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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント後篇 その06

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 相手がその名を告げたなら、応じるように『侵』化していい……そんな使うかどうかも分からないルールを、前に用意していた。

 今回、それにリーダーが触れる。
 告げた想いの名は【傲慢】、傲り高ぶった激情のままに、その罪を突きつけてきた。


「傲り? そうか……傲りか。フハハハッ、ならば応えてやらんとな──【傲慢】に!」


 銀色に染まった瞳は、その罪を背負うと決めた証。
 気分は高揚し、何でもできるという万能感が俺を包む。


「──“身体強化ボディブースト”」


 肉体のスペックを高める無属性魔法。
 特別優れた魔法というわけでもなく、魔力の持ち主であれば誰もが使うことができるごくありふれた魔法。

 お嬢さんを排除したが、歌のバフはしばらく持続するだろう。
 そのうえ、守るべき存在を害されたことで異なる強化──狂化も起動していた。

 今の彼らを相手に、“身体強化”単品では通用しないだろう。
 だが──


「──“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”……」


 何十、何百もの“身体強化”を同時に重ねればどうだろうか?
 能力値は飛躍的に向上し、すべてを薙ぎ払う圧倒的暴力を手に入れる。


「なっ、そんなデタラメが──」

「出来ないとでも? ハッ、テメェら程度の雑魚ならともかく、オレ様は特別。誰にも成し得ない? それがオレと何の関係があるってんだよ! 最高じゃねぇか、まさに唯一無二ってな!」


 大量に乗せた“身体強化”の力は、俺に超音速機動での戦闘を可能にさせてくれた。
 その速度のまま妖刀を振るい、次から次へと親衛隊のメンバーを斬っていく。


「雑魚が、オレ様に勝てると思ったこと自体が大間違いなんだよ」


 ありとあらゆるバフ効果が重複し、無限に重ね掛けすることができる能力。
 本来は配下の支援を、すべて受け取るためのものっぽいんだけども……。

 能力の名は“王を讃えよプライズ・オブ・キング”。
 ちなみにこれ、重ね掛け以外にも尋常ではないチート効果が備わっているのだが……それはまた、別の機会に。

 知っておいて欲しいことはただ一つ、この能力には制限時間があるということ。
 それを過ぎると重複できないバフはすべて解除され、一つ分の強化に戻ってしまう。

 なのでそれが終わる前に、なんとしても勝利しなければならない。
 そのためには、【傲慢】の持つ他の能力も使う必要がある。

 ……だから挑発をして、余裕を見せつけているんだ。
 そう、仕方が無いんだよ、別に言いたいから言っているわけじゃないんだからね!


「いいことを教えてやるよ。オレ様のレベルは500をとうに超えている。テメェらとの格の差、その身で思い知りな!」


 嘘は言っていないし、実際『超越者』として膨大なレベルは持っているので嘘は無い。
 それに、特に意味の無い話だ……圧倒的格の差、これさえ分かってもらえれば。

 能力名“天人地尊プライドヒーロー”。
 こちらの効果はとてもシンプル、相手が格下ならありとあらゆる行動に成功補正が入るという……雑魚狩り特化な能力だ。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ! 抵抗なんて無駄ムダむぅだぁああああああ!」

「チッ、いったい何なんだ!」

「決まってんだろ、ただの辻斬りだよ!」


 結界を張って攻防一体の戦いを見せてくれる彼らだが、そのすべてを妖刀が斬り裂く。
 途中、結界を爆発させたり、彼ら自身が捨て身の攻撃をしていたが……それも無駄。

 数はどんどん減っていき、やがてその数は残り一人……だが、ただ黙って殺られるようなヤツではない。


「いい加減にしろ──“真聖開柩”!」

「……アァ゛?」

「これだけは使いたくなかった……だが、致し方ない。嗚呼、私だけの聖女様! その御力をお貸しください!」


 何か特別なことをしたのだろう。
 結界の色が再び変化し、白く……純白に染まり上がる。

 すると、再び奏でられる歌。
 少し違和感はあったが、たしかに声質などは彼女のものだった。

 加えて、わらわらと至る所から出てくる白いナニカたち。
 人型だけでなく、魔物や竜なども白いシルエット状の姿で現れていた。


「はっ、パチモンかよ。要はあれだ、テメェの虚しい独りよがりを慰めるための人形ってことか!」

「貴様! 聖女様を……聖女様を愚弄するとは何事だ!」


 怒りだすリーダーを無視して考察する。
 これは『輪魂穢廻』ことリンカの、擬似転生みたいなものなのだろう。

 鑑定眼で視た限り、【聖櫃王】は封印する結界を生み出すことができる職業。
 ならばそれを解き放つ、そのための力もあるのではないか?

 その答えが目の前の現状。
 本人が居ないのに声もしていることから、過去に封印した存在を擬似的に召喚することができる……みたいな感じなのだろう。


「してねぇよ。ただまあ、可愛そうだとは思うがな。歌いたくもねぇつまんねぇ歌を、真面目に聴く気もねぇ俺たちのためだけに歌わされるなんてな」

「っ……!」

「なあ、教えてくれよ姉ちゃん。テメェが最後に心から歌を楽しんだのは……いつだ?」


 答えを聞く必要は無い。
 返事を聞く相手はもう決まっている。


「──“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”、“身体強化”──“次元斬・侵”」


 さらに強化を施し、高まった身体能力で強引に放つ夢現流武具術の武技。
 そこに[窮霰飛鮫]の力も合わさり、鮫の牙がリーダーの──彼女の体を抉り取った。


「次はもう少し、マシな顔で来るんだな」


 支離滅裂な言葉を残し、彼女の死に戻りを見届ける。
 結界は失われ、残されたのは沈みゆく船だけ……こうして戦いは幕を閉じるのだった。


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