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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント後篇 その12
しおりを挟む俺たちのクランが勝利するために、発動していたものは大きく分けて二つ。
俺の魔導とアルカのオリジナル魔法、それら二つを組み合わせていた。
天と海、双方を思うが儘に操ることで最短最速を維持してきたのだが……。
すでにゴールは目前、それをしている必要も失われていた。
「むしろ、これ以上は他の奴らの集りにされそうだしな。というわけでアルカ大提督、お願いします」
「……そのノリ、まだ続けるのね。まあいいわ──『深厭の虚霧』!」
困ったときのアルカ様。
発動したその魔法は、見る見るうちに周囲に濃厚な霧を立ち込めていく。
ある程度霧が広がったところで、俺は発動していた“移りゆく天なる意気”を解除。
代わりに、搭載しておいた船のギミックの一つ──存在遮断機能を発動させる。
魔力を籠めれば、一定時間の間だけ周囲から姿を隠すという魔道具だ。
こちらは船の強化に準じて、消費魔力を抑えたり性能を向上させられた。
……それを弄りに弄って、膨大な魔力を消費する代わりに高い隠密性を発揮できるようにしている。
初期では他の船の機能が使えなくなる制限などもあったが、それは全部取っ払った。
他の機能……それは普通に使える大砲やその他武器なども含まれている。
「野郎ども……って、この船には俺以外全然男が居ないけど、とにかく打って撃って討ちまくれ!」
各々の返事を聞いた後、船の至る所で攻撃音が鳴り響く。
それは火薬が爆発する音だったり、引き絞られた矢が飛んでいく音だったりと。
そもそも、船の周りに居るのが悪い。
本当に真面目にこのイベントに参加するつもりがあるなら、大荒れの中を通らずとも不通に通過すればいいのだ。
俺たちの周囲に居たのは、そこに利があると考えた者だけ。
ならば容赦をする必要などない、その結果が今回の攻撃だ。
「……さて、何をしようか。なあイア、どうすればいいと思う?」
「なんでワタシ? そうね……邪魔にならないように船内に戻っていれば?」
「邪魔かよ。ならそうだな、とりあえず支援だけでもやってよう──“並速思考”」
「っ……変な感覚なんですけど。でも、お陰で撃ちやすくなるわ」
眷属の開発した支援魔法。
思考を加速させ、複数のことを同時に意識できるようにした。
システム経由で発動する魔法は、スキルレベルに応じてその性能が向上する。
そして、俺の魔法系のスキルレベルはカンスト済み……異常なほどバフを盛れるのだ。
まあ、そんなことしたら思考を制御できなくなるので制限を施してある。
それぞれ二倍と二つ分、それくらいの方が彼女たちもやりやすいだろう。
「ついでに他の船には──“強威剥落”」
魔法の効果は強化魔法の無効化。
要するに、限定的にいてついたはどうを出すことができるのだ。
最低でも上級魔法、システム由来の魔法ならばそれだけの格が無いと発動しなくなる。
アルカのようにオリジナルの魔法、もしくは超級職などで会得する超級魔法とかだな。
魔法の効果は覿面で、これまでは抵抗できていたクランも次々と沈んでいく。
アルカの魔法で混乱状態だったのを、魔法で抑えていたところは必ずそうなるだろう。
対処できたのはせいぜい数隻。
それもより火力を集中させることで、時間経過で沈むことになった。
「ふぅ……盛り上がったなー。それじゃあ、ゴールに向けて行きますか!」
『おー!』
「それじゃあアルカ船長、お願いします!」
「今度は船長ね。はぁ──『導きの選風』、『果てしなき航路』、『全体構造強化』」
戦闘用に止めていた魔法や維持していた魔法を再起動してもらい、出航する。
深い霧の中、術者であるアルカに指示されながら真っすぐ進んでいく。
……そもそも彼らが留まっていたのは、先に挙げた理由以外にも原因があった。
その問題を打開する方法として、俺たちの嵐を使おうとしていたようだ。
実際、これまで巡ってきた島の中で、天候改変のアイテムを有ったからなー。
「残念なことに、魔導のアレじゃ理屈が違うから意味無いんだよな。というわけで、誰かこの後の展開を説明してくれ。任せっきりで全然把握していなかったし」
「では、俺が──」
「私がするわよ」
「ティンスが? 珍しいな……シャイン、お座り。それじゃあ、説明してくれ」
途中で唸り声を上げたシャインは、強制的に四肢を地面に這わせておいた。
俺はその上に座り、微振動する椅子の心地にため息を吐く。
ちなみに、誰も眷属たちは気にしない。
なんというか……最初は可哀想とか言われてもいたが、自分でご褒美とか言い出し、この光景を何度も見れば誰もが慣れてしまう。
あのオブリですら、複雑そうな顔を浮かべるだけで何もしない。
……無垢な子供にあんな表情をさせるなんて、俺も同罪だが本当に許しがたいな。
そんなシャインの代わりに、説明をしてくれるのは吸血鬼の祈念者ティンス。
オブリの目に手を当てながら、その内容を話し出す。
「ゴールとなる島は、守護獣に昔から守られている設定ね。これは最初の島で見つけた壁画に描かれていたヤツよ。守護獣が起きている間しか、島の間には入れない。だから呼ぶための条件を満たして中に行くのよ」
「ふむふむ、それで条件は?」
「天候ごとに違っていて、嵐の場合が一番簡単に集められるのよ。だから、さっきまでの人たちは私たちに便乗しようとしていた」
「……そういうことだったのかー」
イベントの評価は自分たちで弄った天候でもどうにかなるが、そちらには専用の魔道具が無いとダメなわけだ……ちなみに天候改変の魔道具に、嵐は対応していなかった。
だからこそ、必要とされていたわけだ……改めて知ると、申し訳なく思うな。
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