1,888 / 2,518
偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その19
しおりを挟むユラルが遠距離射撃を続けた結果、見事に轟雷鳥は撃沈する。
あとはゆっくり果実に近づき、この迷宮を掌握するだけで終わった。
「──さて、攻略が終わったわけだが……ここからが本題だ」
「えっと、何をするのかな?」
「この迷宮は外部から隔絶されている。だからこそ、アルカから逃げるために隠れたわけだが……普通、それってバレるよな?」
「う、うん……外の吸魔樹も全部消し炭にされているだろうし、それ以降何もしていないなら何かある、そうでなくとも迷宮に隠れているかもって考えるよね」
アルカならそういうことを考える。
少なくとも、俺が自分の目を掻い潜って逃げたという考えはない……それは彼女が愚者だからではなく、完全に理解しているから。
実際、俺もアルカ相手にいっさいの痕跡を残さずに逃げるというのは難しい。
仮にできたとしても、それは俺だけの力ではなく眷属の助力が必須だ。
その場合、アルカは俺に勝てないと今は考えているので諦めるだろう。
しかし俺がそれをしないことを知っているので、反応が無いことを迷宮に結びつける。
「というわけで、ここの樹を伐り落として強制排出されます」
「……えっ? なんで、それだと逃げられることになるの?」
「ペナルティだな。イベント中、迷宮で問題行動を起こすと強引に外に出される。けど、また入れないように海湾都市に送られるって設定になっているんだ」
「なるほど……メルスンたちがイベント中だからこそ、できる作戦なんだね」
迷宮に仕込まれた法則を調べていたら、共通して見受けられたことだ。
外に出して、そのまま立ち入り禁止にしないのは……外にも祈念者が居るからだな。
そうなれば、逃げることもできずにPKされてしまう可能性が生まれる。
なのでそれは自己責任にするため、あえてちゃんと逃がしているのだ。
「ふむふむ、メルスンがやりたいことは理解したよ。でも……この樹をどうやって倒すのかって問題は残っているよね?」
「とりあえず確認するけど、ユラル独りでどうにかするってことはできないか?」
「……ちょっと難しいかも。最初に言ったけど、これは樹だけど迷宮だから。干渉して、どうこうするってのは無理だね」
「となると、強引にぶっ壊してどうにかするしかないな。普通なら『断界斧』を使えば一瞬だけど、今は使わない縛りみたいなものだからなー」
俺の持つ神器が一振り。
ありとあらゆる物を断ち切る、それは次元だって含まれている……なんてチート武器も使わない縛りをやっているので今回は無し。
なので今回は別の方法を、と考えてもさして思い浮かばない。
ノアを呼んで集中砲火……なら可能だろうけど、それだとなぁ。
「できるだけ、素材を集められる方法で倒すのが一番だよな。ユラルが丸裸にできれば、それが一番だったんだが……さて、どうやって干渉するか」
俺自身の力を使っても、迷宮そのものに多大なダメージを出すのは難しい。
ましてこの迷宮、地脈から膨大な力を吸い上げている……という設定のようだ。
要するに他の迷宮よりも、再生速度が速くなっている。
なのでやるなら一撃、ただし幹を圧し折るレベルでだ。
「うーん、どうすれば……」
「もうナースンでいいんじゃない?」
「ピンポイントでやれば、たしかにナースでもできると思うんだが……虚空魔法って、素材の劣化が著しいんだよ。虚無による侵蝕があるとかなんとかって、前に言われた」
うちの眷属でも、ある意味最高峰の魔法を扱う幼き神霊のナース。
彼女の使う虚空魔法であれば、並大抵のモノは無に帰すことだってできる。
ただ、そんな魔法なので威力調整ができず間違いなく大樹に多大な被害が出てしまう。
そうすると、俺の考えていた作戦が少しダメになりそうだからな……。
「いっそのこと、ユラルに任せるか?」
「えっ? でも、さっき難しいって……」
「精霊術師みたいに、俺が必要な分のエネルギーは供給するさ。それならユラルでも、通常以上に力が使えるだろう?」
「うーん……嫌な予感はするけど、私がやるならそれぐらい必要かな」
本来、精霊と契約者はそういったことをする間柄である。
精霊も精霊で、魔力を成長の糧にすることができるので、相互に益のある関係なのだ。
「じゃあ、神気も注ぐから固有スキルをいっしょに使ってくれ」
「うぅ……そんな気がしてたよ」
「なんだか俺の供給って、やけに嫌がられるからな。ちゃんと緻密な操作で、ゆっくりと注ぐから安心してくれ」
「だ、だから、それがダメだって……!」
ゆっくり丁寧に、神眼で許容限界を確認しながら神気を注いでいく。
実はすでに何度かやっているので、初期に比べてだいぶ通しやすくなっていた。
昔は痛みに耐える感じだったが、今はなんだか別のものに耐えるって感じになっている気がする……苦しまないように、俺も気を付けて注いでいるつもりなんだが。
やがて、ユラルの限界まで神気を注ぎ終えると、彼女から手を離す。
なぜか荒い息を吐き、顔を紅潮させる彼女からすっと目を逸らした。
……また失敗したみたいだ。
まあ、それでも必要な分のエネルギーは供給したし、これでなんとかなるだろう。
0
お気に入りに追加
510
あなたにおすすめの小説
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
DPO~拳士は不遇職だけど武術の心得があれば問題ないよね?
破滅
ファンタジー
2180年1月14日DPOドリームポッシビリティーオンラインという完全没入型VRMMORPGが発売された。
そのゲームは五感を完全に再現し広大なフィールドと高度なグラフィック現実としか思えないほどリアルを追求したゲームであった。
無限に存在する職業やスキルそれはキャラクター1人1人が自分に合ったものを選んで始めることができる
そんな中、神崎翔は不遇職と言われる拳士を選んでDPOを始めた…
表紙のイラストを書いてくれたそらはさんと
イラストのurlになります
作品へのリンク(https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=43088028)
虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。
Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。
最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!?
ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。
はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切)
1話約1000文字です
01章――バトル無し・下準備回
02章――冒険の始まり・死に続ける
03章――『超越者』・騎士の国へ
04章――森の守護獣・イベント参加
05章――ダンジョン・未知との遭遇
06章──仙人の街・帝国の進撃
07章──強さを求めて・錬金の王
08章──魔族の侵略・魔王との邂逅
09章──匠天の証明・眠る機械龍
10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女
11章──アンヤク・封じられし人形
12章──獣人の都・蔓延る闘争
13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者
14章──天の集い・北の果て
15章──刀の王様・眠れる妖精
16章──腕輪祭り・悪鬼騒動
17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕
18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王
19章──剋服の試練・ギルド問題
20章──五州騒動・迷宮イベント
21章──VS戦乙女・就職活動
22章──休日開放・家族冒険
23章──千■万■・■■の主(予定)
タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。
俺と異世界とチャットアプリ
山田 武
ファンタジー
異世界召喚された主人公──朝政は与えられるチートとして異世界でのチャットアプリの使用許可を得た。
右も左も分からない異世界を、友人たち(異世界経験者)の助言を元に乗り越えていく。
頼れるモノはチートなスマホ(チャットアプリ限定)、そして友人から習った技術や知恵のみ。
レベルアップ不可、通常方法でのスキル習得・成長不可、異世界語翻訳スキル剥奪などなど……襲い掛かるはデメリットの数々(ほとんど無自覚)。
絶対不変な業を背負う少年が送る、それ故に異常な異世界ライフの始まりです。
モノ作りに没頭していたら、いつの間にかトッププレイヤーになっていた件
こばやん2号
ファンタジー
高校一年生の夏休み、既に宿題を終えた山田彰(やまだあきら)は、美人で巨乳な幼馴染の森杉保奈美(もりすぎほなみ)にとあるゲームを一緒にやらないかと誘われる。
だが、あるトラウマから彼女と一緒にゲームをすることを断った彰だったが、そのゲームが自分の好きなクラフト系のゲームであることに気付いた。
好きなジャンルのゲームという誘惑に勝てず、保奈美には内緒でゲームを始めてみると、あれよあれよという間にトッププレイヤーとして認知されてしまっていた。
これは、ずっと一人でプレイしてきたクラフト系ゲーマーが、多人数参加型のオンラインゲームに参加した結果どうなるのかと描いた無自覚系やらかしVRMMO物語である。
※更新頻度は不定期ですが、よければどうぞ
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる