上 下
1,895 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント中篇 その06

しおりを挟む


 ティンスに言った通り、予め連絡していたので場所は分かっている。
 今のクラン『ユニーク』は少数精鋭というか多数精鋭なため、イイ場所を取っていた。

 海湾都市では、いくつかの造船会社が鎬を削っている。
 中でもずば抜けて優れている会社と、どうやら『ユニーク』は契約しているらしい。


「……なんというか、ナックルも『主人公』みたいに優れているのか?」

「いえ、クランリーダーはどちらかと申しますと、巻き込まれている感じですね。今回の契約もメンバーが騒動に巻き込まれ、その対処に追われた結果、理解できないままに住んでいたといった感じでしょうか」

「アイツも……苦労しているんだな」

「そう仰られるのであれば、少しばかり負担軽減にご協力願えますか?」


 そう告げる彼女──アヤメさんから目を背け、聞かなかったことにする。
 なんだかんだ、あのクランが上手くいっているのはナックルのお陰だしなぁ。

 俺も知らない間に『侵蝕』しているヤツを止めたり、アヤメさんのような優秀な人材を引き入れたり……そういうことはだいたい、ナックルがやっているみたいだし。


「さて、話はノロジーさん経由でお伺いしております。例のユニーク種、その大規模討伐に関する情報が知りたいとのことですが……現在、その会議が行われています」

「うん、パス。あとで結論だけ聞けばいいから、それまで待たせてもらえるか?」

「……よろしいのですか?」

「ああ。あと、アヤメさんは分かっていると思うけど、俺は呪いと立ち振る舞いのせいで印象がアレだしな……こんな時に、諍いの種が生まれない方がいいだろう?」


 毎度おなじみの邪縛の効果で、俺への好感度なんて初期からマイナスみたいなもの。
 まあ、その原因である<畏怖嫌厭>スキル自体は他のスキルに統合されたんだけどな。

 統合されているけども、スキルの効果自体は未だに健在である。
 ……考え方を変えると、ある意味それも呪いであり祝福でもあるんだよな。

 人が取る最大の否定は無視。
 好きの反対は嫌いではなく、無視という言葉は知られているだろう。

 だが、強制的に嫌悪に近い感情を抱かせるスキルがあれば、少なくとも無視はされないわけで……まあつまりアレだ、関わることはできるわけだ。


「……そう、でしたね。では、少々お待ちいただけますか?」

「ああ、少しと言わずご自由に。邪魔はしたくないから、ゆっくりと決めてくれ。俺はその間、ここでまったりとしているから」

「ここで……ですか?」


 大手の造船所はロビーなども完備しているので、俺とアヤメさんが居る場所にソファーなども用意されている。

 その一角を借りて、時間を潰すつもりだ。
 幸いにもやることはたくさんあるし、ナックルが来るまで時間はたっぷりある……迷惑にならない程度に遊んでいよう。


  ◆   □   ◆   □   ◆


 アヤメさんに連れられたナックルが見た光景は、間違いなく違和感だらけだろう。
 なぜならソファーで寛ぐ俺を──生産者たちが敬っているのだから。


「……これ、どういう状況だ?」

「おおっ、ようやくナックルが来たか。というわけだ、我はこれにて失礼しよう」

「我? ……ああ、そういうことか」

「うむ。ナックルよ、早う案内せい」


 認識偽装(+[撮影]NG)中なので、口調を変えれば俺という存在は隠せる。
 それをすぐさま察してくれたナックルは、そのまま俺を連れて行ってくれた。

 追い縋る生産者たちには、全部後のことはナックルにと伝えておく。
 ギラついた視線と恨みがましい視線を向けられながら、この場を後にした。


「……お前というヤツは、どうしてああもやらかすのが上手いのやら」

「俺はただ、このボトルシップを暇潰しに製作していただけなんだけどな」

「…………なんだよ、この究極に男のロマンがてんこ盛りな鯨型の船は」

「何って、一万分の一スケールの超巨大迷宮兼『超越種』の『宙艦』さんだよ」


 もちろん、これを正直に話したらどういう反応をするかは分かっている。
 これまでの視線などすぐに忘れ、俺の肩を掴み横に並ばせた。


「おいおい、水臭いじゃないか兄弟! こんなとびきっりの情報どうして今まで隠してきたんだ!」

「……お前を見るアヤメさんの反応で分かるだろ? 予定を全無視して、俺から得た情報でそこを目指すだろ」

「そ、そんなこと…………ないぞ?」

「間がすべてを物語ったな」


 とはいえ、いつもお世話になっているナックルには本当に感謝している。
 情報に関しては、後で手紙にしたためて送っておくつもりだ──アヤメさんに。

 いちおう[メール]で超重要な情報のやり取りはしないと決めているので、彼女にも絶対に[メニュー]関連のシステムに情報を入れないようにしてもらわないと。


「──さて、これは後で渡すから真面目な話でもしよう。ナックル、ユニーク種の大規模討伐に関することだ」

「ん? ああ、大手クランはだいたい合同でやるぞ」

「名前とかはどうでもいいんだが、問題がいくつかあってな……たぶんだけど──戦闘中にPKの邪魔が入るぞ」

「マジかぁ……詳細を教えてくれ」


 俺としても、頑張って彼らにはユニーク種の討伐に成功してもらいたい。
 そのためには、こういう情報も事前に流した方が面白いだろう。

 ──とはいえ、いろいろと出し渋りはするけどな。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?

破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。 そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。 無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた… 表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと イラストのurlになります 作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)

虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件

こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。 だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。 好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。 これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。 ※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ

VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?

ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚 そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

女神様から同情された結果こうなった

回復師
ファンタジー
 どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...