互いに了承の上、ルール変更をしても構わんぞ? 俺を死に戻りさせたならば、その瞬間カナの勝利で良いとな」

「…………いえ、結構です。正々堂々、魔王さんを倒して勝ちますので。これ以上は、ズルも反則もしません」


 まあ、カナならば可能だろう。
 これまでいっさい反応が無かったのに、ここに居ることから──直前まで動かず、この土壇場でスタートして辿り着いたのだから。

 おそらくハークの方で、これが最適だと教えたのだろうな。
 そしてカナも、それを承諾した……それほどまでに、叶えたいことがあるのか。

 ──うん、偽善のし甲斐が出てきたな。

 普通ならば、ここは勝ちを譲って叶えてやるところだろうが……俺は偽善者、自分優先なので知ったことではない。

 完膚なきまでに叩きのめしたうえで、彼女の願いを叶える。
 ……なんてできればいいけど、思いっきり難易度が高いよなー。


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