1,898 / 2,519
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント中篇 その09
しおりを挟む動かない状態であれば、『土堅』と他の精霊術を一つ組み合わせることができる。
他の精霊術の組み合わせはできないので、基本的に一つを特化してやるしかない。
風の力を借り、その身の動きを著しく速めることができる『風捷』。
吹き荒れる風に速度制限が無いように、体が動きに馴染めば馴染むほど速くなる。
そうしている内に、俺とシャインの闘いを観る客たちが増えていく。
楽しむ者、ハラハラする者、考察する者、そして……活かそうとする者。
眷属たちの反応は十人十色、抱く感想もまたそれぞれ違うようで──
「……意外と戦えるのね、あの人。縛り中とはいえ、メルスとあれだけやり合えるなんて凄いじゃない」
「まあ、ああ見えてクランの代表だし、しっかりとしてるのよ。あいつが居る場所以外では、それなりに立ち振る舞ってるみたいよ」
「イアお姉ちゃん、知ってるんだ」
「そうじゃないわよ、オブリちゃん。ただ、たまに話したりするのよね、あいつのクランメンバーと」
イアとシャインは、同時期にAFOを始めた同期である。
なのである程度やることのタイミングが同じなので、共に行動させることもあった。
それ以外にも、何かしらの繋がりがあったみたいだな。
なんて感想を並列した思考で抱きながら、シャインの相手を続ける。
《しかし、メルスさんは武技や魔法、それに戦闘系のスキルを使っていませんね。それでもあそこまで動けるものなのでしょうか?》
「あっ、うん、それはね──」
「……別にスキルが無くても、大抵のことはやることができるわ。桁違いに難易度は高いけど、それこそ魔法や武技をいっさいの補正無しでやることも。でも、たしかにアレはそのどちらでもないわね」
「師匠はスキル無しでもスキルでできることができるようにって、いろいろとやっているからね。それを僕たちが真似したら、他の人たちも真似して大流行した時期もあったよ」
そんなこともあったなぁ。
なんだかそのブームの終わりは、ドMかマニアしかやらない玄人仕様だって纏められ方になっていて不服だったんだよ。
PvPをやる奴には、その技術を体得しようとする者も多い。
だが、根気よくやらないと普通は身に付かないので諦めるケースが多かったそうだ。
……俺はチートスキルや高レベルのスキルの補正もあって、お陰で体得できた。
それでも凡人なので、スキルの補正無しを一定以上ものにするには時間が掛かったが。
「ふぅ……」
《『止息』、『断気』、『颯走』》
「!」
「このままいくぞ」
《『推跳歩』、『纏絲勁《テンシケイ》』、『鉄砂掌』》
速度で得た力を地面に叩き付け、それを推進力に勢いよく加速。
円運動で溜めていたエネルギーを取りだして、掌からシャインに解き放つ。
すでに“闇迅鎧”を纏っていたが、送り出した力は練りに練った破壊のエネルギー。
衝突した際の反発すらも取り込み、強引にシャインを突き飛ばす。
一瞬で吹っ飛び、船の残骸に体から突っ込むシャイン。
ようやく終わったと一息吐くと……察知していた通り、全員が集まっていた。
「うん、全員来ているみたいだな」
「分かっててやったんじゃないの?」
「ティンス、意外とシャインって手加減できる相手じゃないんだぞ? ああ見えて、元は『選ばれし者』だったんだし」
「……そう言われても、今の姿を見てそう思える人は少ないと思うわよ」
ごもっともな意見ではあるが、事実なので仕方がない。
だが実際、全祈念者の中でもトップクラスの実力の持ち主なんだよな。
それぐらい【堕勇者】としてのシャインは強く、厄介な存在なんである。
創造した職業なので、過去から対策も掴めないのも面倒臭い理由の一つだ。
……意外と過去に記録に残るようなことをした職業の持ち主って、後世に語り継がれているからな。
祈念者の中に、そういうのを暴くのが好きな奴がいるらしい。
俺は知らないが、それを使って就職条件が発見されたこともあるようだし。
閑話休題
シャインもしばらくすれば、勝手に回復するだろう。
鎧にはリジェネ能力もあるし、そもそも今の俺は縛りでそこまで能力値も高くはない。
速度でごり押ししただけで、威力向上系の武技などは使っていないし。
うん……起き上がったようだし、本題に移らないと。
「アルカ、治してくれるか?」
「……まあいいわ。『快復の真理』」
「俺もか? まあ、普通に嬉しいけど」
「別に、ついでよついで。この程度、造作も無いんだからね」
通常の回復魔法よりも、はるかに効能が高いアルカオリジナルの魔法。
肉体の限界を少々超えて受けていた自壊ダメージも、その効果で治っていく。
もしや、と思い細胞活性スキルを使ってみると……回復する速度が向上する。
なるほど、何がオリジナルかと思ったが、そういう科学的な部分を取り入れたのか。
「なんだか、ノロジーが関わっていそうな魔法だよな」
「…………それで、これからどうするのよ」
「まあ、そうだな。コホンッ、これから始まる大規模レイド、その方針を発表する」
というわけで、彼女たちを連れて一度船の置かれた造船所へ。
破壊行為が止まってから改造し、海に通じる道を用意したのでいつでも出向可能だ。
「結論から言うと、二班に分ける。こっちのヤツで参加するグループは、[シーノウン]討伐に参加。そして、もう一隻の船を用意して乗る奴らは……」
それを伝え、どちらの作戦に参加するかを選ばせた。
俺は後者に参加する者たちと共に、当日は動くつもりだ。
──もう間もなく、戦いが始まる。
0
お気に入りに追加
516
あなたにおすすめの小説
異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!
リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。
彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。
だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。
神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。
アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO!
これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。
異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。
そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。
最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。
さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。
魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。
神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。
その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。
拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください
パーティ追放が進化の条件?! チートジョブ『道化師』からの成り上がり。
荒井竜馬
ファンタジー
『第16回ファンタジー小説大賞』奨励賞受賞作品
あらすじ
勢いが凄いと話題のS級パーティ『黒龍の牙』。そのパーティに所属していた『道化師見習い』のアイクは突然パーティを追放されてしまう。
しかし、『道化師見習い』の進化条件がパーティから独立をすることだったアイクは、『道化師見習い』から『道化師』に進化する。
道化師としてのジョブを手に入れたアイクは、高いステータスと新たなスキルも手に入れた。
そして、見習いから独立したアイクの元には助手という女の子が現れたり、使い魔と契約をしたりして多くのクエストをこなしていくことに。
追放されて良かった。思わずそう思ってしまうような世界がアイクを待っていた。
成り上がりとざまぁ、後は異世界で少しゆっくりと。そんなファンタジー小説。
ヒロインは6話から登場します。
World of Fantasia
神代 コウ
ファンタジー
ゲームでファンタジーをするのではなく、人がファンタジーできる世界、それがWorld of Fantasia(ワールド オブ ファンタジア)通称WoF。
世界のアクティブユーザー数が3000万人を超える人気VR MMO RPG。
圧倒的な自由度と多彩なクラス、そして成長し続けるNPC達のAI技術。
そこにはまるでファンタジーの世界で、新たな人生を送っているかのような感覚にすらなる魅力がある。
現実の世界で迷い・躓き・無駄な時間を過ごしてきた慎(しん)はゲーム中、あるバグに遭遇し気絶してしまう。彼はゲームの世界と現実の世界を行き来できるようになっていた。
2つの世界を行き来できる人物を狙う者。現実の世界に現れるゲームのモンスター。
世界的人気作WoFに起きている問題を探る、ユーザー達のファンタジア、ここに開演。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる