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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント中篇 その02
しおりを挟むそれから数時間もすれば、俺の予想していた通りの展開になった。
今や謎の悪魔が暗躍し、PKたちに非道な行いをするだのしないだの……。
まあ、そんなうわさが流れる程度には、大悪魔はやらかしているようで。
自分で『ここ』の定義をズラし、海湾都市すべてを使って暴れ回っている。
とはいえ、その本質は契約内容の『守る』という行動を順守しているだけ。
ただ攻撃は最大の防御、という脳筋理論まで持ち出して守っているだけであって。
「被害者はPK、そして大悪魔を殺そうとしてきた奴だけなのは不幸中の幸いか? 俺的には、全然不幸とか思ってないけど」
大悪魔が俺を出し抜いて行う暗躍に、果たして意味は出るのやら。
同じく『陽炎』に頼んだ依頼も含めて、今後の展開が楽しみである。
「しかしまあ、大悪魔が動き出したことからも分かってはいたけど……ずいぶんとまあ、アクティブになったものだ」
「──拘束されていたんだから、少しぐらい軽い運動に付き合ってもいいじゃない」
「世間一般の軽い運動ってのは、弾幕ゲーみたいに死線を掻い潜る回避の連続だったっけか? 死ぬぞ、普通死ぬぞ」
「ええそうよ、だから死になさい」
純度百パーセントの殺意と共に、放たれる全方位からの魔法を避け続ける俺。
そんな苛烈なことを行う彼女──アルカに恨みがましい眼を向けるが……無視された。
人がせっかく休ませてやったというのに、結局こうなるとはな。
まあ、お陰で他の眷属たちも彼女が癒してさっさと繭衣から出てきているのだが。
だが俺のやったこと、そしてそれに抗うことができなかったことに何か想うことがあるようで……その鬱憤をぶつける相手として、俺はこうして追われているわけだ。
「はぁ……“多重召喚:放魔人形”」
「っ……!」
「そろそろ終わらせるぞ」
だがもう、普通に戦えるレベルまで落ち着いている。
落ち着いたうえで殺そうしているのだが、それに付き合う必要もないだろう。
そんな俺が用意したのは、魔法を使うことのできる人形たち。
普通ならアルカに通用するはずも無いが、数と支援で強引にそれを行わせる。
『──“消魔”』
『──“失魔”』
「チッ……それはあんまりじゃないの?」
「魔力の回収を防ぐ程度じゃ、お前は止まらないからな。しばらくの間、そうして魔力を使えないままでいてくれ」
アルカは純粋な魔法職。
祈念者は複数の職業に就けるが、強制された生産職の一枠分を除いて、すべてが魔法に関する職業になっていた。
なので魔法を使うのに必要な魔力さえ封じれば、最低限のスペックまで無力化できる。
発動させた二つの魔法は、魔法の発動と周囲の魔力を霧散させることができるもの。
……両方を封じておかないと、体内魔力を使うか純粋な魔力を使って攻撃するからな。
どれだけ強くなっても研鑽を止めない、努力もする天才は本当に厄介である。
「……はぁ、今回はもういいわ。ちょっと行くところがあるから止めてちょうだい」
「本当だろうな……なんて野暮なことは言わないでおくよ──終了、“送還”」
アルカの戦意も無くなったようなので、配置していた人形たちを元に戻しておく。
それなりに魔力を使ったが、アルカを止めるために使ったと思えば安い方だった。
彼女は自分が魔力を操れることを確認し、飛行系の魔法で空に浮く。
それから周囲に自分の魔力を張り巡らせ、再び地上に戻ってくる。
「で、これからどこに?」
「あら、束縛系?」
「……何のことか意味不明だけど、さっき自分で拘束されたって言ってなかったか?」
「そういえばそうね。つまりアンタは紛れもなく束縛系だったと」
……イアも[グレイプニル]で縛り、シャインも束縛してから苛め抜き、他にもいろいろとやってきたからなぁ。
「……なんか、思い出してみたら否定できない気がしてきた」
「最悪ね、アンタ」
「コホンッ、まあそれはいいとして」
「露骨に目を逸らすんじゃないわよ」
他にもMな奴らにお望みのモノをプレゼントしたりもしているし、本当にアウトかもしれないな……今回のことは別にしても、いろいろと見つめ直す機会かもしれない。
「別に言いたくないならそれでいいし、他の奴らに言うだけでもいい。ただ、結構揉め事が起きているらしいから、あんまり関わらない方がいいって伝えておく」
「……それは聞いたことを教えてくれているの? それとも、起きていることを教えてくれているの?」
「どちらであろうと、自由民に被害は無い問題とも付け加えておく。だからまあ、当初の予定通りにすればいいさ」
「ふーん……まあいいわ。素材集めよ、まだ船の強化に使えそうなモノを作るのに必要みたいだし。それより、アンタは逆にどうする予定なのよ?」
時間潰しにいくつか作っていたが、素材が無いので作っていない物も多い。
何より造船所の改築を行ってから新たに作れば、より付与効果付きの物が生みだせる。
やっておいて損は無いことだ。
だが……いったいどこで素材集めをするつもりなのか、分かっていても目を逸らしたくなる問題だった。
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