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偽善者と渡航イベント 三十月目

偽善者と渡航イベント中篇 その04

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 周囲はともかく、内部の迷宮はやはり運営が用意したもの。
 隠された資料を読み漁ってみたが、彼らが意図した情報しか集まらない。

 まあそれでも、少し強めな兵器の作り方やらこの場所に用意された設定などを知ることはできた……後者はさして必要ないが、別のイベントで参考にはできそうだった。


「ああいう布石、というかフラグ? を用意しとくのは実にいいな。夢現祭りは一度切りみたくやったから、続編のことは全然考えていなかったし」

「宜しいのではありませんか? よくある話です。人気があったので急遽続編を用意したため、一作目とそれ以降で若干の矛盾が生じてしまうのです」

「へぇー、そういうこともあるのか……ってよく知ってるな」

「メルス様の知識が役に立っております」


 なんでその知識を収めた本人が、それを忘れているのに知っているんだか。
 その仕組みは単純に、彼女が俺の記憶を閲覧できる立場にあるからだ。

 浅層意識を読まれているように、深層意識にある記憶も把握されている。
 こちらも俺の忘れた過去の黒き時代から、便利な知識を取り出すことに役立っていた。


「……まあ、それはいいか。アン、これでもうやることは済んだか?」

「そうですね。親切にこの迷宮の地図も用意してくださったようですし、核がある隔離研究区画へ向かいますか?」

「ああ、案内を頼む」


 同じ物を俺も見たが、しっかりと覚えているアンに任せる。
 普通の祈念者なら、マップを画像として保存してそれを見ればいいんだけどな。


「それでもわたしを頼り、役目を与えてくれています。本当にメルス様はお優しいです」

「……別に、わざわざ記憶からダウンロードするのが面倒なだけだ」

「はい、そういうことにしておきましょう」


 分かっています、と温かな笑みと冷めた目で向けてくるアン。
 何だろう、この胸のドキドキは……なんてことを覚えながら、通路を進んでいった。


  ◆   □   ◆   □   ◆


「──“再現武装・コード0016”」


 擬似的に創造を行い、瞬間的にありとあらゆる武器を生み出すことのできる機人のみが使うことのできる再現武装スキル。

 彼女はその身が有する高い演算能力を活用し、高度で複雑な武装を展開した。
 背中にブースターが付いた小さめなカバンみたいな物が張り付く……まさかこれは!


「メルス様、お約束通り飛行デバイスによる空中戦闘をお見せしましょう」

「あ、アン……!」

「本来であれば、ギミックを用いて空から落とすのが定石なのでしょう。しかし、メルス様がお望みとあらば……どのようなことであれ、果たしてみせるのがわたしの役目です」


 そう言ってアンはブースターに火を燈し、勢いよく空を翔ける。
 俺はそんな姿をただ、少々感動しながら見ているだけ。

 ──今、上空ではスーパーな機械の対戦が繰り広げられている。

 迷宮の最深部、隔離研究区画は至る所に機械の残骸が落ちている場所だった。
 俺たちが足を踏み入れると、その残骸が突然動き出して──巨大な機械を生み出す。

 そして現在、その機械がアンと戦っているのだ……周囲には大量の操作盤があるので、正しく使えば弱体化させることもできる。

 だからこそ、迷宮内にはいくつもの機械の情報が予め用意されていた。
 それらを正しく理解すれば、弱体化という考えに至ることができる。


「けどまあ、アンが頑張ってくれているんだからそのままでいいよな。あとこういうの、フル装備モードで倒せると特殊アイテムがドロップするとかそういうのもあるし……」


 巨大な機械は某戦士ぐらいに大きいので、アンはその指ほどのサイズしかない。
 それでも現在、大量の武装を展開して対等に……いや対等以上に戦っていた。


「いやでも、使っているのがビームなサーベルなのとライフルなのは気になるけど……」


 たしかに凄いよ、うんマジで。
 ただまあ、さすがにネタに走り過ぎているというか……改めてみると飛行デバイスとやらも、なんだかアレに見えるし。

 といった感じで思考がズレている間にも、アンの攻撃が少しずつ通じていく。
 ビームなサーベルは光が高熱を帯びたような物なので、触れたら溶解して切っている。

 ライフルの方も一方的に防御をさせずに貫いているし、魔法的な防御が通用しないほぼほぼ科学の産物なので、機械も全然抵抗できていない。


「ネタ武器なのに……あっ、勝った」


 最後に自爆機構でも作動させようとしたのか、少しだけその姿は赤くなっていた。
 だがアンが背中の飛行デバイスに更なる機構を取り付け、加速してそれを捻じ伏せる。


「……完全にトラソザムだろ」

「あえての変換、お気遣いありがとうございました。ですがメルス様……ご感想は?」

「…………控えめに言って、最高ですけど」


 なんというか、男のロマンをこれでもかと詰め込んだ戦いだった。
 これに目を奪われない男は、その知識を持たないヤツぐらいだろう。


「それでは、今回のデートもお仕舞ですね。残念ですが、また次がありますので」

「男のロマンを叶えてくれるだけのデートなら、俺も大歓迎だよ」

「ええ、ええ。またいずれ、メルス様がお望みとあらば……」


 守護者が居なくなったので、最奥に設置されたガラスケースに近づく。
 そして、その内部にある球体に触れ……迷宮の攻略を終わらせた。


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