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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント後篇 その10
しおりを挟むアイテムの回収を終えて、俺は船から脱出した。
物語なら見つかるかもしれないが、どうやらシャインがやり過ぎたようで。
うん、気配がいっさい無くなっていた。
要するに船はがら空き、良くて捕縛されて向こうの船に居るのだろう。
そういうわけで、無人の船から大量のアイテムを持って移動する。
わざわざスキルで壁や天井を這わずとも、堂々と歩いて船外へ出た。
簡易の船橋を渡り、そのまま襲われていた方の船へ。
……手に持った大量のお宝を見て、ギョッと驚いた眼で見られているけど。
「ご主人様!」
「お疲れ、シャイン。ペルソナ、事情説明の方は終わったか?」
《はい。ただ……シャインさんのことに関しては、いろいろと認識が追い付いていないみたいです。なので、そんなシャインさんにご主人様と呼ばれているメルスさんも、すぐには受け入れられないみたいですね》
「まあ、それはいいよ。やりたいことは済んだし、船に戻ろう。いちおう聞くけど、航海図を貰えたりはしたか?」
シャインのことはいい、どうせそうなると思っていたので。
気になるのは[マップ]の共有をし、何かゴールに関するヒントが貰えたかどうかだ。
すべての場所を把握していない以上、他の奴らの情報はどれだけあっても困らない。
なので、恩を売って強要する……まさに偽善の所業をしたかったんだが。
「その、僕たちはまだ全然進めていなくて。だ、だから、そこまで期待されても困るというか……」
「ご主人様が欲しいと言っているのだ。お前たちは黙ってそれを──あひゃん!」
「……止めろ、バカ。悪いな、俺も大して信じられないとは思う。見ての通り、結構悪い奴だからな。ただ、別にお前らからアイテムが欲しいわけじゃない。ただ、これまでお前らがやってきた全部を教えて欲しいだけだ」
こちらのクラン、構成人数は十人程度。
ある意味俺たちと同じように、少数精鋭みたいな感じになっているが……実力が全然違うのは言うまでもない。
さて、そんな彼らの視線は訝しげなものである。
シャインがやらかしたのもそうだし、俺は財宝を担いで来た怪しい奴だしな。
邪縛の効果もあるだろうが、そもそも怪しいからな。
……今さらな説明だが、俺って基本的に服装は初期装備のまんまだし。
シャインは勇者っぽい格好を黒く染め上げたカッコイイものだし、ペルソナも黒騎士そのものな格好だ。
そんな中、二人がいちおう代表者として扱う俺……あまりに普通で弱そう。
おまけにやっていることもチンピラだし、好印象な部分がまったくないしな。
「……まあ、気持ちは分かるけど。これも勉強ってことでどうだ? 媚びを売る、とは少し違うか。礼を尽くすでも、感謝するでも、お代を払うでもなんでもいい。そっちで理屈付けて、何でもいいから情報を寄越せ」
『!』
《あの、その言い方はどうかと……》
《なんかもう面倒だし、悪役っぽくした方が楽かなって。フォロー頼む、俺はそっちの親分さんと話してくるから》
偽善はしたいが、その後に関してはさして興味が無いのだ。
言いたいことも言ったし、どんどん次のことをやっていこう。
縄で縛られ、身動きが取れないようにされている海賊風の祈念者たち。
中でもキャプテンハットを被る、いかにもな奴と顔を合わせる。
「──というわけだ、お前らの情報を無償で提供しないか?」
「何が無償だクソ野郎。人様の宝物を泥棒しやがって」
「まあまあ、命あっての物種って言うじゃないか。どうせ全滅していたら沈没していた物なんだし、生きて俺たちのためになれるのを感謝してくれてもいいんだぞ?」
「……図太いし無性に腹が立つな、おい。テメェみたいな奴に利用されるぐらいなら、死に戻りした方がマシだ」
思いっきり嫌われているのは、きっとまた邪縛が悪さをしたせいだな……やれやれ。
とはいえ、こちらにも考えがあるので問題は無いんだが。
「さて、ここに取り出すは小さな袋。しかしその中身は──莫大な金銭と交換することのできるお宝!」
『!』
「嗚呼! だがしかし、これは残念ながら一人分しかない! これは、君たちから情報を教えてもらった時、みんなで使うように用意していたのだが……どうしたものか」
袋の中から延べ棒やら硬貨を出せば、向けられた視線はギラついた物へ。
口をパクパクさせ、周りを見て……今にも情報を吐いてくれそうだ。
「そうだな……これから一人ずつ、海賊船に戻してやろう。俺が引っ張っていってな。もし、誰も情報を吐かなかったら、ご褒美に少しだけお金をやる。だが、もし誰かが教えてくれたらソイツに全額渡す」
『…………』
「まっ、財宝も貰っちゃうしな。これで補填でもしてくれよ。もちろん、それ以外の使い方でもいいけどさ──ほら、お前からだ」
「あ、ああ……」
一番挙動不審だった奴を引っ張り、海賊船へ運ぶ。
……だがそのとき、向こうからこっそりと声を掛けられた。
「な、なあ……さっきの話って本当か?」
「ん? ああ、ちなみに情報は有れば有るほど多めに渡すつもりだぞ」
「な、なら……移動した[マップ]以外にも情報を出せばもっと貰えるんだよな!?」
「もちろん。もしかして、そのつもりか?」
わざとらしく尋ねると、バレないように自然な形で首を縦に振る。
そんな交渉もあって、俺は情報を得ることに成功するのだった。
──まったく、本当にお金の掛かる方法だよなこれ。
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