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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント中篇 その07

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 俺が得たPK襲撃の情報、その提供者は当然『陽炎』である。
 ある意味信頼しているので、その情報を他者に伝えることに心配などしない。

 ロビーから移り、『ユニーク』用に貸し与えられた部屋……ではなく船。
 すでに完成していた船の一部屋、『クランマスター室(笑)』に俺たちは居る。


「結論から言うと、向こう側はユニーク種の妨害を受けずに船を動かす術を持っている。相手はそれをやった方が利益が出るんだ、倒す協力なんかしないで壊しに来るぞ」

「……そんなに急がないでくれ。とりあえず聞きたいのは、それを俺たちもやることができるのかだな。再現ができるものなら、倒さずとも航海ができるようになる」

「無理だろう。それは支給品、条件付きで紐づけされているだろうからな。仮定だけど、PKスレにアクセスできないとダメだ」

「なんでそんな情報を……いや、いいや。お前だから知ってた、それだけのことか」


 運営が[掲示板]を把握し、問題となる文面があれば削除している以上、特定の者しか入れないスレでも、そこに参加できる者が誰なのかも知っているはず。

 アイテムは俺も実際に見せてもらったのだが、親切に使用者登録がされていた。
 要は奪えないし、意図的に渡そうとしてもできない仕様になっているわけだ。

 ……まあ、俺が【強欲】を使えばできそうだったけど。
 もちろんそんな問題だらけの方法、必ず発覚するのでやりはしないが。


「俺が見たのはシールだった。この世界の仕様とか思いっきり無視だが、まあそれを目印にでもして攻撃しないようにしたんだろう」

「それを取り除いて無効化、良ければ攻撃対象にすることはできないか?」

「……一人ひとりやれば、まあできなくもないだろう。ただ、攻撃しないと言っても無敵なわけじゃない。動きに巻き込まれれば、普通にダメージは出ると思うぞ」

「なら、そっちはその方向で進めるか。アヤメ、連絡しておいてくれ」


 はい、と答えたアヤメさんは部屋を出る。
 外でクランメンバーたちとやり取りをするのだろう、なんて思いながら相対するナックルを改めて見てみた。


「……クランマスター(笑)」

「丁寧にカッコ閉じまで言ったな、おい。いつの間にか、あんな看板が有ったんだよ」

「別に退かしても何も言われないだろ」

「……取り外すまでもないだろ」


 こういうところも、ナックルがクランの奴らに好まれている理由なんだろうな。
 アルカもナックルは認めているし、俺よりもリーダーをしているのがこの男だ。


「……俺の方が(笑)なんだよな」

「おいおい、急にどうしたんだよ」

「何でもない。それより、ずっと前から俺が言っていた奴らは誰か参加するのか?」

「ああ、例の主人公たちだな。お前の予想通り、参加しているぞ。色付きのヤツは全員」


 色付き、それはフレイ君やらスオーロ君といった属性関係の『選ばれし者』だ。
 他にはまだそういった名称を付けていないが、カナのような存在も該当している。

 まあ、特に目を付けられて見守られている『選ばれし者』をナックルにも教えていた。
 大手クランの中でもトップ、そのためいろいろと情報が集まるからな。


「アイツら、クランに属していたのか」

「いや、フレイとヴィント、それにオーの三人だけだ。残りの三人の方は、他の船に間借りさせてもらうらしい」

「……まあ、残りはソロプレイの方が得意な奴らか。ああ、光だけ違うけど」

「…………エクラちゃん、不憫過ぎてな。自分が不幸を招くから、どうにか当日は小舟で参加するって言ってたよ」


 小舟って……いやまあ、機械を組み込んでモーターボートにすればどうにかなるか。
 二代目光の『選ばれし者』、彼女は夢現祭りで見た通りの不幸っぷりだ。

 たぶん、モーターボートも何もしなければ沈むんだろうな。


「あとで接触はできるか?」

「それは可能だが……なんでだ?」

「俺も事情は分かっているから、無償じゃないが小舟の提供をする。恥ずかしいとは思うが──こういうヤツだな」


 ナックルに小舟の鑑定結果を見せると、複雑そうな表情を見せる。
 性能がいいのに、アレだからな……そういう顔をしても仕方がない。


「お前、あの娘のこと知ってるんだよな? なのによくもまあ、そんな物に……」

「普通に性能がいい舟だと、目を付けられるだろう。だから少しでも笑える点を見せて、凄いけど自分なら使わない、みたいな考え方に誘導するしかない。お前だって、いきなり豪華客船が出てきたら欲しくなるだろ」

「どんなたとえだよ……まあでも、それが迷宮内包型の船ならぜひとも」

「壊れなくて転覆もしない。おまけに落ちたら回収の補助機能もある……そんな夢の舟だからな、間違いなく欲しがられるだろ」


 もともとは俺が眷属と水上デートをしたいと思い作ったのだが……なんというか、あまりに乗りづらいデザインになっていた。

 そのため新たにボートを作って、もう使わなくなった方はそのまま放置……日の目を見る機会が無くなったそれを、今回流出させるわけだ。


「というわけで、そのうち渡しておいてほしい。もちろん、彼女自身が拒むならそれはそれで別にいいさ」

「……たぶん、苦悩しながらでも受け取ることになるんだろうな」


 俺もなんとなくそう思う。
 彼女が一番使える小舟、それが手に入るのだから……彼女を取り巻く運命が、強要してくるだろうよ。


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