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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント後篇 その07
しおりを挟む船が沈んだ以上、お嬢さんたちが追いかけてくることは難しい。
改めて、俺たちを妨害しない純粋な勝負で頑張っていただきたいところだ。
「──ただいまっと。アルカ、船の防御ご苦労様」
「…………」
「ん? どうしたんだよ、そんな鳩が豆大砲喰らったみたいな顔をして」
「大砲って何よ。アンタ、あれを相手によく圧倒できたわよね」
途中から余裕も出てきただろうし、魔法で覗いていたのだろう。
まあ、さすがに船の内部へ入って以降の情報は分からなかっただろうが。
間違いなくあのリーダーなら、外部からの覗き見にも対策していたと思うし。
最上級の結界を張れる彼女なので、やっていることはどうあれ意味はあっただろう。
「あの武器、強い相手なら無双できるって仕様だからな。そういう妖刀なんだ……たぶんお前にも効くと思うぞ」
「……ふーん。そうなんだ」
「喜ばしいかとも言いづらいけどな。要するにそれ、妖刀が糧にしたいって喚いている証だからな」
「関係ないわよ。いずれ倒すアンタが、私を強いと認めている……これほどまでに滾ることはないわよ」
なかなか女の子の口から滾るという言葉を聞いたことがないな。
アルカにとって、いちおう誉め言葉ということになるのだろうか。
ちなみに妖刀は強者の経験値を奪い取れたことで、大満足のまま眠りに着いた。
次の進化にはまだ経験値も、強者の残滓も足りないのだが……まあ、それはご愛敬。
暫定的な『選ばれし者』全員を見たが、まだ全員から奪っていない。
次なる進化を遂げるのは、他にもいろいろしてからだろうな。
「それで、あれからどうなった?」
「船は傷一つ付けられていないわ。さっき連絡があって、島の方でゴールに近づくヒントも見つかったそうよ」
「そりゃあ結構。ヒントってことは、直接座標が分かったわけじゃないと」
「最後に戦闘があるみたいね。島の守護獣みたいな壁画があったらしいわ。普通なら、それに対する策が必要ってことだけど……アンタは要らないって言いそうね」
うん、俺はどちらでも構わない。
競ってはいるが、カナの方は負けても俺に損はさしてないからな。
懸念だったお嬢さんたちを打ち負かした以上、今回の航海は彼女たちに委ねた。
まあ、カナが直接こちらに介入してくる可能性は極めて低いからだけど。
「よーし、それじゃあ迎えに行こうか。アルカは魔法の維持だけでいい、とりあえず向こうまでは俺が運ぶ」
「それから?」
「アイツらを回収した後は、そのヒントがある場所にでも行こう。俺の方は、これの維持に意識を割かなくてもよくなったし」
「……くっ、次は負けないわよ」
俺もアルカも思考能力が高い。
彼女の場合はそのほとんどが自前だが、俺に喰らい付くレベルだ。
とはいえ、スキルとして持っているもので比べれば圧倒的に格の差がある。
それらを駆使して無意識での処理を済ませた俺よりは、まだ苦労している彼女だった。
「魔導解放──“我が言葉は真理なり”」
効果は言わずとも分かるだろう。
魔力を溜めて、改めて言葉を紡ぐ。
「『船は我が眷属と共に』」
それだけで、船が動き出す。
眷属曰く、因果がどうとかという問題をどうにか誤魔化しながら、俺の言ったことを本当にしてくれる。
「これ、どういう仕組みなの?」
「俺の持つアイテムに、願ったことを魔力で叶えてくれる代物があってな。他のアイデアと混ぜて創ってみた魔導だ。で、言った結果がこれだ。ある程度都合よく、物事が上手くいくようになる」
「……チート過ぎない?」
「明確なイメージ、何がどう作用してどうなるかとかを考えないといけないからな。今回は実際にアイツらが居る場所が分かって、船という乗り物があるから簡単だけど……転移が使えない今、どう移動するかは悩むだろ」
イメージした通りに因果を誤魔化すので、そこが成立しないと発動は失敗していた。
こういうとき、むしろ俺の万能性は仇となる……だからこその縛りなんだよな。
船を使役し、海流に逆らっても自由に動けるというイメージを行った。
その通りに現実は進み、船はやがて眷属たちが降り立った地に到着する。
船が二隻、浅瀬に錨を下ろしていた。
俺たちはそれを確認して、改めて作業を始めていく。
「アルカは連絡を。俺は船を収容しておくから──『集え船、あるべき形へと』」
「さっきから言い方が尊厳よね」
「まあ、イメージを固めやすいからな、命令している感がある方が」
軽い口調だと、そこまで強い効果が出ないのも確認済みだ。
本人に関するイメージも、やはり大切なのだろう。
船の錨が勝手に巻き上げられ、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。
格納していた空間の扉を開くと、誰も居ない船は勝手に進んで中に入っていった。
あとは眷属たちを回収して、次の目的地を聞いて出発すればいい。
……まだ何かある気がするので、対策を忘れてはいけない。
「次は魔法とかじゃなくて、ちゃんと船の設備を使って対抗しようか」
「まあ、その方がいいんじゃないの?」
「じゃあ、それも伝えておいてくれ」
軽口を叩き合いながら、帰還を待つ。
すると島の奥から、複数人の人影が見えてくる……彼女たちを船に乗せ、俺たちは島を後にするのだった。
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