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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント中篇 その08
しおりを挟むそれからナックル、そしてアヤメさんと相談をしてその日は解散。
翌日にはさっそく海戦が始まるので、その準備をする必要がある。
「──というわけで、全員集合!」
俺が号令をかけると、まあまず従順なヤツ代表のシャインがすぐに現れた。
他は全然なので、シャインに何でもいいから連絡してくれと伝え、任せてみる。
他人には見えない画面を操作して始めたので、[メニュー]を使っているようだ。
喋らないので、[掲示板]か[メール]だろうな……なんて予想しながら少し待つ。
「全然集まらないな……たしか、今日は別に学校があるわけじゃないだろう?」
「アイツら……すぐに呼んできます!」
「いや、別にいいさ。連絡はしたんだろ?」
「は、はい、[メール]を使って」
ちゃんと[メール]にも複数人に同じ内容で送る機能はあるので、それを使っていっせいに送信したのだろう。
こちらに[ログイン]していれば、通知が入るはずなので分かると思うのだが……全員に非通知にされているとも考えづらい。
「ふむ……妨害があるわけでもないだろう。そこまで厄介ごとに絡む奴なんて……居ないわけでもないけど、さすがに全員じゃないだろうし」
「いかがなさいますか?」
「眷属印を使えば、場所の特定もすぐにできるぞ。けどまあ、待つのもいいからな……そうだな、少し勝負でもするか?」
率先して俺に挑んてくるのはアルカくらいだし、たまには他の祈念者眷属と戦ってみるのも悪くないだろう。
特にシャインは俺と戦うようなことをしないので、戦闘は観るだけが多いのだ。
……せっかくの機会だし、時間を潰すついでに戦ってみよう。
「俺は武技も魔法も使わない、ただ身力の運用はする。お前は何をしてもいい、そんな感じでやってみよう……どうだ?」
「ですが、ご主人様に攻撃するなど……」
「問題ないさ。俺が評価したくなるレベルの結果が出せたら、ご褒美を出そう。だから本気で掛かってこい」
「! 分かりました、なら──全力で行かせてもらいます!」
というわけで、模擬戦を始める。
時間は全員が集まるまで、それまでは延々と戦い続ける予定だ。
出会った頃はただの剣だった武器も、今では立派に聖剣。
防具などもばっちりだし、スキルや職業の力だけに頼らない戦い方を覚えている。
特に変わっているのは、【堕勇者】の持つデメリットに耐えているということ。
あの頃は暴走しないと使えなかった技も、今じゃ自由に使いたい放題だ。
「それじゃあ、始めますか」
対する俺は無手、特段凝った装備などはしないまま戦う予定。
傍から見れば舐めプだが、そうではないことはシャインも分かっている。
浅く呼吸をして、足に意識を注ぐ。
どっしりと、地面に根深く留まるイメージで──精霊術を行う。
防御型の『土堅』、まずは一つに専念して攻撃を防いでみる。
……さて、全員が集まるまでにどれだけできるのやら。
◆ □ ◆ □ ◆
シャインは名前とは裏腹に、闇の力を操り翻弄してくる。
デバフをもたらす“闇迅剣”、攻撃を吸収する“闇迅盾”、影を渡る“闇迅脚”。
他にもデバフを溜め込んで性能を強化する“闇迅鎧”など、本来は【闇勇者】のみが使う固有能力を、よりデメリットを高めた形で高性能版として使うことができる。
「──疾ッ!」
本気で来いと言ったからか、いきなり影から死角へ飛んで来た。
そのまま振るわれる鋭い斬撃、俺はただその軌道に腕を乗せる。
「──ッ!」
「今の俺は、結構堅いぞ」
肉体の硬度が高まっているので、並大抵の攻撃ではダメージは与えられない。
もちろん、しっかりとした状態で使えていればの話だが。
一撃一撃、受けるたびに俺の集中力は低下していく。
それでも一定以下にはならず、攻撃そのものはどうにかできる。
問題は防ぐことに意識を注ぐ必要があるため、反撃ができないということ。
シャインの攻撃に慣れ、無意識で防御ができるまではこのままお預けとなる。
「ならば──“闇迅剣・影舞”」
「へぇ……こりゃあいい」
そんな俺の考えを読んだのか、シャインは自身の剣を足元に突き刺す。
すると周囲の影が蠢き、剣を引き抜くと同時にそれらが剣の形となって浮かび上がる。
手数で圧し切り、俺の集中力を奪って攻撃が通るようにするつもりだろう。
なるほどたしかに、このままでは間違いなくその通りになる。
「なら、こっちも少し変えるぞ」
「来る……速い!」
「ははっ、ギアを上げていくぞ!」
地道に精霊術は磨いているので、それなりに使えるようにはなっていた。
今回使うのは、風の力で己をより速めることができる『風捷』。
上がるのは攻撃力ではなく敏捷力。
だが堅さが力となるように、苛烈なまでに高められた速さもまた力を生み出す。
身力で全身を強化して保護し、その力を使い加速。
速さを緩めないまま、ノンブレーキでシャインを至る所から攻撃していく。
風の力は俺の追い風となり、自重を軽くして手に宿る。
ぶつかるごとにその小さな風が吹き荒れ、確実に攻撃を届かせていく。
そうして戦っていると、風の力が周囲の気配を読み取ってくれる。
どこでも吹く風なので、そういう探知としても使うことができた。
──うん、ようやく到着した者が現れ始めたようだ。
つまりはそろそろ、お開きになるかもしれないということだな。
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