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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント後篇 その09
しおりを挟む現在俺は魔導“移りゆく天なる意気”の効果で、天気を自在に操っている。
そのお陰でイベントのポイント稼ぎを、より効率的に行えていた。
だがこの魔導、あくまでも俺を中心として発動しているもの。
要するに今の俺は、文字通り台風の目として機能することができる。
先ほどまでは船ごと巻き込んで使っていたが、今はその台風の目を制御していた。
俺、そしてシャインとペルソナのみに天候の影響が無いようにしている。
なので移動すればするほど、目的地もまた設定中の天候──大嵐に巻き込まれていた。
最初は悪いと思ったけど……近づいて状況が分かったら、それで良かったとも思える。
「ご主人様、船が見えてきました!」
「そうか! なら、いかにも悪役っぽい方をぶっ殺せ!」
「畏まりましたぁあああ!」
最後の方はドップラー効果のせいか、やけに伸びて聞こえたシャインの返事。
俺と違って空を飛んでの移動、全力で叫んだのだろうか?
ペルソナはシャインと向かわず、俺の下にやって来る。
彼女もまた翼を広げ、海の上を走る俺を複雑そうな目で見ながら。
《あの、それって大丈夫なんでしょうか?》
「色んな意味でヤバいんだが、今さらどうしようもなくてな……なんとかならないか?」
《あっ、それなら私が……あの、し、失礼します!》
なんだか少々時間を掛けて、ペルソナは俺の脇を掴んで持ち上げてくれた。
彼女は戦闘職なので、俺を余裕で持ち上げる程度には力持ちなんだよな。
軽々持ち上げられて運ばれる俺は、空からの様子を改めて見ることができた。
そこでは小さな船を襲う海賊たち……を襲うシャインの姿が見える。
「俺たちは必要なかったな。ああ、悪いが交渉はペルソナに頼みたい?」
《……私でいいんですか?》
「俺は邪縛で第一印象最悪、シャインはあんなはっちゃけっぷり。となると、やはりペルソナが一番だろう」
《あの、見た目で一番問題になるのは私なんじゃないかな?》
まあ、ゴツゴツした真っ黒い鎧を装備しているわけだしな。
声の方も、弄れば彼女らしい少女のモノから禍々しい悪役っぽくできるらしい。
「それでも、普通にな……まあ、先にペルソナが話をしてから俺を紹介してくれれば、普通に怪しい人ぐらいで納得してくれると思うからさ。そこまで重々しく考えなくていい、とりあえず話してみてくれ」
《分かりました》
そうしてペルソナと打ち合わせをしていると、足元に船がある位置まで来ていた。
シャインが未だに戦闘中で、海賊船に乗り込んで徹底的に殺戮を行っている。
……襲われていた船の祈念者たちは、それはもうドン引いている。
まあ、それはともかくペルソナに任せて俺も動くとしよう。
「それじゃあ、俺も行ってくるから」
《あっ、はい。お気をつけて!》
「あいあい、まあ隠密だから気にするな」
《──『障透徹過』》
ペルソナに空から下ろしてもらい、海賊船の裏に張り付いて起動した魔術。
名前の通り壁抜けに使えるそれを用い、俺は船の中に潜入する。
「しかしまあ、まだ海賊が残っていたのか。別に拠点が無くても、海賊プレイができないわけじゃないけどさ」
大海原へ祈念者が旅立つ前、大規模なレイドが繰り広げらている間にPKたちの根城を破壊しておいたのだが……どうやらまだ諦めていなかったようで。
実際、その被害が今回の祈念者たちに向いているからなぁ。
偽善でやったことの影響かもしれないし、少々のアフターケアぐらいやらないとな。
「必要なことは魔術でやるにしても、それ以外は普通にやりますか」
《軽業、歩行、脱力、拡視、拡聴、体勢、体幹、並列思考、高速思考、平衡、呼吸、内臓強化、感覚強化、行動予測、冥想、逃走、隠蔽、盗聴、読唇、身力探知、逃足、隠身、気配遮断、隠匿、潜伏、警戒、射線把握》
いろいろなスキルを一気に起動して、それらを同時に操って海賊船を歩き回る。
シャインの対応にほとんどのヤツは出ているだろうが、遭遇しないわけではない。
歩く音を消し、相手よりも先に気づけるようにしておいた。
一部無駄に思えるスキルも、まあそれなりに意味があると思うぞ。
「……って、反応ありか。仕方ない、適当にあしらっておくか」
拡張した感覚で相手の様子を窺いながら、避けるように移動を行う。
人間、意外と普段見ない場所は緊急時でも見ないもので……天井って便利だな。
武技の大半はスキル的に使えないが、再現したものは自在に使い放題だ。
暗殺術の一つにある壁歩きの武技を、精気力の操作で再現して天井に張り付いている。
そのまま上下逆さまで船内を歩き回り、どこか目的地にできそうな場所を探す。
やがてそれらしき場所を発見し、再び壁抜けの魔術でその部屋へ潜り込む。
「あー、そういえばイベント中に得たアイテムはこうして置いておかないとダメだっていうルールがあったな。[アイテムボックス]とか魔法で仕舞えたら、奪うのも面倒か」
すでに一仕事終えた後なのだろう。
部屋の中に大量のアイテムが乱雑に置かれており、所々で己の価値を示すように輝きを放っている。
まあ、海賊がアイテムを奪えるようにする仕様なのだろう。
しっかりと奪うべき物を残させる……考えたものだよ。
「なーんか、いいアイテムないかな……まあ光っているヤツを適当に奪えばいいか」
価値のあるアイテムなんだろう、と持てるだけ持っていく。
先ほど語ったルールは、要するに楽して運ばせないということ。
なので奪う物も選別しないとならない。
それっぽい光るアイテム、逆にある意味で価値がありそうなボロそうなアイテムを適当に腕の中に掻き集め……部屋を後にした。
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