上 下
1,918 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント後篇 その09

しおりを挟む


 現在俺は魔導“移りゆく天なる意気”の効果で、天気を自在に操っている。
 そのお陰でイベントのポイント稼ぎを、より効率的に行えていた。

 だがこの魔導、あくまでも俺を中心として発動しているもの。
 要するに今の俺は、文字通り台風の目として機能することができる。

 先ほどまでは船ごと巻き込んで使っていたが、今はその台風の目を制御していた。
 俺、そしてシャインとペルソナのみに天候の影響が無いようにしている。

 なので移動すればするほど、目的地もまた設定中の天候──大嵐に巻き込まれていた。
 最初は悪いと思ったけど……近づいて状況が分かったら、それで良かったとも思える。


「ご主人様、船が見えてきました!」

「そうか! なら、いかにも悪役っぽい方をぶっ殺せ!」

「畏まりましたぁあああ!」


 最後の方はドップラー効果のせいか、やけに伸びて聞こえたシャインの返事。
 俺と違って空を飛んでの移動、全力で叫んだのだろうか?

 ペルソナはシャインと向かわず、俺の下にやって来る。
 彼女もまた翼を広げ、海の上を走る俺を複雑そうな目で見ながら。


《あの、それって大丈夫なんでしょうか?》

「色んな意味でヤバいんだが、今さらどうしようもなくてな……なんとかならないか?」

《あっ、それなら私が……あの、し、失礼します!》


 なんだか少々時間を掛けて、ペルソナは俺の脇を掴んで持ち上げてくれた。
 彼女は戦闘職なので、俺を余裕で持ち上げる程度には力持ちなんだよな。

 軽々持ち上げられて運ばれる俺は、空からの様子を改めて見ることができた。
 そこでは小さな船を襲う海賊たち……を襲うシャインの姿が見える。


「俺たちは必要なかったな。ああ、悪いが交渉はペルソナに頼みたい?」

《……私でいいんですか?》

「俺は邪縛で第一印象最悪、シャインはあんなはっちゃけっぷり。となると、やはりペルソナが一番だろう」

《あの、見た目で一番問題になるのは私なんじゃないかな?》


 まあ、ゴツゴツした真っ黒い鎧を装備しているわけだしな。
 声の方も、弄れば彼女らしい少女のモノから禍々しい悪役っぽくできるらしい。


「それでも、普通にな……まあ、先にペルソナが話をしてから俺を紹介してくれれば、普通に怪しい人ぐらいで納得してくれると思うからさ。そこまで重々しく考えなくていい、とりあえず話してみてくれ」

《分かりました》


 そうしてペルソナと打ち合わせをしていると、足元に船がある位置まで来ていた。
 シャインが未だに戦闘中で、海賊船に乗り込んで徹底的に殺戮を行っている。

 ……襲われていた船の祈念者たちは、それはもうドン引いている。
 まあ、それはともかくペルソナに任せて俺も動くとしよう。


「それじゃあ、俺も行ってくるから」

《あっ、はい。お気をつけて!》

「あいあい、まあ隠密だから気にするな」
《──『障透徹過バリアスルー』》


 ペルソナに空から下ろしてもらい、海賊船の裏に張り付いて起動した魔術。
 名前の通り壁抜けに使えるそれを用い、俺は船の中に潜入する。


「しかしまあ、まだ海賊が残っていたのか。別に拠点が無くても、海賊プレイができないわけじゃないけどさ」


 大海原へ祈念者が旅立つ前、大規模なレイドが繰り広げらている間にPKたちの根城を破壊しておいたのだが……どうやらまだ諦めていなかったようで。

 実際、その被害が今回の祈念者たちに向いているからなぁ。
 偽善でやったことの影響かもしれないし、少々のアフターケアぐらいやらないとな。


「必要なことは魔術でやるにしても、それ以外は普通にやりますか」
《軽業、歩行、脱力、拡視、拡聴、体勢、体幹、並列思考、高速思考、平衡、呼吸、内臓強化、感覚強化、行動予測、冥想、逃走、隠蔽、盗聴、読唇、身力探知、逃足、隠身、気配遮断、隠匿、潜伏、警戒、射線把握》


 いろいろなスキルを一気に起動して、それらを同時に操って海賊船を歩き回る。
 シャインの対応にほとんどのヤツは出ているだろうが、遭遇しないわけではない。

 歩く音を消し、相手よりも先に気づけるようにしておいた。
 一部無駄に思えるスキルも、まあそれなりに意味があると思うぞ。


「……って、反応ありか。仕方ない、適当にあしらっておくか」


 拡張した感覚で相手の様子を窺いながら、避けるように移動を行う。
 人間、意外と普段見ない場所は緊急時でも見ないもので……天井って便利だな。

 武技の大半はスキル的に使えないが、再現したものは自在に使い放題だ。
 暗殺術の一つにある壁歩きの武技を、精気力の操作で再現して天井に張り付いている。

 そのまま上下逆さまで船内を歩き回り、どこか目的地にできそうな場所を探す。
 やがてそれらしき場所を発見し、再び壁抜けの魔術でその部屋へ潜り込む。


「あー、そういえばイベント中に得たアイテムはこうして置いておかないとダメだっていうルールがあったな。[アイテムボックス]とか魔法で仕舞えたら、奪うのも面倒か」


 すでに一仕事終えた後なのだろう。
 部屋の中に大量のアイテムが乱雑に置かれており、所々で己の価値を示すように輝きを放っている。

 まあ、海賊がアイテムを奪えるようにする仕様なのだろう。
 しっかりと奪うべき物を残させる……考えたものだよ。


「なーんか、いいアイテムないかな……まあ光っているヤツを適当に奪えばいいか」


 価値のあるアイテムなんだろう、と持てるだけ持っていく。
 先ほど語ったルールは、要するに楽して運ばせないということ。

 なので奪う物も選別しないとならない。
 それっぽい光るアイテム、逆にある意味で価値がありそうなボロそうなアイテムを適当に腕の中に掻き集め……部屋を後にした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

俺と異世界とチャットアプリ

山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。 右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。 頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。 レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。 絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

処理中です...