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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント中篇 その12

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 眷属たちが目的地を唖然と見つめる。
 近づいてより分かった、その──船とは絶対に思えない拠点。

 緑が生い茂り、山がそびえて川が流れる。
 自然という自然がありふれたそこは、まさしく島である──それは間違いであり、間違いではない。


「──『海賊王の根艦』。過去、【海賊王】に就いていた自由民が造り上げた巨大戦艦が迷宮化した代物だ。カモフラージュ用の島も込みで迷宮なうえに、船としてもしっかり機能する自給自足が可能なアジトだ」


 これが運営の用意した設定なのか、それとも本当に過去実在した物なのかは不明だ。
 ただまあ、なんとなく後者だろうなとは思えるが……ただの勘でしかないけど。

 運営がやるならもっとこう、派手というかこだわりがあるデザインだろうし。
 自然に任せた感じもあるから、そう思っただけだがな。


「迷宮だから魔物や罠を使って、自動的に迎撃というか砲撃もしてくる。それを掻い潜って進む以上、ある程度小さめの船の方が都合が良かったんだよな……」

「それで、あれが船だとしていったいどうやれば侵入できるのかしら?」

「さっきも言ったが、アレはカモフラージュだからな。いろんな場所に船の通る道があるから、そこを目指せばいい。もちろん、外部から船が来れば怪しまれるだろうけど」

「当然よね。この船、隠れられないの? メルスなら仕込んでそうだけど……」


 まあ、たしかにできる。
 結界を展開できるのだから、周囲から認識できないようにすることだって可能だ。


「あー。悪いが、そういう系はいっさい用意していない。さすがにそこまでやると、俺のポリシー的に不平等だしな。それに、そんな攻める側が徹底して隠れたうえでジェノサイドとか……盛り上がるか?」

「普通、こういう時にそんなこと言わないと思うけど……まあ、たしかにそうね」

《そういうもの……なのでしょうか?》

「イアさんがそう言うなら、そうなんじゃない? たぶん……心配だけど」


 イアは察してくれる子だと信じていた。
 そう、物語とかで隠れて侵入とかをするのはたしかにある……あるけども!

 こういう船を使った戦闘の時は、やはり砲撃戦やら回避イベントが必要だろう!
 どうせ結界で致命的な損害は免れるわけだし、隠れるのはアレだと思ったのだ。


「後付けの理由を足すなら、あの船を動かすためだな。あれがPKたちの補給地なんだから、[シーノウン]戦に干渉しづらい距離まで動かした方が牽制になる。不可視の状態だと、それもしてもらえないだろう?」

「メルス、そういうことは先に言っておいた方がいいと思うわよ」

「納得してくれないだろ? それに、俺としてはどっちが本音でもいいし」


 ちなみにまだ隠している本音は──こういうことは主人公しか許されない、である。
 彼らのような選ばれし者だからこそ、そういった方法も正当化されるわけだし。

 たとえ唇が青紫になるような卑怯なことをしたとしても、主人公がやればすべて、なんだかんだ正当化されたあげく、「さすご主」と言われるような展開になるはずだ。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「というわけで、皆さん頑張ってください」

「なんで、あんたは何もしないのよ!」

「いやー、船の操縦で手いっぱいでさー」

「人形がやってるじゃない!」


 激しく揺れるクルーザー型の船。
 それは水面が波打っているからであり、海中から大量の水系統魔法を向けられているからである。

 すでに、彼らの射程距離に入っている俺たちの船。
 それからすぐ、大量の砲弾が飛ばされる上に海中に迷宮産の魔物を仕込まれた。

 現在はそれに対処するため、人形たちを総動員している。
 眷属たちは外からの砲撃や魔法を迎撃してもらい、可能な限り攻撃を減らしていた。

 とはいえ、海中は無防備だからな……結界は破られていないから無傷だけど。
 隠蔽機能は出し渋ったが、結界での防御自体は否定していない。

 なので揺れは有ってもダメージは無い、究極的に言えば揺れるだけで目的地には辿り着くのだが……一人だけダウンしたヤツがいたので、みんなで護るために頑張っていた。


「おーい、ペルソナ……大丈夫か?」

「だ、いじょ……うぷっ」

「しょうがいないか……少しだけ浮かせてやるから、それなら揺れないぞ──“浮遊フロート”」


 生活魔法“浮遊”。
 本来であれば、物を運ぶために軽くするためのこの魔法だが、俺の魔力と眷属たちの改良があれば人を浮かすのも容易くなる。

 乗り物酔いだか船酔いだか分からないが、揺れなくなれば少しは楽になるはずだ。
 途中までは大丈夫だったのだが、揺れが一定レベルを超えた瞬間にダメになった。

 そういう人もいるんだろうな。
 ちなみに俺は何もしていなければ大丈夫だが、読書などをして意識が細かい物に行っているとダメになるタイプです。


「メルス、もう崖が近いわよ!」

「あいよー。予め貰っておいた情報に、入り口のヤツもちゃんとあるからなー」

「って、ぶつかる! ……あれ?」

「定番のホログラム仕様だな。ペルソナもそろそろ頑張ってくれよ──“解酔回復ドランクヒール”」


 俺が使ったのは酩酊用の状態異常回復魔法だが、船酔いにも効くのかと試してみた。
 うーんうーんと、顔を真っ青にした彼女に手を当てて魔力を流しこむ。

 ──この後、ペルソナはすっきりした顔で俺たちに気づいたPKを処分しましたとさ。


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