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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント中篇 その06
しおりを挟むティンスに言った通り、予め連絡していたので場所は分かっている。
今のクラン『ユニーク』は少数精鋭というか多数精鋭なため、イイ場所を取っていた。
海湾都市では、いくつかの造船会社が鎬を削っている。
中でもずば抜けて優れている会社と、どうやら『ユニーク』は契約しているらしい。
「……なんというか、ナックルも『主人公』みたいに優れているのか?」
「いえ、クランリーダーはどちらかと申しますと、巻き込まれている感じですね。今回の契約もメンバーが騒動に巻き込まれ、その対処に追われた結果、理解できないままに住んでいたといった感じでしょうか」
「アイツも……苦労しているんだな」
「そう仰られるのであれば、少しばかり負担軽減にご協力願えますか?」
そう告げる彼女──アヤメさんから目を背け、聞かなかったことにする。
なんだかんだ、あのクランが上手くいっているのはナックルのお陰だしなぁ。
俺も知らない間に『侵蝕』しているヤツを止めたり、アヤメさんのような優秀な人材を引き入れたり……そういうことはだいたい、ナックルがやっているみたいだし。
「さて、話はノロジーさん経由でお伺いしております。例のユニーク種、その大規模討伐に関する情報が知りたいとのことですが……現在、その会議が行われています」
「うん、パス。あとで結論だけ聞けばいいから、それまで待たせてもらえるか?」
「……よろしいのですか?」
「ああ。あと、アヤメさんは分かっていると思うけど、俺は呪いと立ち振る舞いのせいで印象がアレだしな……こんな時に、諍いの種が生まれない方がいいだろう?」
毎度おなじみの邪縛の効果で、俺への好感度なんて初期からマイナスみたいなもの。
まあ、その原因である<畏怖嫌厭>スキル自体は他のスキルに統合されたんだけどな。
統合されているけども、スキルの効果自体は未だに健在である。
……考え方を変えると、ある意味それも呪いであり祝福でもあるんだよな。
人が取る最大の否定は無視。
好きの反対は嫌いではなく、無視という言葉は知られているだろう。
だが、強制的に嫌悪に近い感情を抱かせるスキルがあれば、少なくとも無視はされないわけで……まあつまりアレだ、関わることはできるわけだ。
「……そう、でしたね。では、少々お待ちいただけますか?」
「ああ、少しと言わずご自由に。邪魔はしたくないから、ゆっくりと決めてくれ。俺はその間、ここでまったりとしているから」
「ここで……ですか?」
大手の造船所はロビーなども完備しているので、俺とアヤメさんが居る場所にソファーなども用意されている。
その一角を借りて、時間を潰すつもりだ。
幸いにもやることはたくさんあるし、ナックルが来るまで時間はたっぷりある……迷惑にならない程度に遊んでいよう。
◆ □ ◆ □ ◆
アヤメさんに連れられたナックルが見た光景は、間違いなく違和感だらけだろう。
なぜならソファーで寛ぐ俺を──生産者たちが敬っているのだから。
「……これ、どういう状況だ?」
「おおっ、ようやくナックルが来たか。というわけだ、我はこれにて失礼しよう」
「我? ……ああ、そういうことか」
「うむ。ナックルよ、早う案内せい」
認識偽装(+[撮影]NG)中なので、口調を変えれば俺という存在は隠せる。
それをすぐさま察してくれたナックルは、そのまま俺を連れて行ってくれた。
追い縋る生産者たちには、全部後のことはナックルにと伝えておく。
ギラついた視線と恨みがましい視線を向けられながら、この場を後にした。
「……お前というヤツは、どうしてああもやらかすのが上手いのやら」
「俺はただ、このボトルシップを暇潰しに製作していただけなんだけどな」
「…………なんだよ、この究極に男のロマンがてんこ盛りな鯨型の船は」
「何って、一万分の一スケールの超巨大迷宮兼『超越種』の『宙艦』さんだよ」
もちろん、これを正直に話したらどういう反応をするかは分かっている。
これまでの視線などすぐに忘れ、俺の肩を掴み横に並ばせた。
「おいおい、水臭いじゃないか兄弟! こんなとびきっりの情報どうして今まで隠してきたんだ!」
「……お前を見るアヤメさんの反応で分かるだろ? 予定を全無視して、俺から得た情報でそこを目指すだろ」
「そ、そんなこと…………ないぞ?」
「間がすべてを物語ったな」
とはいえ、いつもお世話になっているナックルには本当に感謝している。
情報に関しては、後で手紙に認めて送っておくつもりだ──アヤメさんに。
いちおう[メール]で超重要な情報のやり取りはしないと決めているので、彼女にも絶対に[メニュー]関連のシステムに情報を入れないようにしてもらわないと。
「──さて、これは後で渡すから真面目な話でもしよう。ナックル、ユニーク種の大規模討伐に関することだ」
「ん? ああ、大手クランはだいたい合同でやるぞ」
「名前とかはどうでもいいんだが、問題がいくつかあってな……たぶんだけど──戦闘中にPKの邪魔が入るぞ」
「マジかぁ……詳細を教えてくれ」
俺としても、頑張って彼らにはユニーク種の討伐に成功してもらいたい。
そのためには、こういう情報も事前に流した方が面白いだろう。
──とはいえ、いろいろと出し渋りはするけどな。
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