1,891 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント中篇 その02
しおりを挟むそれから数時間もすれば、俺の予想していた通りの展開になった。
今や謎の悪魔が暗躍し、PKたちに非道な行いをするだのしないだの……。
まあ、そんなうわさが流れる程度には、大悪魔はやらかしているようで。
自分で『ここ』の定義をズラし、海湾都市すべてを使って暴れ回っている。
とはいえ、その本質は契約内容の『守る』という行動を順守しているだけ。
ただ攻撃は最大の防御、という脳筋理論まで持ち出して守っているだけであって。
「被害者はPK、そして大悪魔を殺そうとしてきた奴だけなのは不幸中の幸いか? 俺的には、全然不幸とか思ってないけど」
大悪魔が俺を出し抜いて行う暗躍に、果たして意味は出るのやら。
同じく『陽炎』に頼んだ依頼も含めて、今後の展開が楽しみである。
「しかしまあ、大悪魔が動き出したことからも分かってはいたけど……ずいぶんとまあ、アクティブになったものだ」
「──拘束されていたんだから、少しぐらい軽い運動に付き合ってもいいじゃない」
「世間一般の軽い運動ってのは、弾幕ゲーみたいに死線を掻い潜る回避の連続だったっけか? 死ぬぞ、普通死ぬぞ」
「ええそうよ、だから死になさい」
純度百パーセントの殺意と共に、放たれる全方位からの魔法を避け続ける俺。
そんな苛烈なことを行う彼女──アルカに恨みがましい眼を向けるが……無視された。
人がせっかく休ませてやったというのに、結局こうなるとはな。
まあ、お陰で他の眷属たちも彼女が癒してさっさと繭衣から出てきているのだが。
だが俺のやったこと、そしてそれに抗うことができなかったことに何か想うことがあるようで……その鬱憤をぶつける相手として、俺はこうして追われているわけだ。
「はぁ……“多重召喚:放魔人形”」
「っ……!」
「そろそろ終わらせるぞ」
だがもう、普通に戦えるレベルまで落ち着いている。
落ち着いたうえで殺そうしているのだが、それに付き合う必要もないだろう。
そんな俺が用意したのは、魔法を使うことのできる人形たち。
普通ならアルカに通用するはずも無いが、数と支援で強引にそれを行わせる。
『──“消魔”』
『──“失魔”』
「チッ……それはあんまりじゃないの?」
「魔力の回収を防ぐ程度じゃ、お前は止まらないからな。しばらくの間、そうして魔力を使えないままでいてくれ」
アルカは純粋な魔法職。
祈念者は複数の職業に就けるが、強制された生産職の一枠分を除いて、すべてが魔法に関する職業になっていた。
なので魔法を使うのに必要な魔力さえ封じれば、最低限のスペックまで無力化できる。
発動させた二つの魔法は、魔法の発動と周囲の魔力を霧散させることができるもの。
……両方を封じておかないと、体内魔力を使うか純粋な魔力を使って攻撃するからな。
どれだけ強くなっても研鑽を止めない、努力もする天才は本当に厄介である。
「……はぁ、今回はもういいわ。ちょっと行くところがあるから止めてちょうだい」
「本当だろうな……なんて野暮なことは言わないでおくよ──終了、“送還”」
アルカの戦意も無くなったようなので、配置していた人形たちを元に戻しておく。
それなりに魔力を使ったが、アルカを止めるために使ったと思えば安い方だった。
彼女は自分が魔力を操れることを確認し、飛行系の魔法で空に浮く。
それから周囲に自分の魔力を張り巡らせ、再び地上に戻ってくる。
「で、これからどこに?」
「あら、束縛系?」
「……何のことか意味不明だけど、さっき自分で拘束されたって言ってなかったか?」
「そういえばそうね。つまりアンタは紛れもなく束縛系だったと」
……イアも[グレイプニル]で縛り、シャインも束縛してから苛め抜き、他にもいろいろとやってきたからなぁ。
「……なんか、思い出してみたら否定できない気がしてきた」
「最悪ね、アンタ」
「コホンッ、まあそれはいいとして」
「露骨に目を逸らすんじゃないわよ」
他にもMな奴らにお望みのモノをプレゼントしたりもしているし、本当にアウトかもしれないな……今回のことは別にしても、いろいろと見つめ直す機会かもしれない。
「別に言いたくないならそれでいいし、他の奴らに言うだけでもいい。ただ、結構揉め事が起きているらしいから、あんまり関わらない方がいいって伝えておく」
「……それは聞いたことを教えてくれているの? それとも、起きていることを教えてくれているの?」
「どちらであろうと、自由民に被害は無い問題とも付け加えておく。だからまあ、当初の予定通りにすればいいさ」
「ふーん……まあいいわ。素材集めよ、まだ船の強化に使えそうなモノを作るのに必要みたいだし。それより、アンタは逆にどうする予定なのよ?」
時間潰しにいくつか作っていたが、素材が無いので作っていない物も多い。
何より造船所の改築を行ってから新たに作れば、より付与効果付きの物が生みだせる。
やっておいて損は無いことだ。
だが……いったいどこで素材集めをするつもりなのか、分かっていても目を逸らしたくなる問題だった。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる