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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント中篇 その09

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 動かない状態であれば、『土堅』と他の精霊術を一つ組み合わせることができる。
 他の精霊術の組み合わせはできないので、基本的に一つを特化してやるしかない。

 風の力を借り、その身の動きを著しく速めることができる『風捷』。
 吹き荒れる風に速度制限が無いように、体が動きに馴染めば馴染むほど速くなる。

 そうしている内に、俺とシャインの闘いを観る客たちが増えていく。
 楽しむ者、ハラハラする者、考察する者、そして……活かそうとする者。

 眷属たちの反応は十人十色、抱く感想もまたそれぞれ違うようで──


「……意外と戦えるのね、あの人。縛り中とはいえ、メルスとあれだけやり合えるなんて凄いじゃない」

「まあ、ああ見えてクランの代表だし、しっかりとしてるのよ。あいつが居る場所以外では、それなりに立ち振る舞ってるみたいよ」

「イアお姉ちゃん、知ってるんだ」

「そうじゃないわよ、オブリちゃん。ただ、たまに話したりするのよね、あいつのクランメンバーと」


 イアとシャインは、同時期にAFOを始めた同期である。
 なのである程度やることのタイミングが同じなので、共に行動させることもあった。

 それ以外にも、何かしらの繋がりがあったみたいだな。
 なんて感想を並列した思考で抱きながら、シャインの相手を続ける。


《しかし、メルスさんは武技や魔法、それに戦闘系のスキルを使っていませんね。それでもあそこまで動けるものなのでしょうか?》

「あっ、うん、それはね──」

「……別にスキルが無くても、大抵のことはやることができるわ。桁違いに難易度は高いけど、それこそ魔法や武技をいっさいの補正無しでやることも。でも、たしかにアレはそのどちらでもないわね」

「師匠はスキル無しでもスキルでできることができるようにって、いろいろとやっているからね。それを僕たちが真似したら、他の人たちも真似して大流行した時期もあったよ」


 そんなこともあったなぁ。
 なんだかそのブームの終わりは、ドMかマニアしかやらない玄人仕様だって纏められ方になっていて不服だったんだよ。

 PvPをやる奴には、その技術を体得しようとする者も多い。
 だが、根気よくやらないと普通は身に付かないので諦めるケースが多かったそうだ。

 ……俺はチートスキルや高レベルのスキルの補正もあって、お陰で体得できた。
 それでも凡人なので、スキルの補正無しを一定以上ものにするには時間が掛かったが。


「ふぅ……」
《『止息シソク』、『断気ダンキ』、『颯走サッソウ』》

「!」

「このままいくぞ」
《『推跳歩スイチョウホ』、『纏絲勁《テンシケイ》』、『鉄砂掌テッサショウ』》


 速度で得た力を地面に叩き付け、それを推進力に勢いよく加速。
 円運動で溜めていたエネルギーを取りだして、掌からシャインに解き放つ。

 すでに“闇迅鎧”を纏っていたが、送り出した力は練りに練った破壊のエネルギー。
 衝突した際の反発すらも取り込み、強引にシャインを突き飛ばす。

 一瞬で吹っ飛び、船の残骸に体から突っ込むシャイン。
 ようやく終わったと一息吐くと……察知していた通り、全員が集まっていた。


「うん、全員来ているみたいだな」

「分かっててやったんじゃないの?」

「ティンス、意外とシャインって手加減できる相手じゃないんだぞ? ああ見えて、元は『選ばれし者』だったんだし」

「……そう言われても、今の姿を見てそう思える人は少ないと思うわよ」


 ごもっともな意見ではあるが、事実なので仕方がない。
 だが実際、全祈念者の中でもトップクラスの実力の持ち主なんだよな。

 それぐらい【堕勇者】としてのシャインは強く、厄介な存在なんである。
 創造した職業なので、過去から対策も掴めないのも面倒臭い理由の一つだ。

 ……意外と過去に記録に残るようなことをした職業の持ち主って、後世に語り継がれているからな。

 祈念者の中に、そういうのを暴くのが好きな奴がいるらしい。
 俺は知らないが、それを使って就職条件が発見されたこともあるようだし。


 閑話休題かんけいないか


 シャインもしばらくすれば、勝手に回復するだろう。
 鎧にはリジェネ能力もあるし、そもそも今の俺は縛りでそこまで能力値も高くはない。

 速度でごり押ししただけで、威力向上系の武技などは使っていないし。
 うん……起き上がったようだし、本題に移らないと。


「アルカ、治してくれるか?」

「……まあいいわ。『快復の真理』」

「俺もか? まあ、普通に嬉しいけど」

「別に、ついでよついで。この程度、造作も無いんだからね」


 通常の回復魔法よりも、はるかに効能が高いアルカオリジナルの魔法。
 肉体の限界を少々超えて受けていた自壊ダメージも、その効果で治っていく。

 もしや、と思い細胞活性スキルを使ってみると……回復する速度が向上する。
 なるほど、何がオリジナルかと思ったが、そういう科学的な部分を取り入れたのか。


「なんだか、ノロジーが関わっていそうな魔法だよな」

「…………それで、これからどうするのよ」

「まあ、そうだな。コホンッ、これから始まる大規模レイド、その方針を発表する」


 というわけで、彼女たちを連れて一度船の置かれた造船所へ。
 破壊行為が止まってから改造し、海に通じる道を用意したのでいつでも出向可能だ。


「結論から言うと、二班に分ける。こっちのヤツで参加するグループは、[シーノウン]討伐に参加。そして、もう一隻の船を用意して乗る奴らは……」


 それを伝え、どちらの作戦に参加するかを選ばせた。
 俺は後者に参加する者たちと共に、当日は動くつもりだ。

 ──もう間もなく、戦いが始まる。


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