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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント後篇 その02

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 嵐の中で輝いて、その夢を……とかなんとか言うのは、いつの時代だろうか?
 鉛色の空、荒れ狂う波、降り注ぐ雷、闇を照らす光……いろいろと輝いているよな。


「野郎ども、いざ行かん!」

「男の人、師匠しかいないよ?」

「シャインもいちおうな。ユウ、今のところどうだ?」

「視界は最悪、何も見えません! そもそもこの船、どこに向かっているんですか!」


 周りからも、同じことを聞きたそうな視線が向けられている。
 まあ、把握しているのは俺と事前に説明したアルカだけなので、聞いて当然だろう。


「定番の羅針盤を用意してあるから、方位はバッチリ。海図はそもそも不明、本来なら島とかでヒントを見つけてゴールを目指すってのが仕掛けらしいからな。ユウ船員、俺たちは何をすればいいと思う?」

「えっ? えっと……」

「選択肢をやろう──1:俺頼り、2:俺抜きで頑張る、3:とりあえずそのまま。さてさて、どれを選ぶ?」

「師匠に任せれば大丈夫そうだけど、やっぱり……ちょっと待っててよ」


 クランメンバー全員集まって、すぐにどうするかを話し始める。
 ただし、アルカだけは意見を出さないで沈黙を貫いていた。

 まあ、今は頑張って魔法を制御しているので他に意識を向けられないのもあるのだが。
 それだけ重い仕事を、アルカには任せておいてある。


「勝つためには嵐であることが必要不可欠。そのうえで速度を出して、目的地に辿り着かないといけないからな」


 俺は使った魔導によって、周囲数キロほどの天気を自在に弄れるようになっていた。
 船の周辺だけだと、天候の変化が認められないのでより遠くまで魔導を使っている。

 維持には[永劫回路]を使っているし、意識も[世界書館]の処理能力に任せているので、アルカと違って俺は意識せずとも制御ができていた……こればかりはしょうがないよな。

 彼女の方が担っている責任が多いのは、それを彼女自身が望んだから。
 代わりに計画を話させられたのだが、それだけの価値があったと言えよう。


「──それでまあ、答えは出たか?」


 なんだか前にも似たようなやり取りはしたが、ちゃんと答えは出たようで。
 ……それならそれで、彼女たちの方針に合わせて動くとしましょうか。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 相手は二人の『選ばれし者』、ということでこちらも全力で対応している。
 つまり、今の俺は大した制限も無いので無双可能な状態にあった。


「けどまあ、それも宝の持ち腐れ。せいぜいが動力源代わり……か」

「も、申し訳ございませんご主人様! お望みとあらば、すぐにでも主張を──!」

「……いや、別にいい。それならそれで、別のことに専念できるからな。嵐の魔導は俺の周囲でしか発動できない、だから俺たちと同じだけのボーナスポイントが欲しいなら、必ずついてくる必要がある」


 要するに、必ず探すことのできる範囲に何者かが隠れているということ。
 すべてを言わずともそれを察したシャインは、パッと目を輝かせて頭を垂れる。


「さすがはご主人様です!」

「止めろ止めろ、周りがそれくらいの事とか思ってそうだから。実際、暇人が時間を使えば浮かぶようなことだ。それよりも、あれからどうするか決めたのか?」

『うぐ……っ』

「俺を省いてイベントを楽しむんだ。それ相応の結果を期待させてもらおうじゃないか」


 まあ、賛成多数でごり押しした選択だったけども。
 いずれにせよ、俺は船と気候の維持だけに専念すればよくなっていた。

 天然の防壁が外部からの干渉を抑え込んでいるが、それもいつまで持つか不明だ。
 相手がその気になって近づこうとすれば、いつだってぶつけてくることができるしな。


「いちおう言っておくと、船自体はちゃんと一定の方角に進んでいるぞ。だから最悪何処に行くかさえ分かっていれば、このままでも確実に着くことができる……ん? 何か意見でもあるのかな、イア君」

「変なノリは止めなさいよ。というか、その肝心な何処に行くかってのが分からなくて、悩んでいるんじゃない。せめて島がどこにあるか分かればいいのに……こんな天候じゃ分かるわけないもの」

「だからこその高得点だしな。まあ、晴天よりは見つけづらいだろうけど、島自体はそのうち見つかると思うぞ。島のどこかに、ゴールのヒントが隠されていることもあるから、本当ならそれを探して進んでいくんだ」


 三日掛かると言った航海は、その謎解きも含めた平均攻略タイムだ。
 イチかバチか、そんな方法だと攻略できないようなので、みんな頑張っているのだ。


「とりあえずイアは従魔と感覚を共有して周辺の捜索、他のみんなは肉眼で探してみればいいんじゃないか? 魔力で強化すれば、何か分かるかもしれないし」

「うーん……難しいよー」

「なら、オブリには特別にいろいろとくっきり見える双眼鏡を貸してあげよう。頑張って島を見つけるんだぞ?」

「はーい!」


 おや、周囲から冷たい視線が……口パクで一部の者たちが『ロリコン』と言いやがる。
 失礼な、オブリはもう立派なレディだって自称しゅちょうしているんだぞ!

 彼女たちの視線は無視、俺も双眼鏡を使って……みようと思ったら奪われる。
 なので予備を取りだして……また盗られ、用意しては盗られて。

 最終的に、全員が双眼鏡を持っていた。
 ……こういうことでもしないと、なんとなく使いづらいよな。

 さて、頑張って調べてくれよ。
 俺はその間に、神眼で周囲がどうなっているか調べておくからさ。


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