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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント中篇 その13

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 侵入して、その後の展開など知れたこと。
 眷属たちはそれぞれの力で、これまた内部破壊を行っていく。

 迷宮化しているので、破壊されても修復されてしまう。
 だが迷宮であると同時に船でもある、そのため破壊すれば影響が多少は出るのだ。


「──とまあ、今の間にアイツらが頑張ってくれている。けどそれは、あくまで正々堂々とした戦い方だ……もう少し、徹底して潰してもらいたい」

『…………』


 あえて眷属たちに隠していた乗客、その正体はもちろん裏方担当の者たち。
 暗殺者二人、そして厨二の剣士が指示を聞き入れている。


「まず厨二」

「…………」

「まず厨二」

「…………答えたくないって分からないのかよ!?」


 なら、そんな恰好をするなよと言いたくなる──前に俺が渡した妖精の羽(黒)をばっちり装備しているヤツが、厨二じゃないならいったい何なんだろうか?


「人があえて、名前を出さないでやってるんだからそれでいいだろうに……じゃあいい、リヴェルは逃亡阻止をしてくれ。船の破壊、そもそもの出口の破壊とか……できるだけいろんな方法で潰せ」

「了解。けど、俺はこっちの二人と違って暗躍は難しいぞ」

「分かってる。だからその対策も用意してある──“召喚:隠蓑”」

「隠れ蓑って……それを着ればいいのか?」


 妖怪を生み出すリンカの力を借りて、事前に生成してもらっていた蓑型の妖怪。
 さほど隠蔽スキルを磨いていないリヴェルには、それを使って隠れてもらうことに。

 他にいいアイデアが浮かばなかったからだろう、リヴェルも渋々それを受け取った。
 まあ、蓑を纏っている二刀流の剣士ってあまりイメージが浮かばないもんな。


「リヴェルはそれでいいとして……二人には情報収集を依頼したい」

《あんさつではなく?》

「暗殺しなくても、アイツらが大半は死に戻りさせるからな。余ったのはさっき言った通りリヴェルが処理をする……二人はせいぜい見つかったときの対処だけでいいさ」

【……畏まりました……】


 二人には、俺が必要とする物以外なら懐に納めていい契約もしてある。
 複製魔法があるので、一度調べさせてもらいさえすれば無限に増やせるからな。

 もともと金銭や物を要求していた契約なので、それらは彼らにとっても好ましい。
 特にそこに関しては異論も出ず、この作戦は決行となった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 俺は船で待機して、顔合わせをしていない両チームの情報を橋渡ししている。

 眷属チームが見つけた機密情報から、裏方チームが向かうべき場所を教えたり。
 裏方チームが回収したアイテムから、眷属チームにPKたちが逃亡する手段を告げる。

 そうしてじわじわとPKを追い詰め、この迷宮化した艦を制圧していく。
 すでに甲板は手中に納め、無力化のために俺が工作をしていた。


「まあ、迷宮なんだから核の方を支配できればよかったんだけど……PKたちも完全には操れていないみたいだし、それは最後まで後回しにしておいてやろう」


 PKたちがここを利用できているのは、運営が提供したアイテムがあるから。
 用意してもらったそれは、すでに掌握されているこの迷宮を簡易的に操れるようだ。

 上手く侵入する前、襲われる段階で沈められなかったのもこれが理由である。
 予め配置されていた魔物や罠以上に、追加で用意できなかったからだろう。


「さて、俺の出番は無い方がいいと思っていたんだがな──“召喚サモン猪突鮪ロケットツナ”」


 海上に魔法陣が展開されると、勢いよく遥か上にある甲板まで飛んでくる──マグロ。
 エラとヒレで上手く角度を調整すると、俺の下に来ていたPKたちに突っ込んでいく。


「な、なんだよいったい!?」

「“召喚:闇泥狼王ダークマドウルフキング”──潰せ」

『心得た』

「泥……いや、なんだよこれ……来るな!」


 呼び出した闇泥狼王が撒き散らした闇の泥の効果で、PKたちは精神が汚染される。
 たちまち恐慌状態になると、仲間同士で殺し合いを始めた。

 闇の泥はPKたちの汚染を媒介に増え続けて、それらが狼の形を成してさらに遠くへ獲物を求めて駆けていく……まあ、アイツらの下にも行くだろうが、対処はできるだろう。


「これで問題なしっと。さて、この後はいったい何をしようか……ん?」


 スキルをいっさい使っていない俺の、しごかれた危険感知に反応があった。
 遠い水平線の彼方から、どこからともなくこちらにやってくる強者の反応。

 PKたちではないだろう。
 彼らがここで死ねばしばらくはペナルティで拘束されるし、そもそも勝てないような危険人物がいるならユウを連れてきている。

 そうじゃないからこそ、眷属たちを連れて裏方に暗殺者たちを回せていた。
 だが今来ている反応は、間違いなく強い者の……そしてなぜか感じたことのある反応。


「まさか……“召喚:屍魔法師アンデッドウィザード”」


 死した魔法使いがアンデッド化した魔物を呼び出し、魔法を使わせる。
 空に打ち上げたのは一発の花火、それは敵対する意思が無いことの表明と──目印。

 少しだけズレていた方向を修正し、それはこの場に現れる。
 三つの首を持った、巨大な蛇竜──つまりはそういうことだった。


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