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偽善者と渡航イベント 三十月目
偽善者と渡航イベント前篇 その17
しおりを挟むユラルという樹聖霊との契約によって、俺は木属性との親和性が高まっている。
さらにユラル自身の力の恩恵で、魔法を使わずとも木々を少しなら操ることも可能だ。
だがその程度では、アルカの探知網から逃れることは敵わない。
だからこそユラル自身を呼びだして、力を貸してもらうのだ。
「じゃあ、とりあえず道を創るね」
「いったいどこに……って、凄いな」
「『地路樹』って言って、地面の中に道を創れる樹なんだよ。私のオリジナルだね」
「これって、どういう目的があって造ったものなんだよ」
ユラル曰く、ずっと前に俺が地中に潜っていたかららしい。
地下に何かがあることも考えて、そこへ行くための手段を確保したんだとか。
「まあ、お陰様でこうして逃げることができているんだからいいけど」
「そうだ、メルスンはついでにこれも持っておいて」
「葉っぱ……なんだ、化かすのか?」
「『幽身柳』、持っていると一時的に幽体になれるんだよ。保険程度だけど、何もないよりはマシになるから」
ユラルの育樹能力はある意味万能なので、望む樹木を自在に創れる。
今は補助系の樹木ばっかりだが、その気になれば迎撃もできるんだろうなー。
「なあユラル、魔法の妨害ができるやつとかは無いのか?」
「……うーん、やり過ぎじゃないかな?」
「たぶん、俺たちが地下に潜んでいるってバレたら全力で魔法を撃ってくるはずだ。地形はめちゃくちゃ、おまけにそんな威力の魔法がそのまま俺たちを襲──」
「『吸魔樹』、これをとりあえず地上に生やしておくね。一定量を吸ったら種子を飛ばして増えるから、しばらくは持つと思う」
地下に居る俺たちには分からないが、まあユラルがそう言うならなんとかなるだろう。
神眼を使えば把握できるかもしれないが、相手はアルカ……うん、油断はできない。
「うわっ!」
「えっと、どうかしたのか?」
「物凄い勢いで吸魔樹が増えてるの。間違いなく、アルカンが大量の魔力を放出してる」
「探知の魔力も吸収してそうだな……たぶんアルカなら、その樹だけでユラルの協力に気づくだろうな」
ユラルがそういう樹に関する力を持っていることは知っているので、見たことのない未知の樹木からそれを察するだろう。
そして、今は魔力を吸われるという現象からそれがバレた。
だからこそ地面に居ると推測して、魔力をぶっ放している……可能性もある。
「なあユラル、あれの許容量って……」
「一定数以上には増えないようにしてあるけど……それじゃあ無理だよね」
「転移系の樹木とかは?」
「メルスンが思ってるほど、万能でも無いから。どこの世界に、自由自在に空間魔法を使いこなす樹があるの?」
うーん、この世界ならありそうな気もするけど……最悪、俺が創るのでもいいな。
ユラルは精霊関係は厳しいが、樹木関係は割と判断が緩いし。
◆ □ ◆ □ ◆
万植の一本樹
大きな大きな一本の樹。
少なくとも現実世界にある樹なんて目じゃないほど、世界記録なんてあっさりと超える天を貫く巨塔がそびえ立っている。
アルカの包囲網を掻い潜り、予め把握していた迷宮に逃げ延びた。
このイベントエリアの迷宮は、集団ごとに別位相に転送するので安心だ。
「……こんなの見たこと無いよ。これもメルスンの世界の人たちが造ったのかな?」
「情報だけ提供して、運営神の配下が形にしたんだろうな。それでユラル、これを掌握することってできるか?」
「うーん、迷宮だから無理みたい。いちおう構造は覚えたから、エネルギーさえあれば同じ物を作ることはできるよ」
ユラルの固有スキル【神樹支配】は、あらゆる木の原点すらも操ることができる。
その応用で、彼女はどんな木でも操れるし生み出すこともできた。
今回は樹ではなく樹の形をした迷宮だったので、操ることはできなかったようだけど。
代わりに再現することはできたみたいなので、調べるならまたそのときにすればいい。
「この迷宮は木登りか内側の洞から登っていく感じのタイプだな。同じような感じの山型迷宮があった」
「なるほどなるほど……つまり、外側からの方が速いんだね」
「話が速くて助かるよ。というわけで、何か便利な樹を出してくれ」
「……私は猫型ロボットじゃないんだけど。まあ、でもあるよ──『寄生樹』~」
なんだかダミ声をやっているつもりなんだろうが、美少女はダミ声をやろうとしても美少女なんだなぁと思わせるいい声だった。
ともあれ取りだした枝サイズの樹を大木に突き刺すと、見る見るうちにそれが大きく成長する。
「……これでどう登るんだ?」
「生長の仕方を調整して、昇降盤みたいにしてみようと思うの」
「ヤバい、物凄く面白そうなんだけど。すぐにやってくれ」
「ふっ、メルスンならきっとそう言ってくれると思ったよ。ラジャー!」
ユラルが軽く目を閉じて、新たに取り出した寄生樹に魔力を籠めた。
俺たちは大木のすぐ近くに移動し、ユラルは枝を地面に埋まった根に枝を突き刺す。
「うおっ、こりゃあ凄いな」
「へへー、どうよ?」
「マジで凄い、超凄い。元々ない語彙力がより無くなるぐらい超々凄いぞ」
「ふっふーん!」
ぐんぐん伸びていく寄生樹。
こちらも設定していたのか、樹の天辺であり俺たちの足元の部分は話していた通り昇降盤のような形をしている。
なので落ちるという心配をせず、楽をすることができた。
……このままゴール出来たら、楽なんだろうけどな。
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