1,897 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント中篇 その08
しおりを挟むそれからナックル、そしてアヤメさんと相談をしてその日は解散。
翌日にはさっそく海戦が始まるので、その準備をする必要がある。
「──というわけで、全員集合!」
俺が号令をかけると、まあまず従順なヤツ代表のシャインがすぐに現れた。
他は全然なので、シャインに何でもいいから連絡してくれと伝え、任せてみる。
他人には見えない画面を操作して始めたので、[メニュー]を使っているようだ。
喋らないので、[掲示板]か[メール]だろうな……なんて予想しながら少し待つ。
「全然集まらないな……たしか、今日は別に学校があるわけじゃないだろう?」
「アイツら……すぐに呼んできます!」
「いや、別にいいさ。連絡はしたんだろ?」
「は、はい、[メール]を使って」
ちゃんと[メール]にも複数人に同じ内容で送る機能はあるので、それを使っていっせいに送信したのだろう。
こちらに[ログイン]していれば、通知が入るはずなので分かると思うのだが……全員に非通知にされているとも考えづらい。
「ふむ……妨害があるわけでもないだろう。そこまで厄介ごとに絡む奴なんて……居ないわけでもないけど、さすがに全員じゃないだろうし」
「いかがなさいますか?」
「眷属印を使えば、場所の特定もすぐにできるぞ。けどまあ、待つのもいいからな……そうだな、少し勝負でもするか?」
率先して俺に挑んてくるのはアルカくらいだし、たまには他の祈念者眷属と戦ってみるのも悪くないだろう。
特にシャインは俺と戦うようなことをしないので、戦闘は観るだけが多いのだ。
……せっかくの機会だし、時間を潰すついでに戦ってみよう。
「俺は武技も魔法も使わない、ただ身力の運用はする。お前は何をしてもいい、そんな感じでやってみよう……どうだ?」
「ですが、ご主人様に攻撃するなど……」
「問題ないさ。俺が評価したくなるレベルの結果が出せたら、ご褒美を出そう。だから本気で掛かってこい」
「! 分かりました、なら──全力で行かせてもらいます!」
というわけで、模擬戦を始める。
時間は全員が集まるまで、それまでは延々と戦い続ける予定だ。
出会った頃はただの剣だった武器も、今では立派に聖剣。
防具などもばっちりだし、スキルや職業の力だけに頼らない戦い方を覚えている。
特に変わっているのは、【堕勇者】の持つデメリットに耐えているということ。
あの頃は暴走しないと使えなかった技も、今じゃ自由に使いたい放題だ。
「それじゃあ、始めますか」
対する俺は無手、特段凝った装備などはしないまま戦う予定。
傍から見れば舐めプだが、そうではないことはシャインも分かっている。
浅く呼吸をして、足に意識を注ぐ。
どっしりと、地面に根深く留まるイメージで──精霊術を行う。
防御型の『土堅』、まずは一つに専念して攻撃を防いでみる。
……さて、全員が集まるまでにどれだけできるのやら。
◆ □ ◆ □ ◆
シャインは名前とは裏腹に、闇の力を操り翻弄してくる。
デバフをもたらす“闇迅剣”、攻撃を吸収する“闇迅盾”、影を渡る“闇迅脚”。
他にもデバフを溜め込んで性能を強化する“闇迅鎧”など、本来は【闇勇者】のみが使う固有能力を、よりデメリットを高めた形で高性能版として使うことができる。
「──疾ッ!」
本気で来いと言ったからか、いきなり影から死角へ飛んで来た。
そのまま振るわれる鋭い斬撃、俺はただその軌道に腕を乗せる。
「──ッ!」
「今の俺は、結構堅いぞ」
肉体の硬度が高まっているので、並大抵の攻撃ではダメージは与えられない。
もちろん、しっかりとした状態で使えていればの話だが。
一撃一撃、受けるたびに俺の集中力は低下していく。
それでも一定以下にはならず、攻撃そのものはどうにかできる。
問題は防ぐことに意識を注ぐ必要があるため、反撃ができないということ。
シャインの攻撃に慣れ、無意識で防御ができるまではこのままお預けとなる。
「ならば──“闇迅剣・影舞”」
「へぇ……こりゃあいい」
そんな俺の考えを読んだのか、シャインは自身の剣を足元に突き刺す。
すると周囲の影が蠢き、剣を引き抜くと同時にそれらが剣の形となって浮かび上がる。
手数で圧し切り、俺の集中力を奪って攻撃が通るようにするつもりだろう。
なるほどたしかに、このままでは間違いなくその通りになる。
「なら、こっちも少し変えるぞ」
「来る……速い!」
「ははっ、ギアを上げていくぞ!」
地道に精霊術は磨いているので、それなりに使えるようにはなっていた。
今回使うのは、風の力で己をより速めることができる『風捷』。
上がるのは攻撃力ではなく敏捷力。
だが堅さが力となるように、苛烈なまでに高められた速さもまた力を生み出す。
身力で全身を強化して保護し、その力を使い加速。
速さを緩めないまま、ノンブレーキでシャインを至る所から攻撃していく。
風の力は俺の追い風となり、自重を軽くして手に宿る。
ぶつかるごとにその小さな風が吹き荒れ、確実に攻撃を届かせていく。
そうして戦っていると、風の力が周囲の気配を読み取ってくれる。
どこでも吹く風なので、そういう探知としても使うことができた。
──うん、ようやく到着した者が現れ始めたようだ。
つまりはそろそろ、お開きになるかもしれないということだな。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる